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【小小説】ナノノベル

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短いお話はいかがでしょうか
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2021年9月の記事一覧

きき感覚

きき感覚

「一口に酒類と申しましても、これはもう皆さんも十分ご承知のように、ワインから始まりまして、と言ってもこれは始まりは他にあるという声もあるところですが、また種々の酒類がもたらす効果についても自由研究の枠を超えて、これまた世界中から様々な知見を集めてそれに当たっているところと聞いております。いずれにしろ、そうしたことをミックスして得られる快楽や危機的な状況へとつながる高揚感を持ったカウンターを注視して

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風のアモーレ

 お化けでも出そうな生暖かい風が吹いていた。出るなら出ろ。お化けなんかは少しも怖くはない。恐れるべきは、自分の胸の奥深いところに眠る怨念の方だ。風の向くままにいつでも運ばれてきた。季節を問わず私は風が好きだった。(だから時には本気になりすぎることもある)
 自分で決めた道ならば、全責任を自分で負わなければならない。幸いなことに、いかなる時も私は決定権を持っていなかった。

「答えは風に吹かれている

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ショートショート・インタビュー

 インタビューは電車が止まっている僅かな時間の中で行われた。とても時間がないからだ。

「いつもどんな時にアイデアが浮かぶのですか?」
「わからない。浮かぶよりも早く消えている」
「瞬間的にキャッチするような感じでしょうか?」
「モチーフに追いかけられている」
「どんな感じでしょうか?」
「浮かんではつかむ。つかんでも安泰じゃない」
「逃げてしまうからでしょうか?」
「いつまでもそこにいてくれない

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ポエム・バー

ポエム・バー

 時速5キロで歩く花嫁と花婿の後ろを、少しほろ酔いで歩いた。弾む足取りの二人はこれから街の教会に行って誓い合うのだ。私はチョコレート味と書かれたバーを食べていた。それが示すところはチョコレートではないということ。

「どんな時にほしくなりますか?」
「少し疲れている時。あと小腹が空いた時。でも、何もなくてもとにかくほしくなる時はあります。好きですから」

「形はどうなってますか?」
「星のようだっ

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トラブル・ピアノ

 アジフライを魔法じみて美味くしているのは生演奏の香りが利いているせいもあった。繊細なタッチが極上の調べを生み出している。誰だろう。もっともっと楽しみたいというところだったのに、突然演奏は止まってしまった。何者かがそれを遮ったのだ。明らかに曲の途中だった。止めるにしても適した谷間があるだろうに。

「ここはお食事をするところですので」
「私は招かれたんだよ!」
 契約上の行き違いがあったようだ。

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パラレル・ユニフォーム

 おりこうにしていると予定より早く世間に出られることになった。久しぶりに歩く街はまるで未来社会のように感じられる。世の中の動きにすっかり乗り遅れてしまったようである。おじさんがサッカーの試合につれていってくれた。今は2021年だった。

チャカチャンチャンチャン♪

「えっ? なんでオリンピックなの? 奇数年なのに」
「黙ってみんかい」
「なんでなんでちゃんと説明してよ」
「何もわかっとらんようだ

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