石楠花 直

どっぷり昭和の売れない物書き屋だす。 本にならなくても多くの方に作品を読んでいただきた…

石楠花 直

どっぷり昭和の売れない物書き屋だす。 本にならなくても多くの方に作品を読んでいただきたく登録しただす。 宜しくお願いしますだすなー。

マガジン

  • KIZUNAWA

  • 石楠花直のものがたり集

    石楠花 直(しゃくなげなお)です。 子どもが主人公の小説を書いてみました。クリエータの皆さん是非読んでください。

  • 天国へのmail address

  • 『野菜大王』と『文具大王』

    細かく投稿した小説をマガジンにしてみました。是非一話からお楽しみいただけると幸いです。もうすぐ最終回になります。

記事一覧

【小説】KIZUNAWA㉒         都大路その2

見送った三人はゆっくりと歩き出した。 「少し喉が渇いた」 達也が言い出したのは六区のコース内にある神社の近くであった。 「少し先の神社で休憩しようか」 茉梨子の提案…

石楠花 直
2日前
38

【小説】KIZUNAWA㉑        いよいよ都大路へ

 達也と太陽そして茉梨子は桜井が運転する車で京都に向かっていた。二泊三日の京都合宿は雅人の提案だった。宮島先生に無理を言って三人だけ前泊の宿を取ってもらったので…

石楠花 直
10日前
46

【小説】KIZUNAWA⑳        吉本ノートが伝えたかった事

 月曜日の放課後だった。 「西之園に頼みがある」 突然言い出したのは優生であった。 「なあに?」 「疲れているとは思うけれど居残り練習に付き合ってもらいたい」 「居…

石楠花 直
2週間前
49

【小説】KIZUNAWA⑲        休日・上田市陸上連盟

 限られた時間は残り一週間になっていた。駅伝部部員とサッカー部・陸上部の部員に集合が掛かったのは金曜日の放課後の事である。 「明日の土曜日は駅伝部の練習を休みに…

石楠花 直
3週間前
63

【小説】KIZUNAWA⑱        牛丼の戸沢家・無口な親仁の一言

 戸沢家の店内は静まり返っていた。白いコックコートに黒のエプロン姿の親仁はやはり無口で腕を組んで窓の外を見ていた。「京都に戸沢家さんはないからね」遠くに、キコキ…

石楠花 直
3週間前
48

【小説】KIZUNAWA⑰        京都のコースをイメージしろ

 ロード練習初日の夜、達也たちが家に戻ると窓から明かりが漏れていた。「桜井さんが帰ってきているよ」 太陽が達也の肩を叩いた。 「本当?」 「照明が点いているからね…

石楠花 直
1か月前
53

【小説】KIZUNAWA⑯        ロード練習開始

 横川と原子は河山駅前にいた。駅前交番では八木巡査が腕を組んで彼らを見据えていた。 「原子!」 横川はバイクのエンジンを切ってヘルメットを取ると言った。 「どうし…

石楠花 直
1か月前
58

【小説】KIZUNAWA⑮         護られなかった正義

  校長室でそんな攻防や宿の問題で教師たちが奮闘していた事など駅伝部員たちは知る由もなかった。達也たちは引田からもらったテザーの長さを一〇センチメートルに調整し…

石楠花 直
1か月前
35

【小説】KIZUNAWA⑭        校長室の攻防

  校長室のソファーに二人の来客が座っていた。宮島がその応対をしていたが遅れて校長が部屋に入って来た。 「お待たせして申し訳ありませんな」 校長は二人の客人に頭を…

石楠花 直
1か月前
60

【小説】KIZUNAWA⑬・温かい協力者

 練習の前に陸上部の村田が数人の部員を連れて来た。 「柞山キャプテンから頼まれていた応援隊を連れてきました」 陸上部のマネージャーをしています石井智子二年と一年の…

石楠花 直
1か月前
65

【小説】KIZUNAWA⑫ 駅前事件・君のバイクは泣いている!

