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【小説】KIZUNAWA⑭        校長室の攻防

  校長室のソファーに二人の来客が座っていた。宮島がその応対をしていたが遅れて校長が部屋に入って来た。
「お待たせして申し訳ありませんな」
校長は二人の客人に頭を下げた。
「これは校長先生! 篠原と申します」
一人の男が名刺を差し出して言った。名刺には日本陸上競技連盟会長の肩書が綴られていた。
「本校校長の青山です。で日本陸連の会長が本校にどの様な御用でしょう?」
「青山さん! とぼけてもらっちゃ困りますよ。全国高校駅伝大会の件に決まっているではありませんか」
「ほう! 駅伝部に何か問題でも?」
「登録選手に視覚障がい者が入っているとの事ではないですか?」
「はあ、確かに視覚に障がいを持つ生徒がおりますが、何か?」
「何をおっしゃる。健常者と障がい者が同じレースを走るなど聞いた事がありません」
「いけませんか?」「当たり前でしょう。そのために障がい者だけが戦うレースがある訳ですからね」
篠原は怒りをあらわにしていた。
「しかし篠原さん! 大会開催要綱に障がい者は選手登録出来ないとは記載されておりませんが」
校長は穏やかだった。
「確かに記載はしておりませんが、それは常識の範囲で判断すべき事でしょう」
篠原の声は次第に大きくなっていく。
「常識の範囲ですか? 何処からお話したら良いのでしょう」
校長が少し間を開け思案を巡らせる。

「篠原さん。全国高等学校駅伝競走大会の目的は教育にあると考えてよろしいのですね?」
「むろんその通りですが」
篠原の答えを確認するや否や校長は静かに語り始める。
「本校が西之園君を受け入れたのは、彼が中等部に入学を希望した時です。彼は小学生の時に不慮の事故で一瞬にして両親と視力を失いました。本来ならばこの時点で、盲学校へ転校する事になったのでしょうが、担任の先生を慕っていた彼は、転校せずそのまま普通小学校を卒業しました」
「良くその小学校は受け入れましたな!」
篠原は不貞腐れた言いかただ。
「そうですね。常識では無理でしょうね。しかし、担任の先生が頑張ったのですな」
校長は当時を振り返りながら話を続ける。
「本校の楠君と広江さんも、当時の同級生です。彼が中学校も普通校を希望し保護者である、彼の祖父母もそれを認めました。しかし、公立の中学校は全て認められませんでした。そして、本人と保護者、小学校の担任だった吉本教諭が、私立中学である本校にやって来ました」
校長は篠原の座るソファーを指さす。
「そう、その席に座って。私は戸惑ってしまってね、即答出来ませんでしたよ。常識では考えられませんでしたからね」
校長の言葉には皮肉が籠っていた。
「職員会議では喧々囂々でした。視覚障がい者一人を受け入れるか否か? 大変な時間を掛けて話し合いました。点字の教科書がない、生徒に渡すプリントや中間期末テストをどの様に実施するのか? 健常者生徒に与える影響等、問題は山済みです。理事会も予算を出せるかと大変な事になりました。学校の廊下や階段に手すりを付けて点字ブロックを設置せねばなりませんからね」
「御校が視覚障がい者を受け入れた経緯は良く分かりました。しかし、私は駅伝の話をしに来ているのですよ」
篠原は溜め息をつきながらテーブルを叩く。
「そうでしたか? 私はてっきり教育の話をなさりにいらしたのかと思っていましたがね」
「違いますよ! 全国高等学校駅伝競走大会への参加を辞退して頂きたくて来たのですよ」
何度もテーブルを指先で叩きながら篠原の声は次第に大きくなっていく。校長は篠原を無視して続けた。

