石楠花 直

どっぷり昭和の売れない物書き屋だす。 本にならなくても多くの方に作品を読んでいただきた…

石楠花 直

どっぷり昭和の売れない物書き屋だす。 本にならなくても多くの方に作品を読んでいただきたく登録しただす。 宜しくお願いしますだすなー。

マガジン

  • KIZUNAWA

  • 天国へのmail address

  • 『野菜大王』と『文具大王』

    細かく投稿した小説をマガジンにしてみました。是非一話からお楽しみいただけると幸いです。もうすぐ最終回になります。

  • 石楠花直のものがたり集

    石楠花 直(しゃくなげなお)です。 子どもが主人公の小説を書いてみました。クリエータの皆さん是非読んでください。

記事一覧

【小説】KIZUNAWA④        繋げ俺たちの絆輪

 翌日の告別式は駅伝部とサッカー部、同級生は公休扱いで出席が許された。昌福寺住職の読経後、鎌田先輩の若い死に対して説教が述べられた。川島は今日も立っていられなか…

石楠花 直
6日前
54

【小説】KIZUNAWA③        誓いの葬列

誓いの葬列  翌日の日曜日、太陽は練習に向かう途中、茉梨子の家に寄った。「心配かけてごめんね」茉梨子の母親は恐縮して言った。 「昨日から部屋に閉じ籠ってしまい、…

石楠花 直
13日前
58

【小説】KIZUNAWA②          溢れ出た涙の理由

 楠太陽(くすのきたいよう)はスタジアムまでの送迎バスの中にいた。本来サッカー部の彼は駅伝部の応援スタッフとして最終中継所まで走って来た同級生の雅人を迎え入れ、…

石楠花 直
2週間前
83

【小説】KIZUNAWA①            全国高校駅伝長野県予選

 マネージャーを含めて八人の駅伝部、誰一人怪我をする事が許されない。そんな状況の中、彼らが選んだ戦術は、インターハイを捨て全国高等学校駅伝競走大会一本に勝負を賭…

石楠花 直
3週間前
100

【小説】天国へのmail address 最終章『黄泉の国』とは

エピローグ  朝日ヶ丘公園のベンチで橘と優輔は優輔のスマホでその動画を見ていた。匿名のスピーカーが次々とライブ配信を広げて動画は完全に炎上していた。 「お父さん…

石楠花 直
1か月前
90

【小説】天国へのmail address第九章・引き裂かれた報告書

兄に渡ったバトン  橘が朝日ヶ丘公園に戻ると優輔が寂しそうにひとり、ベンチに座っていた。橘が横に座ると優輔は目を赤らめながら橘を見た。 「ママとお別れするのは辛…

石楠花 直
1か月前
107

【小説】天国へのmail address第八章・勇気の言葉と正義の刃

第三者委員会の授業参観  宮山小学校の会議室には第三者委員会の委員が集まっていた。数日間の教師への聞き取り調査に加え、保護者や児童への面談も実施してきた。倉田…

石楠花 直
1か月前
78

【小説】天国へのmail address第七章 戦いの日・会えない二人

橘が黄泉の国(よみのくに)に渡り、再度現世に戻る申請をし、許可が下りた時には、黄泉の国の時間では七日の月日が流れていた。しかし、現世の時間では一日しか経っていな…

石楠花 直
1か月前
87

【小説】天国へのmail address第六章・ひと時の奇跡から『黄泉の国』へ

ひと時の奇跡  病室で紀子は涙にくれていた。ほんの数十分前に医師から臨終を宣告された。覚悟をしていた事とは言え、現実になると涙が溢れて立っても居られない状況であ…

石楠花 直
1か月前
96

【小説】天国へのmail address     第五章・そうだったのか優君!