 本間は横川の首根っこを捕まえると自分の白バイまで連れて行った。 「君はどうしてそんなに問題を起こしたいのかな?」 横川は不貞腐れてその問いには答えなかった。 「…

石楠花 直
1か月前
71

【小説】KIZUNAWA⑪        駅前事件

 達也と太陽は一気に階段を上り切ってロータリーの横を歩きながら見守り隊の引田に会釈をした。その横を白バイが一台、ロータリーを一回りして駅前交番の横に止まるのが見…

石楠花 直
2か月前
73

【小説】KIZUNAWA⑩         テザー・二人の合宿

 太陽は横川たちの行動に注意しながら歩道をゆっくり歩いた。 「楠! お前サッカー部だろ。何でそんな女々しい事やってんだ?」 横川が達也と太陽を見つけて挑発して来た…

石楠花 直
2か月前
59

【小説】KIZUNAWA⑨            テザー・二人を繋ぐ絆

 放課後、雅人は村田先生を訪ねていた。 「ご厚意を、無下にお断りする事になり申し訳ありませんでした」 雅人は礼儀を尽くした。 「無下ではありませんね。現に君はここ…

石楠花 直
2か月前
62

【小説】KIZUNAWA⑧            大人たちの戦いが始まる

 宮島はその足で校長室に向かっていた。ドアを四回ノックする。 「宮島です。お時間を頂けますか?」 「はい、お入りください」 上田北高等学校校長青山康助(あおやまこ…

石楠花 直
2か月前
69

【小説】KIZUNAWA⑦        七番目のランナー・僕では駄目ですか?

 選手登録の最終日の朝、雅人は悪あがきと分かっていたが駅前に行ってみた。しかし、横川たちの姿はなかった。引田が申し訳なさそうに首を振った。雅人が諦めて学校に戻る…

石楠花 直
3か月前
84
【小説】KIZUNAWA㉒         都大路その2

【小説】KIZUNAWA㉒         都大路その2

見送った三人はゆっくりと歩き出した。
「少し喉が渇いた」
達也が言い出したのは六区のコース内にある神社の近くであった。
「少し先の神社で休憩しようか」
茉梨子の提案に二人は頷いた。と言うより魔女にこびを売る姿にも見えた。
 
中継所から一キロ弱歩くと大通りに面して大きな赤い鳥居がある。境内は通りから奥まったところにあり、高い木々に囲まれ、夏には木漏れ日で幻想的な涼しさを醸し出す静かな場所だった。

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【小説】KIZUNAWA㉑        いよいよ都大路へ

【小説】KIZUNAWA㉑        いよいよ都大路へ

 達也と太陽そして茉梨子は桜井が運転する車で京都に向かっていた。二泊三日の京都合宿は雅人の提案だった。宮島先生に無理を言って三人だけ前泊の宿を取ってもらったのである。と言っても結局倉田女将に頼み込んで上田北高がキャンプを張る京都雅グラウンドホテルに無理を承知でお願いしたのが現実だった。早朝の上田を出発すると桜井の優しい運転で茉梨子以外の車中は夢の中だ。京都に着いたのは正午を少し回った頃だった。京都

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【小説】KIZUNAWA⑳        吉本ノートが伝えたかった事

【小説】KIZUNAWA⑳        吉本ノートが伝えたかった事

 月曜日の放課後だった。
「西之園に頼みがある」
突然言い出したのは優生であった。
「なあに?」
「疲れているとは思うけれど居残り練習に付き合ってもらいたい」
「居残り練習?」
「襷リレーの練習がしたいんだ。俺、どうしても不安で」
「分かった。僕も自信がなかったからお願いします」
事実、達也と太陽も不安であった。
 達也たちは、ロード練習終了後に学校へ戻った。照明灯の下で優生たちは、まだ走っていた

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【小説】KIZUNAWA⑲        休日・上田市陸上連盟

【小説】KIZUNAWA⑲        休日・上田市陸上連盟

 限られた時間は残り一週間になっていた。駅伝部部員とサッカー部・陸上部の部員に集合が掛かったのは金曜日の放課後の事である。
「明日の土曜日は駅伝部の練習を休みにします」
宮島は村田の了解を取ったうえで部員に告げた。
「休んでも大丈夫でしょうか?」
雅人が不安そうに聞く。
「張り詰めた糸は切れやすいものです。残り一週間です。心と体を休めて日曜日から再開します」
宮島は雅人の肩に手を置いて「君たちは頑