「ここに一冊のノートがあります。私たちは吉本ノートと呼んでいます。西之園君が小学校時代の担任教師が記録したノートです。ここには彼が視力を失ってから、健常者のクラスメイトと、どの様に学校生活を行って来たか、彼を中心にクラスメイトがどう変わり、人を思いやる心がクラスメイトにどの様に芽生えて行ったかが、事細かく書かれています」
「校長! 御校が視覚障がい者を受け入れた事は素晴らしい事だと思います。しかし、健常者の中に視覚障がい者が参加するという事は、その選手一人のために警備体制や交通規制、その他諸々が今までと違ってきます」
「そうですね。簡単にはいかないでしょう。でも、それは大人の問題で生徒には全く関係のない事ですな」
校長の目がきらりと光り篠原を見据えた。
「篠原さん、教育とは教え育てると書きます。教えるだけなら塾でも出来ます。子どもたちの中に芽生えた夢や希望を育ててこそ本当の学校教育ではないでしょうか」
「それこそ、理屈でしょう」
篠原は反撃して来た。
「そうでしょうか? 今の教育は同じ高さのハードルを概ねの生徒に上手く超えさせるための理論としか思えません。では、超えられない子どもは如何するのか? 切り捨てる。塾へ行け。これが現代の学校教育としか私には思えませんな。しかし、子どもたちには一人一人違った高さのハードルがあるのですよ。貴方たちが目標に掲げる教育は、同じ距離を如何に速く走ったかでしかないと私は思いますな」
「それが競技というものでしょう」
「私は競技の話などしておりませんよ、教育の話をしておるのですよ」
「青山さん! 何を言っている。私は全国高等学校駅競技大会の話をしているのですよ」
「ええ、ですから、この大会の目的が教育にあるのですから、学びたいという子どもたちの権利を代弁しているだけです」
「では言わせて頂きましょう。視覚障がい者にとって健常者と競技で戦うというのは、その子にとってのハードルは高すぎるとは思いませんか?」「さあどうでしょう? 宮島先生は顧問としてどう思いますか?」
校長は宮島に意見を求めた。
「そうですね。かなり高いハードルだと考えます」
宮島はそう答えた。
「そうでしょう。超えられないハードルを与えて、失敗したらその子にとって一生の傷になるとは思いませんか?」
篠原は宮島に同意を求めた。
「西之園君はこの学校で健常者と学びながら生活しています。生徒たちは彼が視覚障がい者である事を全員知っています。ですから彼が困っていれば皆、手を差し伸べます」
「それは学校でなくとも社会では当然の事でしょう」
「本当にそうでしょうか? 世の中には点字ブロックの上に平然と物や自転車等を放置する人間もいますし、点字ブロックの意味すら知らない人もいます。西之園君も本校の生徒から優しくされて、平和に登校している様に見えますが、実はそうではないのです。優しさに包まれながらも彼は何時も独りぼっちなのです。殻に閉じ籠って孤立してしまう事は障がい者自身にも問題はあると思います。私たちは本物の共生を生徒たちに教えたいのです」
宮島は本音を語った。
「その事と駅伝がどう関わっていると言うのです?」
「西之園君は今回の大会に参加すると決めた時に、自らその殻を破ったのですよ。そして、部員はそれを受け入れた」
「自分からハードルを上げたのだから、敗北して恥をかいても仕方がないとでも言うつもりですか」
「確かに高いハードルです。西之園君一人では無理でしょう。しかし、楠君と広江さんがいます。柞山君が引っ張る駅伝部の仲間がいます。それだけで西之園君のハードルはかなり低くなります。彼がそのハードルを乗り超える事が出来れば、その事は彼の自信となり力になります。光にもなります。駅伝の順位など問題にならない宝がそこにあるのです。だから私は顧問として挑戦させてやりたい」

