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中国は平和的に台頭できるか―ミアシャイマーの見立て

オフェンシブ・リアリズムとは

アメリカの政治学者ジョン・ミアシャイマーは2014年、『大国政治の悲劇』の改訂版を発表したが、日本語版で670ページの大著にも関わらず、「オフェンシブ・リアリズム」という自説の証明に終始している。オフェンシブ・リアリズムとは一言で言って「大国は自国の生き残りのために地域覇権を目指す運命にある」というミアシャイマー独自の理論である。

唯一の地域覇権国・アメリカ

司馬遼太郎の『ロシアについて』は私も読んだが、ロシアは生き残りのためにユーラシアの覇権国を目指し、シベリアまで領土を拡大した。アメリカ合衆国は明白な天命マニフェスト・デスティニーの名乗りのもと、西へ西へと進み、アメリカ先住民を殺害し、スペインやフランス、イギリス・メキシコと戦争や領土購入によって太平洋まで達した上に、カナダにも侵攻している。アメリカ合衆国に関しては、南北アメリカ大陸の覇権を確立したうえで、ヨーロッパやアジアの地域覇権を阻止しようと動いてきた。

近現代においてヴィルヘルム2世のドイツ、大日本帝国、ナチス・ドイツ、ソヴィエト連邦の4か国がそれぞれ地域覇権を目指したが、それぞれ挫折し、ソ連の崩壊によって地域覇権国はアメリカのみとなった。

4つの対中政策

ところが最近なって地域覇権国をもくろんでいると思われる国が登場した。中国である。ミアシャイマーは『大国の政治の悲劇』の最終章10章すべてを「中国は平和的に台頭できるか」という議論に割いている。ご想像の通り、ミアシャイマーの自説「オフェンシブ・リアリズム」に基づけば、答えは「ノー」である。中国は平和的に台頭できない、というのがミアシャイマーの見立てである。

アメリカは台頭する中国に対し、インド、日本、ロシア、シンガポール、韓国、ベトナムなどとバランシング同盟を結成し、「封じ込め」を行なうだろう。
ミアシャイマーは「封じ込め」の代替案として「予防戦争」「中国の経済成長を遅くする」「巻き返し」の3つの可能性を提起している。だが、予防戦争は両国が核兵器を持っているがゆえに不可能であり、「中国の経済成長を遅くする」ことも、アメリカ経済にとってダメージであり実行不可能だ。「巻き返し」は新疆ウイグル自治区やチベットなどの独立派を支援することであるが、実行可能ながら、利益はほとんどない。
以上4つの戦略を取ろうとも、中国が地域覇権国として、それどころかアメリカをしのぐ超大国になる可能性すら彼は示唆する。

大国政治の悲劇

というわけで、米中の安全保障競争はほぼ避けられず、「中国は平和的に台頭できない」。儒教の平和主義や経済相互依存による平和も極めてぜい弱だ。中国が儒教に従って戦略を練った痕跡などないし、儒教が戦争を否定しているわけでもない。そして経済相互依存による平和というのも、「政治は経済についての懸念を圧倒してしまうことが多い」し、「戦争の勝利によって莫大な経済・戦略面での利益が得られ」る可能性があるため、抑止力にはならない。
ミアシャイマーの見立ては悲劇的である。だから「大国政治の悲劇」なのである。

さいごにー光山の私見

というわけでミアシャイマーの「中国は平和的に台頭できない」という予測を紹介した。最後に私(光山)なりの私見を述べたい。
ミアシャイマーの理論展開全般にいえるのだが、どうして一つの理論に還元しようとするのだろう。ミアシャイマーはリアリズム(E.H.カーなど)とリベラリズム(≒理想主義)の2つの思想の潮流を述べているが、なぜリベラリズムの理論の実現可能性を認めないのだろう。ウッドロー・ウィルソン米大統領の国際協調が、短期間ではあるが世界を動かそうとした歴史についてはどうだろう。国家を超える共同体、例えば国際連合やEUなどの協調の可能性はどうだろう。確かにウィルソンの理想主義は短期間で破綻したが、だからといってリベラリズム、理想主義の可能性を捨てることはできないはずだ。
政治学者の大家に逆らってしまったが、世界は悲劇から逃れられないというペシミズムの他にも、可能性はあるはずだ、と私は思う。

参考文献


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