旅立ちの時  橘は清々しい思いで山間の舗装がされていない道を歩いていた。周りにいろいろな世代の人が同じ道を真っすぐに歩いている。 「ずいぶん長い時間この道を歩いて…

石楠花 直
2か月前
139

【小説】天国へのmail address 第四章              いじめの刃

いじめの刃  授業が終わり、給食の準備が慌ただしい教室で貴子は俊に話しかけた。 「俊君! 国語の教科書見せて!」 俊は首を振って自分の机を抱え込んだ。 「そうだよ、…

石楠花 直
2か月前
99

【小説】天国へのmail address第三章・勇気の意味

朝デート 「優君おはよう!」 ラジオ体操が終わるのを待って橘は優輔に声を掛けた。 「おはよう! 龍馬さん」 「昨日、優君が言っていた学校の事、新聞に載っていたね。優…

石楠花 直
2か月前
117

【小説】天国へのmail address    第一・二章までのあらすじと第三・四章の予告

体調不良から仕事を引退した橘克巳は、早朝の散歩途中、笑顔ながらもどこか影を持った少年優輔と出会う。 スマホゲームを切っ掛けに仲良くなった橘と優輔、しかし、優輔の…

石楠花 直
2か月前
81

【小説】天国へのmail address 第二章・夏休みの大事件

夏休みの大事件  橘が家に戻る頃には、朝顔が元気いっぱい我先にと晴れわたる大空に向かって背伸びをしていた。橘はポストから朝刊を取りいつもより軽快に言った。 「た…

石楠花 直
2か月前
155

【小説】天国へのmail address 第一章・優君との出逢い

出逢い お天道様がまどろみから覚めて伸びをする。東の空から薄明かりが浮かび上がると夜空で躍り廻っていた星達の輝きを、魔術のように消していく。 朝顔のつるに溜まっ…

石楠花 直
2か月前
151

『野菜大王』と『文具大王』最終章

ネロがくれたもの  放課後、防災無線が地域の方々へ児童の下校見守りをお願いしていた。康太も普段の道を下校していた。前にはサッカー部の先輩が女子に囲まれて歩いてい…

石楠花 直
2か月前
88
【小説】KIZUNAWA④        繋げ俺たちの絆輪

【小説】KIZUNAWA④        繋げ俺たちの絆輪

 翌日の告別式は駅伝部とサッカー部、同級生は公休扱いで出席が許された。昌福寺住職の読経後、鎌田先輩の若い死に対して説教が述べられた。川島は今日も立っていられなかった。
 進行役の方が低くて静かな声でゆっくりと語り掛けた。
「最後のお別れです。どうか故人に持って行って頂きたい物がありましたら棺にお納め下さい。特にお手持ちのない方は、お配りいたしました生花を故人にお納め下さい」
航平の思い出の品が次々

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【小説】KIZUNAWA③        誓いの葬列

【小説】KIZUNAWA③        誓いの葬列

誓いの葬列

 翌日の日曜日、太陽は練習に向かう途中、茉梨子の家に寄った。「心配かけてごめんね」茉梨子の母親は恐縮して言った。
「昨日から部屋に閉じ籠ってしまい、ご飯も食べないのよ」本当に心配している様子だ。
(今、家の前にいる)
太陽はM・ラインを送ったが既読にはならない。
(飯ぐらい食べないと駄目だぞ)
既読にはならない。
(また帰りに寄るから)
やはり既読にはならない。
太陽は茉梨子の母親

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【小説】KIZUNAWA②          溢れ出た涙の理由

【小説】KIZUNAWA②          溢れ出た涙の理由

 楠太陽(くすのきたいよう)はスタジアムまでの送迎バスの中にいた。本来サッカー部の彼は駅伝部の応援スタッフとして最終中継所まで走って来た同級生の雅人を迎え入れ、襷を引き継いだ航平のジャージや私物を集めてゴールまで運ぶのが仕事だった。
雅人は、区間新記録をたたき出し、襷を繋ぎ終えた安堵感からか隣の席で静かな寝息を立てている。
太陽は雅人に自分のジャージを掛けると車窓から見えるスタジアムに目をやった

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【小説】KIZUNAWA①            全国高校駅伝長野県予選