宮島の信念はここにあった。

「長野県の代表ですよ! 負けると分かっていて参加する気ですか?」
「どうして負けると決まっているのです?」
初めて校長は声を荒げた。
「視覚障がい者が健常者に勝てる訳がない」
篠原は鼻で笑う。
「篠原さん! 貴方は宮島の話を聞いていなかったのかね。西之園君は一人ではないのですよ。現状では陸上部も協力体制を作り練習していますし、当日はサッカー部も現地スタッフで参加します。私たちは負けると思って戦いに挑んでいる訳けではない! 貴方も教育者の端くれならば言葉を選びなさい」
校長は声を更に荒げた。
「失礼! つい声を荒げてしまって。篠原さん! これが本校の常識であり貴方への答えです」
校長は言い切った。
「どうしても出場を辞退しては頂けないようですので、私も言いたくなかったのですが、あえて言わせてもらいましょう」
篠原は大会開催要項を取り出すとページをめくり一行を指さして言った。
「参加資格の特例、都道府県高等学校体育連盟が推薦する生徒とあります。長野県高体連の推薦がなければ大会に出場出来ないという事ですよ」
篠原は笑みを浮かべながら続けた。
「本校の西之園君が問題児であるとても?」
校長の目が再度光った。
「そうは言ってませんが……」
「当たり前です。彼は真面目で優秀な生徒ですよ」
「問題を起こした生徒だとは思っていませんが、長野県の高体連から相談を受けましたよ」
「相談を、何故?」
「視覚障がい者を推薦して良いのか否かを高体連は悩んでおるのですよ」「どうして悩む必要があるのでしょうね?」
「上田北高の常識は世間の非常識だと言う事ですよ」
篠原は声を荒げる。
「無礼な言い方ですな」
校長は静かに答えた。
「日本陸連としては、長野県陸上連盟に対し諮問をする様に指示しました。その決定に基づき高体連の推薦を決める様にと答えておきましたよ」
篠原はにや笑いを浮かべた。
「県の陸連ですか?」
高体連であれば教育を少しでも考えてくれそうだが、陸連となると競技運営中心の考えが優先すると校長は思った。
「長野高体連から陸上連盟に対しこの選手の受け入れの有無について諮問が出ているはずです。そうですよね?」
篠原は同席していた男に目を向けた。男は、それまで一言も言葉を発していなかったが初めて口を開いた。

「確かに視覚障がい者の出場を認めるべきか否かについて長野高体連として判断が付かないとの事で、私共長野県陸上競技連盟に対し諮問が出されました。これを受けて先日、高体連の先生方にも同席して頂き、県陸連の臨時役員会を開催し答申を出させて頂きました」
男は篠原を見据えると続ける。
「高体連が問題視している事は何なのか? それは、生徒の安全確保でした。その問題を解決出来るのであれば推薦はやぶさかではないとの事でした」
「やはりそうでしょう」
篠原は勝ち誇った様に笑っていた。
「ではその問題を解決するにはどうしたら良いか? ゆっくり時間を掛けて話し合いました」
「それで結論は?」
篠原は、いら立ち始めた。

男はバッグから四角い箱を取り出すと校長の前にそっと差し出しす。
「校長先生! これを彼らに渡して頂けませんでしょうか?」
「これは何でしょう?」
校長は突然の展開に戸惑った。

