「屋上に連れて行けばいいの?」 三月二十五日。水曜日。週のまんなか。いちばんツライ日だが、給料日でもある。フィフティーフィフティーでプラマイゼロ。きっと今日は…
「はーい、みなさんおはこんばんは~。死神界のアイドル☆団地の花子さんでっす。え? おまえ如きがアイドルなわけないって? あっはは~、そーですよ? でも私、生者で…
ちなみに、橋元くんは前々から私の誕生日を知っていた様子。 地元の駅で橋元くんと別れてから、その口の軽い相手に『なんで人の誕生日漏らすかな』とメールすると、…
三月の給料日まであと三日。そんな生きるのが一番ツラい月曜日。 その辞令は突然やってきた。 「え、転勤?」 私の疑問符に、担当課長代理佐藤さんは「だから」と…
どんなに泣いても、お腹は空く。 なんやかんや朝ごはんを抜いていた私の腹の虫は正直で。そんな私に、おばあちゃんは「仕方ないねぇ」とご飯を作ってくれるという。ど…
その翌週。 「今日もいい天気だなぁ☆」 なんて言い訳してベランダから桜通りを覗いたら、おじいちゃんが座っていなかった。 「ん?」 あれ、なんで? あの通…
「はあ⁉ 何を馬鹿なこと言ってんだいっ!」 だけど、おばあちゃんの家で正座させられた私は、すぐに後悔。別に、老人にタカリに来たことではない。現に机の上には、お…
正直、今お使い行くのはツラいのだ。 おばあちゃんの家は団地の端っこだから、駅前のスーパーへは我が家を通り抜けて歩いて十五分くらいかかる……とか、いい歳してネ…
そうして眼球くんが震えた後は、とても健全だった。 ジャージにティーシャツ。そんな姿で引っ越す二人。 『奮発しちゃった』と引っ越した先は、見覚えのある団地だっ…
「ねーねー、花子氏~。次のターゲットは~?」 今日はのんびり日曜日。まだまだお外は寒いけど、三月って数字を見ると春らしくなった気がするのはなぜだろうね。それで…
なんやかんや家に着いたのは、深夜十二時すぎ。 それでも、玄関を開けると部屋は明るかった。その色も、その声も。 そして例の『ディザイア』な音楽をガンガンに掛…
内緒話中の支店長の声は、妙に優しかった。 「正直、あの女性はキミに不釣り合いではないかい? 生きる世界が違うというか……自分の娘なら、もっと気立てもいい。キミ…
「どうしてこうなった?」 私はきちんと言ったのだ。ちゃんと今どきの化粧で可愛くしてね、と。 それなのに、私を仕立て上げた鏡越しの死神くんはドヤ顔だった。 「…
そして、橋元くんとの邂逅はすんなりと週末の土曜日に決まった。時間は夜。場所は電車を一本乗り換えた所。埼玉だと思っている人も多い、れっきとした東京の代表とされる…
「さぁさ今日もおはこんばんは! 皆さんの心のアイドル死神くんと団地の花子ちゃんです!」 「こ、こんにちは~」 あぁ、眼球くんからビームされるハイビジョンを見な…
その出会いは突然だった。 お昼休みが終わってしまうと、エレベーターに駆け入ろうとした時である。私は肩をぶつけられてすってんころりん。お尻も痛いけど、足も痛い…
ゆいレギナ
2023年7月11日 15:17
「屋上に連れて行けばいいの?」 三月二十五日。水曜日。週のまんなか。いちばんツライ日だが、給料日でもある。フィフティーフィフティーでプラマイゼロ。きっと今日は普通の日。 別れは突然やってくる。そんな言葉があるけれど、やっぱり突然なんて受け売れられないものなんですよ。だって、私はポンコツの御手洗花子ですもの。そんなカッコいい大人になんかなれません。「ふっふんたーらーらーったったでぃざいあ
2023年7月11日 15:13