【小説】KIZUNAWA①            全国高校駅伝長野県予選

 マネージャーを含めて八人の駅伝部、誰一人怪我をする事が許されない。そんな状況の中、彼らが選んだ戦術は、インターハイを捨て全国高等学校駅伝競走大会一本に勝負を賭けると言う事であった。
秋、長野県下において無名の上田北高等学校駅伝部は快挙を成し遂げる。全国大会出場の切符を勝ち取ったのだ。しかし、ゴール直後に彼らを襲ったのは、全国大会出場も危ぶまれる大悲劇であった。こんな状況の中、次々と駅伝部に襲い掛

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【小説】天国へのmail address 最終章『黄泉の国』とは

【小説】天国へのmail address 最終章『黄泉の国』とは

エピローグ

 朝日ヶ丘公園のベンチで橘と優輔は優輔のスマホでその動画を見ていた。匿名のスピーカーが次々とライブ配信を広げて動画は完全に炎上していた。
「お父さんとお母さん、お兄さんも強いね」
優輔が言った。
「パパとママじゃないの?」
橘は優輔の頭をなでながら笑っていた。優輔もちょっと照れながら笑った。
「モンゲーで遊びたいな」
「向こうに行ったらモンゲーやり放題だよ。海外でしか捕まえられない

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【小説】天国へのmail address第九章・引き裂かれた報告書

【小説】天国へのmail address第九章・引き裂かれた報告書

兄に渡ったバトン

 橘が朝日ヶ丘公園に戻ると優輔が寂しそうにひとり、ベンチに座っていた。橘が横に座ると優輔は目を赤らめながら橘を見た。
「ママとお別れするのは辛いよね」
橘がそう言うと優輔はコクリと頷いた。
「また会えるよ」
「ママに会えるの?」
「ママにもパパにも会える。時間は随分かかるけれど『黄泉の国』で龍馬さんと一緒に待っていよう」
橘がそう言うと優輔はまたこくりと頷いた。その時だ、橘の

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【小説】天国へのmail address第八章・勇気の言葉と正義の刃

【小説】天国へのmail address第八章・勇気の言葉と正義の刃

第三者委員会の授業参観

 宮山小学校の会議室には第三者委員会の委員が集まっていた。数日間の教師への聞き取り調査に加え、保護者や児童への面談も実施してきた。倉田がゴリ押しをして再度実施された四学年児童全体に対する『いじめ』に関するアンケート調査の集計と検証もすでに終了していた。
「委員の皆様には大変お疲れ様でございます。本校における『いじめ』に関する調査も本日が最終日、四時間目の授業参観の後、こ

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【小説】天国へのmail address第七章 戦いの日・会えない二人

【小説】天国へのmail address第七章 戦いの日・会えない二人

橘が黄泉の国(よみのくに)に渡り、再度現世に戻る申請をし、許可が下りた時には、黄泉の国の時間では七日の月日が流れていた。しかし、現世の時間では一日しか経っていない。告別式で初七日の法要も同時に行ってしまうからだ。以下は現世での話になる。第四章を参照

別れと再会

女性は隣人から回覧板を受け取ると後ろに立っていた優輔を見つける。隣人が立ち去るのを見定めてから優輔は恥ずかしそうに語り出す。
「あの

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【小説】天国へのmail address第六章・ひと時の奇跡から『黄泉の国』へ

【小説】天国へのmail address第六章・ひと時の奇跡から『黄泉の国』へ

ひと時の奇跡
 病室で紀子は涙にくれていた。ほんの数十分前に医師から臨終を宣告された。覚悟をしていた事とは言え、現実になると涙が溢れて立っても居られない状況であった。本来ならば医師が臨終の宣告をした時点で、看護師は患者だった方の体に取り付けられた器具や設備を外し、消毒をして次の患者用にスタンバイするのが原則だ。しかし、橘の担当看護師だった渡辺雅恵(わたなべまさえ)はそれをしなかった。紀子の落胆が大

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【小説】天国へのmail address     第五章・そうだったのか優君!

【小説】天国へのmail address     第五章・そうだったのか優君!

