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世界の歴史

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光山忠良による世界の歴史
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記事一覧

ヨーロッパの「魔女狩り」の誤解

ヨーロッパの「魔女狩り」の誤解

私は一応西洋史を専攻したが、「魔女狩り」に対してとんでもない誤解をしていた。今回は池上俊一『魔女狩りのヨーロッパ史』に基づいて、私の先入観を解いていこうと思う。

魔女狩りというと暗黒の中世期に起こったと思われがちであるが、魔女狩りが蔓延したのは、16世紀後半~17世紀前半である。近世の幕開けともいえる宗教改革、活版印刷の普及、世俗国家権力の勃興などは、魔女という迷信を打ち消したのではなく、むしろ

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フィッツジェラルドは第一次世界大戦に従軍したか(あるいはイランはアラブではない件)

フィッツジェラルドは第一次世界大戦に従軍したか(あるいはイランはアラブではない件)

2019年のことで恐縮ですが、めったに観ないサッカーのアジアカップを連日観る機会がありました。なんか姉がにわかに一人ブームになっていたので、テレビ観戦を付き合ったのです。
ベスト8では中国、韓国、ベトナム、オーストラリアが敗退し、日本のほか、アラブ首長国連邦、カタール、イランがベスト4に進出しました。
そこで何気なく姉が「これで日本以外はアラブの人たちの戦いだね」と言ったので、「イランはアラブじゃ

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世界の識者が語る「アフターコロナ」

世界の識者が語る「アフターコロナ」

コロナ禍において私たちは何をすべきか、そしてコロナ後の世界はどうなるのか、世界の識者が論じています。今回はその声を拾ってみます。

ユヴァル・ノア・ハラリ(歴史学)「新型コロナウイルス感染症の大流行は、公民権の有効性の一大試金石なのだ。これからの日々に、私たちの一人ひとりが、根の葉もない陰謀論や利己的な政治家ではなく、科学的データや医療の専門家を信じるという選択をすべきだ。もし私たちが正しい選択を

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三国志を真面目に考察してみる

三国志を真面目に考察してみる

先日、中国の歴史物語『三国志演義』について友人と議論したのですが、蜀の国が魏の国に侵略され滅ぼされかけた際、蜀の皇帝・劉禅が降伏を選んだのは、民のためには英断だったと友人が言うので、「いや、酒食におぼれ、政治は巫女や宦官に司らせるありさま、前線で精鋭部隊が死闘を演じている中、親征もせず、身分を保証してくれると聞くと喜んで帰順し、国が滅亡しても懐かしくもない、魏の国は楽しいと臣下の前でのたまう皇帝は

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「戦争」「飢餓」「疫病」の時代は終わったか~ユヴァル・ノア・ハラリ氏の緊急提言に思う~

「戦争」「飢餓」「疫病」の時代は終わったか~ユヴァル・ノア・ハラリ氏の緊急提言に思う~

『ホモ・デウス』での予言イスラエルの歴史家ユヴァル・ノア・ハラリ氏は2018年、『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』において大要、近未来に「戦争」「飢餓」「疫病」をほぼ克服した人類は、その英知を人類自身のアップデート(遺伝子工学による死の克服など)に向けるだろうというセンセーショナルな予言をしました。

まさにその翌年にCOVID-19が発見され、2021年1月現在、世界で1億人以上の

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横山光輝『三国志』の魅力

横山光輝『三国志』の魅力

※ネタバレありです。

先日の記事でさんざん司馬遼太郎を批判しましたが、私は歴史小説や歴史漫画は嫌いだったのではなく、むしろ耽溺するほど好きでした。私の世界史の知識は、もとはというと学研『まんが世界の歴史』シリーズから派生したようなものですし、前述した通り司馬遼太郎『項羽と劉邦』『竜馬がゆく』とか、海音寺潮五郎『天と地と』とか、吉川英治『宮本武蔵』とか、あとは絵本の『平家物語』とか、田辺聖子『新源

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暴動や餓死者を生み出す恐るべきカレンダー

暴動や餓死者を生み出す恐るべきカレンダー

カレンダーの季節がやってきました。というかとっくにカレンダー商戦は始まっているのですけれども。

『カレンダー年鑑』という年鑑の編集をやっていたので、カレンダーの歴史をほんのちょっと調べたことがあるのですが、暦というのは宗教や占いと深い関係があるので、すごく慎重になった記憶があります。自然科学も入ってくるので難しいですしね。

