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エッセイはとつぜんに

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つれづれなるままに、ひぐらし、ではないが、ときたまPCにむかひて。役には立ちませんが、何の変哲もない日常を楽しめるようにはなるかもね。
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#暮らし

297円のサーモン。

297円のサーモン。

午前中に出かけた帰り道、たまの贅沢にひとりでカフェランチでもしてやろうかと思って歩いていた。

ぼんやり店を探しながら、駅から家の方向へ歩く。

よさげなカフェで足をとめる。

サンドイッチセット、950円。

うん、まあありなんだけど。友人と会うわけでもなく、ひとりで950円は、うん……、悩む。

たとえば漁港の海鮮丼とか、出張で訪れた土地の名物とかなら、ひとりでも迷わずいくところ。でも家の近所

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旅人になった日と、それから。

旅人になった日と、それから。

初めてパンパンに荷物が詰まったバックパックを背負ったとき、「ああ、旅に出るんだな」と思った。

リュックは手に持った状態からパッと担ぐもの、というイメージで生きてきた自分にとって、座った状態で背負ってからよいしょ、と慎重に立ち上がらなければいけないそれは、特別感を高めるのに十分なものだった。胸と腰のベルトをカッチリ閉めることで、体全体に重さが分散して楽になる。リュックについている腰ベルトの機能性な

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夫婦ってやつぁ

夫婦ってやつぁ

たとえばあなたの奥さんが、あなたが連休中に5日間ほど出張だというので、「世間が楽しんでる時期にワンオペはつらいし」と、幼子を連れて奥さんの実家に1週間ほど帰ったとする。

そうして連休明けに帰ってくる。

家のドアを開けて、ただいまーと言ったところまではよかったが、中に足を踏み入れてくるにつけ、なんだか奥さんの雰囲気がすぐれない。「なんか、臭うね……」とか言い出す。台所の排水口を見て、ふう、とか静

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打ち上げはスーパー銭湯で

打ち上げはスーパー銭湯で

打ち上げという単語が縁遠くなってひさしい。

そもそも大勢のパーティは得意じゃないので、ひとりで働くようになってからはそういう“職場の飲み会”のような場が減り、ほっとしていたはずだ。

だけど……、だけど。

あまりに「打ち上げ」ていないと、わたしのような人間にも「打ち上げ欲求」というようなものが大いにひそんでいることに気づく。気づいてしまう。

そんなわたしの横で夫が言う。「昨日は◯◯の打ち上げ

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筑前煮が簡単になっても

筑前煮が簡単になっても

干ししいたけをもどす。お湯で。

いや、わかってる。たぶん水からじっくりとていねいに戻したほうが、より上品な味わいになるんだろう。なんとなく、そんな気はする。

パッケージはこう言う。「水もどしで2時間、お湯もどしで20分、電子レンジで4分」。いや、ちょっと待ってほしい。2時間て。2時間前に、よし、干ししいたけもどそっと!ってなるかよ。いや、なるひとも世の中にはたくさんいるのだと思う。計画的なひと

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風を通したがる話

風を通したがる話

「あの子、すぐ風を通したがるでしょう」

産後、母が泊まり込みで手伝いに来てくれていたとき、わたしのいない場で夫にそう言っていたらしい。あとから夫づてに聞いて、笑った。

いやいや、お母さん。あなたもたいがい、風を通したがるほうだと思いますよ。

そんな母にまさか「この子はやたら風を通したがるわね」と認識されていただなんて。そんなこと、思いもしなかった。だから、笑った。

そうか、わたし、やたら風

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ちょっとした後悔の話

ちょっとした後悔の話

基本的には「後悔しても意味がないから、反省はするけど後悔はしないよ」って言っていたい強がりタイプだとおもう。

だって「こうすりゃよかった」なんて話、なんにも生まない。後悔してる時間に、今からどうするかを考えたほうがよっぽど有意義だよ。そんな正論を自分にもふりかざしてきたし、たぶん周りにもそんな励ましをしてしまったこともあったと思う。時と場合により、まちがいじゃないとも思っている。

