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ポエム・バー

 時速5キロで歩く花嫁と花婿の後ろを、少しほろ酔いで歩いた。弾む足取りの二人はこれから街の教会に行って誓い合うのだ。私はチョコレート味と書かれたバーを食べていた。それが示すところはチョコレートではないということ。

「どんな時にほしくなりますか?」
「少し疲れている時。あと小腹が空いた時。でも、何もなくてもとにかくほしくなる時はあります。好きですから」

「形はどうなってますか?」
「星のようだったりボールのようだったり、だいたい一口で食べられるようになってるけど、シンプルに板のようなものもありますね」

「どこに行けば売ってますか?」
「コンビニとかスーパーとか駅の売店とか。まあそれもコンビニだけどね」

「このバーを食べてみてください」
「ああこれはちょっと違いますね。似てると言えば似てるけれど、これはチョコレートとはまた別物です」

 街の声を拾い集めてまわる開発者の姿が目に浮かんできた。チョコレートの本質を知るためどれほどの努力を重ねたのだろう。花嫁、花婿、酔っぱらい。不思議なほどに歩くペースが変わらなかった。目標を持つ者たちと、見失ったばかりの者が。
 けれども、いつまでも幸せのあとを追ってはならない。
 狭い歩道、どちらにもすり抜ける道はない。二人の間に広がった虹をくぐって、私は前に進み出る。
 幸せの境界を越えて、新しい道を探さなければ。


#エッセイ #多様性

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