でもカレンダーが、時に餓死者、時に暴動、時に大量の破産者を出したのを知

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フランスの名優ジェラール・ドパルデュのロシア移住

フランスの名優ジェラール・ドパルデュのロシア移住

昔からフランスは憧憬の国だったし、現在でも辻仁成や金原ひとみ、中山美穂、後藤久美子など多くの文化人・著名人が移住している。私は大学でフランス史を専攻したこともあって、「フランス映画のためなら死ねる」とか「フランス人になりたい」とか言っている変人?をこの目で見てきた。

そんな文化人の憧憬の国・フランスの名優の一人が、ジェラール・ドパルデュだ。私にとってドパルデュといえば映画『シラノ・ド・ベルジュラ

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スティーブ・ジョブズと生き別れた妹

スティーブ・ジョブズと生き別れた妹

中国との和解というアメリカ国家100年の計を実現させた男・ヘンリー・キッシンジャー元国務長官が、ドイツ生まれのユダヤ人であることは記事にも書いた。外交という国家の肝に元移民を据えるというのは、なんだかんだいってアメリカの懐の深さを感じる。民間においては現在、マイクロソフト、アドビ、グーグル、IBMなどの大企業の経営者がインド出身である。テスラのイーロン・マスクは南アフリカ出身である。

スティーブ

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ゴルバチョフの禁酒キャンペーン

ゴルバチョフの禁酒キャンペーン

1985年3月、ソ連のチェルネンコ書記長が74歳で死去し、71歳のグリーシン、62歳のロマノフ、80歳のチーホノフらのライバルを押しのけ、54歳のミハイル・ゴルバチョフが新書記長に選ばれた。5月にレニングラードの路上に登場し、1メートルも離れない場所から市民に直接語りかけ、熱狂する200人もの市民の輪に囲まれた。続いて行った演説で、市民は、若く、親しみやすく、カリスマ性があって、そして(それまでの

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近視のスウェーデン王、つまずく

近視のスウェーデン王、つまずく

スウェーデンをヨーロッパ屈指の強国にのし上げた「北方の獅子」グスタフ・アドルフ。彼のことを調べようと思ってグーグル検索したら、「グスタフ・アドルフ、近視」との候補が上がってしまった。それほどグスタフ・アドルフといえば、近視と、それによる死が歴史ファンにとっても衝撃的なのだろう(私もそうだ)。スウェーデン王としてドイツ三十年戦争に介入し、傭兵隊長ワレンシュタイン率いる神聖ローマ皇帝軍とリュッツェンで

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「黒い悪魔」デュマ将軍が革命期フランスで活躍できたわけ

「黒い悪魔」デュマ将軍が革命期フランスで活躍できたわけ

『三銃士』で有名なフランスの大作家・アレクサンドル・デュマは、『椿姫』の作者である息子と区別するために父デュマとも呼ばれるが、父デュマにも当然父親がいる。しかし父デュマの父親がナポレオン軍の麾下の「黒い将軍」として恐れられたトマ・アレクサンドル・デュマ(1762-1806)であるという事実は、あまり知られていないかもしれない。
200年前のフランスで、有色人種であるトマが将軍にまで上り詰め、フラン

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中国は平和的に台頭できるか―ミアシャイマーの見立て

中国は平和的に台頭できるか―ミアシャイマーの見立て

オフェンシブ・リアリズムとはアメリカの政治学者ジョン・ミアシャイマーは2014年、『大国政治の悲劇』の改訂版を発表したが、日本語版で670ページの大著にも関わらず、「オフェンシブ・リアリズム」という自説の証明に終始している。オフェンシブ・リアリズムとは一言で言って「大国は自国の生き残りのために地域覇権を目指す運命にある」というミアシャイマー独自の理論である。

唯一の地域覇権国・アメリカ司馬遼太郎

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キッシンジャーの少年時代

キッシンジャーの少年時代

ハインツ・アルフレート・キッシンガーは1923年5月27日、ドイツ・バイエルン州ニュルンベルクの郊外、フュルトに生まれた。父親は名誉ある教師であり、善良で教養があり、膨大なレコードのコレクションとアップライト・ピアノを持っていた。母は機転が利き、たくましく、実際的な女性だった。そして二人とも生粋のユダヤ人だった。生まれたハインツも当然のように、正統派シナゴーグに通い、トーラー(ユダヤ教教説)を学ん

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