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【小説】KIZUNAWA⑱        牛丼の戸沢家・無口な親仁の一言

【小説】KIZUNAWA⑱        牛丼の戸沢家・無口な親仁の一言

 戸沢家の店内は静まり返っていた。白いコックコートに黒のエプロン姿の親仁はやはり無口で腕を組んで窓の外を見ていた。「京都に戸沢家さんはないからね」遠くに、キコキコキコ、茉梨子の自転車は何時もの声を響かしていた。
「あの子たち、全国高校駅伝競走大会に出場するんだって」
「……」
「長野県予選でキャプテンを失って、諦め掛けた出場を救ったのが視覚障がい者の彼なんだってさ」
「……」
「凄いよね? 諦めな

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【小説】KIZUNAWA⑰        京都のコースをイメージしろ

【小説】KIZUNAWA⑰        京都のコースをイメージしろ

 ロード練習初日の夜、達也たちが家に戻ると窓から明かりが漏れていた。「桜井さんが帰ってきているよ」
太陽が達也の肩を叩いた。
「本当?」
「照明が点いているからね」
二人が玄関を開ける。
「ただいま!」
元気に叫ぶ。
「お帰りなさいませ」
桜井の優しい声が帰って来た。
「今日の夕食はハンバーグでございます。もう少し時間が掛かりますので先に入浴を済ませて下さい」
桜井はそう言うとフライパンのふたを一

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【小説】KIZUNAWA⑯        ロード練習開始

【小説】KIZUNAWA⑯        ロード練習開始

 横川と原子は河山駅前にいた。駅前交番では八木巡査が腕を組んで彼らを見据えていた。
「原子!」
横川はバイクのエンジンを切ってヘルメットを取ると言った。
「どうした?」
原子もヘルメットを脱ぐ。
「今年のクリスマス、京都に行かないか?」
「ツーリングか、京都は遠いぞ」
「ああ、だから」
「メットを改良しろってか?」
原子はヘルメットを軽く叩いていた。
「出来るか?」
「無線を繋いでスマホに連動させ

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【小説】KIZUNAWA⑮         護られなかった正義

【小説】KIZUNAWA⑮         護られなかった正義

  校長室でそんな攻防や宿の問題で教師たちが奮闘していた事など駅伝部員たちは知る由もなかった。達也たちは引田からもらったテザーの長さを一〇センチメートルに調整してトラック練習を続ける。
テザーの長さが一〇センチメートルより短くなると失格になってしまう。だからと言って長くすると達也と太陽の息が合わなくなる。そこで走る時は一〇センチメートルに、それ以外は最大の五〇センチメートルへと調整する事にした。新

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【小説】KIZUNAWA⑭        校長室の攻防

【小説】KIZUNAWA⑭        校長室の攻防

  校長室のソファーに二人の来客が座っていた。宮島がその応対をしていたが遅れて校長が部屋に入って来た。
「お待たせして申し訳ありませんな」
校長は二人の客人に頭を下げた。
「これは校長先生! 篠原と申します」
一人の男が名刺を差し出して言った。名刺には日本陸上競技連盟会長の肩書が綴られていた。
「本校校長の青山です。で日本陸連の会長が本校にどの様な御用でしょう?」
「青山さん! とぼけてもらっちゃ

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【小説】KIZUNAWA⑬・温かい協力者

【小説】KIZUNAWA⑬・温かい協力者

 練習の前に陸上部の村田が数人の部員を連れて来た。
「柞山キャプテンから頼まれていた応援隊を連れてきました」
陸上部のマネージャーをしています石井智子二年と一年の工藤望智(くどうみさと)です。それと中距離の練習コーチとして三年の岡田真一(おかだしんいち)と山中敏明(やまなとしあき)であった。
「最後に一〇キロのコーチは私、村田がやります」
村田は言った。
「智子! 手伝ってくれるの?」
茉梨子は嬉

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【小説】KIZUNAWA⑫                        駅前事件・君のバイクは泣いている!