でも最近、そ

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床の見える生活

おしゃれなインテリアを楽しんだり、ものを持たない暮らしを追求する方も多くおられるご時世に、ものすごく低レベルな話をするけれど、我が家のリビングは子が生まれてからというもの、ほとんど床が見えていなかった。

何かの比喩でもなんでもなく、文字どおり、ものが散らかっていて床の見える面積が圧倒的に少ない、ただそれだけのことである。

特に子が動き回るようになってからの1年は、いたるところにおもちゃやそれに

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毎日、目にする景色

毎日、目にする景色

ずうっと背景に山があった。

2泊3日の宇和島出張中の話だ。車で移動していても、ほぼいつでも360度、ぐるりと山が背景にあった。

例外はみかん農家さんの畑(つまり山そのもの)に登らせてもらっているときで、そのときは上の方へ行くとぱあっと視界が開け、美しい海が広がった。背景は、青い空と青い海だけになった。それもすばらしかった。

だから山が背景にないのは山にいるときくらいで、それ以外のときはずうっ

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ノスタルジアは突然に

ノスタルジアは突然に

夕方、洗濯物をたたんでいてふと目をとめた。

お弁当をつつむ用の、ちょっと厚手で大きめのハンカチ。ライオンにゾウにトラにと、色とりどりの動物キャラクターたちが、野球のユニフォームをまとって可愛らしくプリントされている。

それは昨年実家に帰ったとき、帰りの飛行機で食べるためのおにぎりを、母がつつんでくれたものだった。ちょうど動物をゆびさして喜ぶようになった孫娘のために、動物がたくさんプリントされて

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やさしいものさがし

やさしいものさがし

花粉症と風邪のミックスで、どうにもぼんやりと体調がわるい。

そんなときは文章も、やさしいものしか読みたくないし、書きたくない。

やさしいもの、やさしいもの。

頭の中にはいちご大福とか、ペコちゃんのほっぺとか、マシュマロとかがぽこぽこと浮かんでくる。

手元にあればそれについて存分に描写したいところなのだけれど、あいにくないので、なんだかなあとなる。今日は買いにいくほどの元気もない。

お菓子

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それでもわたしは怒れない

それでもわたしは怒れない

寒い。寒い。なぜなら玄関のドアがもう数時間も全開だからだ。

今日は朝から自宅に工事が入っている。

我が家は古いマンションの3階なのだが、上の階の方が年末にお風呂の水をあふれさせたそうだ。年始に家に帰ってきたら、我が家の洗面所やトイレがびちょびちょになっていておどろいた。というわけで今日は、そのための天井張り替え工事の第一弾なのだ。

ところで、帰宅して洗面所とトイレがびちゃびちゃだったら、あな

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シェアハウスのラウンジみたいに

シェアハウスのラウンジみたいに

ふと気づいたのだけれど、20代後半はそういえば、だれかとシェア暮らしをしている期間のほうが圧倒的に長かった。

誤解なきように言うと、ベースとなるわたしは大勢でわいわいやるよりも、ひとりを好むほうだと思う。社会人になって実家を出て、3年弱はひとり暮らしを満喫していた。旅も気楽なひとり旅が好きだ。

きっかけになったのは、わかりやすく海外生活だと思う。最初は南の島フィジーでのホームステイにはじまり、

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気負わず、平常運転でまいりましょう

気負わず、平常運転でまいりましょう

“1月7日、ついに待ちに待った平日! 気合いいれていくぞー”。

年末年始は義実家にどっぷりとお世話になってオフラインを存分に満喫したから、きりよく月曜日からは仕事しよう、あれもやろう、これもやろうと、頭の中にはやりたいことがダバダバとあふれてむずむずしていた。

そんなわたしの思いを知ってか知らずか、1月7日の朝、娘はまた熱を出す。

その瞬間、わたしの意気込みや予定なんてものは簡単に崩れさる。

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