「はーい、みなさんおはこんばんは~。死神界のアイドル☆団地の花子さんでっす。え? おまえ如きがアイドルなわけないって? あっはは~、そーですよ? でも私、生者ですから。死んでるみなさんに比べたら生者パワーがキラッキラ……あ、ごめんなさい、石投げないで! それ墓石でしょ? 罰当たりめ……あ、自分のだからいいのかあっはは~☆」 ……うん、ごめんて。耳惠ちゃん、目がないくせにそんな冷たい視線(?)向
2023年7月11日 15:06
ちなみに、橋元くんは前々から私の誕生日を知っていた様子。 地元の駅で橋元くんと別れてから、その口の軽い相手に『なんで人の誕生日漏らすかな』とメールすると、『来週の土日は予定空けておいてねー』とトンチンカンの即レスが返ってきた。 もう知らん。勝手にしろっ! 誰もいない静かすぎる家に帰り、私はそのままお布団にダイブする。電気も着けない。だって、余計に寂しくなるだけだもん。 うん……
2023年7月11日 14:54
三月の給料日まであと三日。そんな生きるのが一番ツラい月曜日。 その辞令は突然やってきた。「え、転勤?」 私の疑問符に、担当課長代理佐藤さんは「だから」と苦笑する。「転属(・)ね。内勤から外勤……調剤薬局に薬を運ぶ――俗に言う配送部署に――来月の契約更新のタイミングで異動してもらいたいんだ」 なんやて佐藤。身体は大人、心は|永遠の厨二病(エターナル・ラビリンス)の花子に、お主は何を
2023年7月10日 12:52
どんなに泣いても、お腹は空く。 なんやかんや朝ごはんを抜いていた私の腹の虫は正直で。そんな私に、おばあちゃんは「仕方ないねぇ」とご飯を作ってくれるという。どうやら、またサバカレーのようだ。 実は、私は知っている。おばあちゃんは料理が苦手でね、サバカレーが唯一の得意料理なのだ。お母さん曰く、子供の頃から見かねたお父さんが台所に立ってたんだって。それでもお金持ちだったから、お惣菜や外食も多か
2023年7月10日 12:48
その翌週。「今日もいい天気だなぁ☆」 なんて言い訳してベランダから桜通りを覗いたら、おじいちゃんが座っていなかった。「ん?」 あれ、なんで? あの通りにおじいちゃんがいなかったことなんて、夜か雨の日しかなかったぞ? いや、小雨くらいなら負けないおじいちゃんだった。 あるべきものがない違和感にパチクリしていると、お部屋の中から声が掛かる。イケメンの声が、まるでお母さんの声のよ
2023年7月10日 12:41
「はあ⁉ 何を馬鹿なこと言ってんだいっ!」 だけど、おばあちゃんの家で正座させられた私は、すぐに後悔。別に、老人にタカリに来たことではない。現に机の上には、お持ち帰り用のサバ缶三パックが置かれている。 おばあちゃんがちゃぶ台をバンッと叩くと、積まれたサバ缶が倒れます。だけど奥歯をガタガタ言わせている花子には、それを直す勇気がありません。「もう一回だけ聞いてやる! どこで、それを知ったん
2023年7月9日 23:58
正直、今お使い行くのはツラいのだ。 おばあちゃんの家は団地の端っこだから、駅前のスーパーへは我が家を通り抜けて歩いて十五分くらいかかる……とか、いい歳してネギの買い出しにおばあちゃんのお財布を借りて行く不甲斐なさ……とかではない。 例の如く、あのおじいちゃんがいる場所を通るからである。 ……いや、もちろん他の道を選ぶこともできるんだけどさ。やっぱり「いるのかな〜」て好奇心もあるじゃん
2023年7月9日 23:52
そうして眼球くんが震えた後は、とても健全だった。 ジャージにティーシャツ。そんな姿で引っ越す二人。『奮発しちゃった』と引っ越した先は、見覚えのある団地だった。狭いワンルームに置く家具は少ない。それでも工場やスーパーなどで、休む暇なく働く二人の汗は眩しかった。 忙しい間をぬって、彼らは遊んだ。春は桜の綺麗な通りでお花見をして。夏も同じ通りで花火をして、警察に怒られていた。秋は紅葉の下でお