【小説】KIZUNAWA⑫ 駅前事件・君のバイクは泣いている!

 本間は横川の首根っこを捕まえると自分の白バイまで連れて行った。
「君はどうしてそんなに問題を起こしたいのかな?」
横川は不貞腐れてその問いには答えなかった。
「君のバイクをここに持って来なさい!」
本間はロータリーに倒れている横川のバイクを指さす。横川はしぶしぶ自分のバイクを起こして引いて来た。本間が彼のバイクのエンジンを掛けてアクセルを噴かす。バリバリババンというけたたましい音が鳴り響いた。

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【小説】KIZUNAWA⑪        駅前事件

【小説】KIZUNAWA⑪        駅前事件

 達也と太陽は一気に階段を上り切ってロータリーの横を歩きながら見守り隊の引田に会釈をした。その横を白バイが一台、ロータリーを一回りして駅前交番の横に止まるのが見えた。白バイを避ける様に横川と原子のバイクが太陽たちの横に止まるとバリバリと音を立てたまま話しかけて来た。
「お前ら! 全国大会走るんだってな」
横川の後ろで原子がにやにや笑いながら達也たちを見ていた。
「達ちゃん行こう!」
太陽は立ち止ま

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【小説】KIZUNAWA⑩         テザー・二人の合宿

【小説】KIZUNAWA⑩         テザー・二人の合宿

 太陽は横川たちの行動に注意しながら歩道をゆっくり歩いた。
「楠! お前サッカー部だろ。何でそんな女々しい事やってんだ?」
横川が達也と太陽を見つけて挑発して来たが太陽は無視をした。
「チッ!」
汚い音が聞こえて来た。達也が何かを言い掛けた。太陽はその仕草を敏感に感じ取ってさえぎる。
「達ちゃん行こう」
二人は横川を無視して駅に向かった。
「お前みたいな障がい者に何が出来る。笑い者になるだけだ! 

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【小説】KIZUNAWA⑨            テザー・二人を繋ぐ絆

【小説】KIZUNAWA⑨            テザー・二人を繋ぐ絆

 放課後、雅人は村田先生を訪ねていた。
「ご厚意を、無下にお断りする事になり申し訳ありませんでした」
雅人は礼儀を尽くした。
「無下ではありませんね。現に君はここにいるではありませんか」
「しかし、チャンスを頂いたのに」
「全国大会頑張りましょうね。陸上部はクリスマスを京都で過ごす事にしましたので、協力出来る事は何でもしますよ。サッカー部だけでは心許ないでしょう」
「ありがとうございます」
雅人は

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【小説】KIZUNAWA⑧            大人たちの戦いが始まる

【小説】KIZUNAWA⑧            大人たちの戦いが始まる

 宮島はその足で校長室に向かっていた。ドアを四回ノックする。
「宮島です。お時間を頂けますか?」
「はい、お入りください」
上田北高等学校校長青山康助(あおやまこうすけ)の声だった。
「失礼いたします」
宮島が校長室に入ると校長は自席から立ち上がり、来客用のソファーに宮島を招き入れた。
「駅伝部の件ですね。最後のランナーは決まりましたか? それとも?」
「決まりました。今から高体連にエントリーをし

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【小説】KIZUNAWA⑦        七番目のランナー・僕では駄目ですか?

【小説】KIZUNAWA⑦        七番目のランナー・僕では駄目ですか?

 選手登録の最終日の朝、雅人は悪あがきと分かっていたが駅前に行ってみた。しかし、横川たちの姿はなかった。引田が申し訳なさそうに首を振った。雅人が諦めて学校に戻ると始業のベルが鳴っていた。達也と太陽が何かを話しながら昇降口に向かい、それを見届けた桜井が駐車場を出るところだった。
雅人は午前中の授業を、上の空で受けていた。昼食も取らず部室に向かった雅人は、皆が承認してくれたら正式にキャプテンに就任しよ

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