「私ね……、彼らと約束をしたものですからね」

校長がふたを開けるとそこには長さ調節が出来、ストッパーが常備されたテザーが収められていた。
「まさか引田さん! 長野陸連は上田北高の参加を認めたと言うのですか?」
篠原は戸惑っていた。
 引田は若い頃一〇〇〇〇メートルで日本代表寸前まで行く記録を持っていた。オリンピック最終予選でゴール寸前に怪我をしてその夢は消えた。無理な練習が祟った疲労骨折だった。引退してもなお、陸上競技に関わりたいと思った引田は、家業の自転車屋を営む傍ら、自らの経験を後進に伝えながら現役ランナーたちの後方支援のボランティアを行って来たのだ。その功績が実を結び、今は長野県陸上競技連盟会長の職に身を置いていたのである。
「役員会でも、万全な事故対策、円滑な大会運営が出来ないのではないか? と侃々諤々でした。でもね、篠原さん! 校長のおっしゃる通り、それは大人の問題です! 県の陸連は全面的に彼らの安全対策に協力します。もちろん要請があれば、市の陸連も京都まで出張って高体連に協力すると言っています」
引田は篠原を見つめて堂々とした態度で言った。
「篠原さんは東京の方だから知らないと思いますが、長野県には藁馬引きという行事がありましてね。特に上田市真田町戸沢地区の『藁馬とねじ行事』は国の無形民俗文化財に登録されております。幼い子どもは手作りの藁馬とねじと言う餅を曳いて道祖神に無病息災を願うのです。行事が終わると藁馬は、それぞれの家の屋根に納められます。やがてその藁馬は天馬となって子どもたちの願いを叶えるために天に昇ると言われています。実際は風化してしまうのが現実の常識なのですが、今この学校は天馬になろうとしている。それを阻止しようとて、目的は教育などと言えますか?」
引田の熱弁に対し篠原は返す言葉を失っていた。
「……」
暫し沈黙の後、篠原はおもむろに席を立った。ドアに向かって歩き出した篠原は、校長室を出る際、振り意地の悪い顔で言った。
「宿泊要綱には、宿舎は競技場から公共交通機関で三〇分以内と記されております。高体連が用意した宿泊施設の申込期限は終了しております。御校独自で予約して下さいよ。クリスマスの季節、今から選手団の宿が取れれば良いですね」
篠原の言葉に校長室内は悲壮な空気に包まれた。篠原はニヤリと笑うと部屋を後にして行った。
「競技場から三〇分以内ですか? まいりましたな」
校長は一度俯いたが、直ぐに上を向いた。
「電話を掛けまくりましょう。手の空いている先生方にも手伝って頂き今晩から宿とりですな」
「校長!」
「子どもたちがあんなに頑張っているのだから、教師の皆さんにも残業してもらいましょう」 

 校長と引田はグラウンドを見ていた。夕暮れのグラウンドにはブラスバンドが音楽室で練習しているアルプス一万尺のメロディーが微かに響いていた。
「引田さんにはこんなにも応援して頂いて本当に何とお礼を言って良いか言葉が見つかりません。あの子たちの努力は、後に必ず彼らの力になるでしょう。結果がどうであれ、これから生きて行くうえで決してマイナスにはならない。そう信じて私たち教師も絶対に諦めません」
校長はグラウンドを走り続ける達也と太陽を見つめながら呟いた。
「ハハハ! 昭和生まれはどうもお節介で困りますな。あの子たちの努力が実るまで時代錯誤を続けるとしましょう」
引田もトラックを走る二人を見つめながら言った。
「しかし、引田さんが県陸連の会長をなさっていたとは知りませんでした」
「宣伝する事でもありませんからね。ハハハハ。全国大会期待していますよ」
「ありがとうございます」
そんな校長たちの前を茉梨子が横切る寸前、立ち止まり挨拶をした。
「お疲れ様です」
お辞儀をする茉梨子に校長は引田からもらった箱を手渡し言った。
「引田さんから頂きましたよ。彼らに渡して下さい」
茉梨子は箱を開けるや否や満面の笑顔で引田を見た。
「貴女の手作りテザーの様に思いは籠っていませんが、使い勝手は良いでしょう!」
茉梨子は深々と頭を下げる。
「今のテザーはミサンガに作り直します。おじさん! ありがとう」

茉梨子はそう言うと「達ちゃん! 太陽!」嬉しそうに叫びながら走って行った。

「彼女は頑張り屋さんですね」
引田は駅前で茉梨子に出会った日の事を校長に語り出した。
「駅前で引きちぎられたチラシのピースを一枚一枚拾い集めながら負けるな! 頑張れ! と声に出して自分を励ましていましたよ。瞼に涙をいっぱい溜めてね。でも彼女はその涙を零さなかった。何か信念というものを感じました」
「言霊ですか?」
「そうです! 彼女の言霊は私の心に響きましたよ」
「地域の者として何か手助けは出来ないかと思いました。もしかすると、彼らは本当に天下を取るかもしれませんね」
校長は引田のその言葉にも魂を感じていた。
「商店会の皆さんには本校の生徒がご迷惑をお掛けしているにも拘らずこんなにもお力添えを頂いて、先日も生徒が乱闘騒ぎを起こしてしまい本当に申し訳ありません」
「校長はご存じだったのですか?」
引田はびっくりした。
「教師たちは隠しておりますが私は校長ですよ、耳にしております」
「楠は兎も角、バイクの騒音は苦情も来ておりますしね」
「あの少年たちですか?」
「でも引田さん。もう少しの間、目を瞑って頂けませんか? 彼らは自分の行く先が見つけられないで苦慮しているのです。彼らの目標は彼ら自身で見つけ出さなければ意味がないと私たちは考えています。横川君と原子君は本当の悪ではないのですよ。現に進級するために必要な出席日数分は学校に来ております」