2023年7月9日 23:44
「ねーねー、花子氏~。次のターゲットは~?」 今日はのんびり日曜日。まだまだお外は寒いけど、三月って数字を見ると春らしくなった気がするのはなぜだろうね。それでも花子はごまかされずに、お布団に潜ったままの偉い子なのですが。 昨日の土曜日にいっぱい寝たので、朝の九時でも眠くありません。だけど布団から出る用事もないので、うもうもと全ゲームのログインボーナスを回収したいのですが、今日も爽やかな死神
2023年7月8日 17:19
なんやかんや家に着いたのは、深夜十二時すぎ。 それでも、玄関を開けると部屋は明るかった。その色も、その声も。 そして例の『ディザイア』な音楽をガンガンに掛けながら、死神くんが大笑いしていた。眼球くんのハイビジョンが、私が『ディザイア』連呼し終えた後を写している。支店長が『ほんとアイツ女見る目ねーなー』とひとり酒をしていた。 この様子だと、どうやら今回も隠し撮りを動画にされそうである。
2023年7月8日 17:16
内緒話中の支店長の声は、妙に優しかった。「正直、あの女性はキミに不釣り合いではないかい? 生きる世界が違うというか……自分の娘なら、もっと気立てもいい。キミのことを話したら、娘もとても乗り気でね。学生なら変わった相手に目を惹かれることもあるかもしれないが、キミももう社会人だ。現実的な伴侶を探すに、早すぎるということはないだろう」 ううむ……やっぱり花子は橋元くんの婚約者に無理があったと?
2023年7月8日 17:10
「どうしてこうなった?」 私はきちんと言ったのだ。ちゃんと今どきの化粧で可愛くしてね、と。 それなのに、私を仕立て上げた鏡越しの死神くんはドヤ顔だった。「だから、化粧はちゃんと『イマドキ』ってやつを勉強したじゃないですか」「じゃあどうして私は着物を着てるんだあああああああああ⁉」 厳密に言えば、着物じゃない。着物のような……洋服になるんだろうか? 首周りは緩く、だけど太い帯はキツく
2023年7月8日 16:54
そして、橋元くんとの邂逅はすんなりと週末の土曜日に決まった。時間は夜。場所は電車を一本乗り換えた所。埼玉だと思っている人も多い、れっきとした東京の代表とされる繁華街だ。『橋元で予約してありますから』とメッセージにお店のアドレスが添付されてきたから、少し迷いながらも頑張っていかねば――と、その前に。「ふむ……」 私は津田さん家のワンルームにお邪魔していた。動画で見た通りのデデニー満載のメル
2023年7月5日 22:28
「さぁさ今日もおはこんばんは! 皆さんの心のアイドル死神くんと団地の花子ちゃんです!」「こ、こんにちは~」 あぁ、眼球くんからビームされるハイビジョンを見ながら耳惠ちゃんに話すのは、二度目でも慣れない……。しかも私は寝間着です。襟元が破れている色落ちした紫のジャージです。髪は死神くんが丁寧に乾かしてくれたから、無駄にサラサラ。あまりの気持ちよさに、私はウトウトしかけました。 ともあれ、深
2023年7月5日 13:58
その出会いは突然だった。 お昼休みが終わってしまうと、エレベーターに駆け入ろうとした時である。私は肩をぶつけられてすってんころりん。お尻も痛いけど、足も痛い。あ、ヒールのゴムがポロンと取れとる。あーあ、また接着剤で止めなきゃ。「す、すみません! 俺、急いでて……」 うん、仕方ないね。私も急いでたんだもの。チンタラしてたら、受付秘書の人に話しかけられちゃうし。また津田さんじゃないのが厄介