旅立ちの時
 橘は清々しい思いで山間の舗装がされていない道を歩いていた。周りにいろいろな世代の人が同じ道を真っすぐに歩いている。
「ずいぶん長い時間この道を歩いているけれど疲れないですね?」
橘は隣を歩いていた老婆に尋ねてみた。
「そうですね。この道は何処まで続くのやら長い道ですね」
老婆は息が切れる事もなくすいすいと歩きながら言った。
「大丈夫ですか? 少し休んだ方が良いのではありませんか?」

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【小説】天国へのmail address 第四章              いじめの刃

【小説】天国へのmail address 第四章              いじめの刃

いじめの刃
 授業が終わり、給食の準備が慌ただしい教室で貴子は俊に話しかけた。
「俊君! 国語の教科書見せて!」
俊は首を振って自分の机を抱え込んだ。
「そうだよ、教科書見せて」
優輔も一緒になって貴子の横に立っていた。
「みせて!」
貴子は半分力ずくで俊の国語の教科書を取り上げて、授業の時に俊に変わって読んだページを開いてみた。
「どういう事?」
俊の教科書は所々ページが破られていた。
「先生の

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【小説】天国へのmail address第三章・勇気の意味

【小説】天国へのmail address第三章・勇気の意味

朝デート
「優君おはよう!」
ラジオ体操が終わるのを待って橘は優輔に声を掛けた。
「おはよう! 龍馬さん」
「昨日、優君が言っていた学校の事、新聞に載っていたね。優君は何年生なの?」
「僕、僕も四年生」
「そうか、亡くなったのはお友達?」
「龍馬さんごめん、その事は言っては駄目とパパとママに言われてる」
「そうか、そうだね、龍馬さんが悪かったね。もう聞かないよ。でもね、優君がもしも学校で辛い状況に

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【小説】天国へのmail address    第一・二章までのあらすじと第三・四章の予告

【小説】天国へのmail address    第一・二章までのあらすじと第三・四章の予告

体調不良から仕事を引退した橘克巳は、早朝の散歩途中、笑顔ながらもどこか影を持った少年優輔と出会う。
スマホゲームを切っ掛けに仲良くなった橘と優輔、しかし、優輔の学校では、夏休みに児童が死亡するという事件が起きていた。自殺か、事故か?
橘とその妻紀子は母校で起こった事件に困惑する。
変わり教育の環境の中で、一体優輔の小学校で何が起こっているのか?
優輔は自分達が抱える問題に立ち向かう事が出来るのか?

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【小説】天国へのmail address 第二章・夏休みの大事件

【小説】天国へのmail address 第二章・夏休みの大事件

夏休みの大事件

 橘が家に戻る頃には、朝顔が元気いっぱい我先にと晴れわたる大空に向かって背伸びをしていた。橘はポストから朝刊を取りいつもより軽快に言った。
「ただいま」
そう言う橘に向かって、
「お帰りなさい。いつもより時間がかかりましたが、少し遠くまで歩いたのですか? お医者様には決して無理をしないようにと言われているのですから気を付けて下さいよ」
妻の紀子(のりこ)は心配顔でと言った。

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【小説】天国へのmail address 第一章・優君との出逢い

【小説】天国へのmail address 第一章・優君との出逢い

出逢い

お天道様がまどろみから覚めて伸びをする。東の空から薄明かりが浮かび上がると夜空で躍り廻っていた星達の輝きを、魔術のように消していく。
朝顔のつるに溜まった夜露が、ぽたりと地面に落ちる音が一日の始まりを告げる。
朝日ケ丘公園のベンチには老人がスマホを片手に座っていた。
橘克巳(たちばなかつみ)はこの夏で定年を迎えた。会社からは延長の話もあったが体調不良を理由に退職の道を選んだのだ。事実、

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『野菜大王』と『文具大王』最終章

『野菜大王』と『文具大王』最終章

ネロがくれたもの

 放課後、防災無線が地域の方々へ児童の下校見守りをお願いしていた。康太も普段の道を下校していた。前にはサッカー部の先輩が女子に囲まれて歩いている。先輩はエースストライカーで勉強も学年でトップクラス、康太とは比べ物にならないヒーローだ。網に入ったサッカーボールを左の肩から下げて、右手でペン回しをしながら歩く姿は格好が良い。そんな平和な風景に、突然春風が襲い掛かった。クルクルと先輩

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