校長は再度頭を下げた。

「分かりました。地域の方々には私から伝えましょう。若い二人ですからやりたい事も何かの切っ掛けで見つかるでしょう。その時まで彼らの苦慮に付き合いましょう」
引田はそう言うと歩いて校門を後にして行った。校長は彼が見えなくなるまで見送っていた。

 その夜、職員室の電話は繋がらなかった。教師たちが受話器を占領し京都の民宿や旅館、ホテルにと宿の確保に奮闘していたからだ。
「駄目ですね。スタジアムから公共交通機関で三〇分以内の宿は何処もいっぱいです」
「生徒を分散して宿泊させる事も考える必要が有るかもしれませんね」
職員室からは敗北の声しか聞こえてこなかった。
「陸上部とサッカー部は隣の滋賀県で捜してみましょう」
突然渡野辺のスマホが鳴ったのは、村田が滋賀県のガイドブックをめくり始めた時だった。

「はい、渡野辺です」
「上田北高の固定電話は一体どうなっているのです? 何度かけても話中なので先生のスマホに掛けてしまいました。今、話せますか?」
倉田旅館の女将からであった。
「ああ! 女将さんすいません。大丈夫ですよ」
「ええ、はあ、本当に宜しいのですか? もし、ご無理をなさっているのでしたら駅伝部だけお世話になれれば、私共は構いません」
「ええ、女将さん! 本当にありがとうございます」
電話を切った渡野辺は嬉しそうに校長と宮島を交互に見ながら言った。
「倉田旅館の女将が京都女将会の会長に事情を説明して下さって、会長が動いてくれたそうです。京都雅グラウンドホテルに駅伝部とサッカー部、陸上部の生徒で予約が出来たと今連絡が入りました」
渡野辺は、餅は餅屋と思い倉田女将に助けを求めていたのである。
「ちょっと待って下さい。宿が取れたのはありがたいが、京都雅グラウンドホテルと言ったら超高級ホテルではないですか。いくら何でもそんな予算は取れませんよ」
校長の目から火が吹いた。
「駅伝部の選手とマネージャー用にツイン五部屋、サッカー部と陸上部男子は大広間に女子生徒は中広間にそれぞれ雑魚寝、宮島先生は柞山と同室で私はサッカー部員と雑魚寝します。女子生徒の引率は女教師である村田先生に、一泊三食付きで生徒と引率は五〇〇〇円で泊めて頂けるそうです」
渡野辺は胸を張った。
「本当によろしいのでしょうか?」
校長は恐縮していた。
「倉田女将は京都女将会の会長である京都雅グラウンドホテルの女将と昵懇の仲だそうで、西之園の視覚障がいも理解したうえで子どもたちの挑戦を応援したいと言って下さったそうです」
「ちょっと待って下さい! 私は先ほど京都雅グラウンドホテルには満室だと言われましたよ」
教師の一人が手を挙げた。
「ご予約のお客様には料金を変えずに、ランクが上の特別室と京都鞍馬の別邸特別室へ客室変更をお願いして了承を頂いたそうです」
「ホテルには相当な損害を掛けてしまいますね」
校長が恐縮する。
「子どもたちの挑戦が、周りの大人たちの琴線に触れたという事ではないでしょうか? 校長! ご厚意に甘えましょう」
渡野辺の言葉に校長はハンカチで熱くなった目頭を押さえていた。
                               つづく

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