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「戦争」「飢餓」「疫病」の時代は終わったか~ユヴァル・ノア・ハラリ氏の緊急提言に思う~

『ホモ・デウス』での予言

イスラエルの歴史家ユヴァル・ノア・ハラリ氏は2018年、『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』において大要、近未来に「戦争」「飢餓」「疫病」をほぼ克服した人類は、その英知を人類自身のアップデート(遺伝子工学による死の克服など)に向けるだろうというセンセーショナルな予言をしました。

まさにその翌年にCOVID-19が発見され、2021年1月現在、世界で1億人以上の人々が疫病に罹患する事態になったのは、皮肉といえども、ハラリ氏の見立ての甘さといえますね。

「新たなエボラ出血熱が発生したり、未知のインフルエンザ株が現れたりして地球を席捲し、何百万人もの人命を奪うことがないとは言い切れないものの、私たちは将来そういう事態を、避けようのない自然災害と見なすことはないだろう。むしろ、弁解の余地のない人災と捉え、担当者の責任を厳しく問うはずだ」
ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来(上)23~24ページ

――というエクスキューズがあるものの、疫病などが「すでに対処可能になった」と断定するほど、人類は万能の薬(もちろん比喩の意味で)を手に入れたわけではないはずです。疫病は今後も、自然発生的か人為的(すなわち細菌兵器)かは問わず、人類の脅威となるだろうと、私は思います。

飢餓だってそうです。たった9年前の2012年にアメリカ国家情報会議がまとめた2030年の未来予測『グローバルトレンド2030』では、世界に起こりうる4つのメガトレンドのうちの一つが、「食料、水、エネルギー問題(の連鎖)」だったのです。国連は2030年までに飢餓を撲滅すると宣言していますが、むしろ飢餓人口は増加しています。

戦争についても、1945年に核兵器が使用されて以来、朝鮮戦争やキューバ危機などに見舞われながらも、なんとか破滅を逃れてきたのは、人類の不断の努力と、綱渡りの政治交渉のおかげです。アメリカ大統領は核兵器のボタンを押す専権を持っています。鎮痛剤を常用していたジョン・F・ケネディが、酒浸りのニクソンが、任期中にもアルツハイマーの疑いがあったレーガンが、あるいはなんといっても癇癪もちのトランプが万が一核のボタン(正確にはスーツケース)を押せば、世界は破滅していたのです。そういった綱渡りを、たった90年間続けてきただけで、なぜ人類は戦争を制御可能だとみなせるのでしょう。

私はすぐ、ウェルズの予言を思い出しました。イギリスのSF小説家H.G.ウェルズは、第一次世界大戦を「すべての戦争を終わらせるための戦争」と予言しました。しかし現実は、第一次世界大戦は、第二次世界大戦というさらに大規模な戦争を引き起こしたのです。人類の何万年の歴史を俯瞰してきた氏だからこそ、もっと巨視的に歴史を見てほしかった。

「われわれはいま、歴史の転換点に立っている」

そんな、ユヴァル・ノア・ハラリ氏ですが、2020年に「緊急提言」をし、次のように述べました。

「人類は選択を迫られている。私たちは不和の道を進むのか、それともグローバルな団結の道を選ぶのか?もし不和を選んだら、今回の危機が長引くだけでなく、将来おそらく、さらに深刻な大惨事を繰り返し招くことになるだろう。逆に、もしグローバルな団結を選べば、それは新型コロナウイルスに対する勝利だけではなく、二一世紀に人類が襲いかねない、未来のあらゆる感染症流行や危機に対する勝利にもなることだろう」
『緊急提言パンデミック』河出書房新社

これを読んで、私はほっとしました。COVID-19も人類史の過渡期のものであるなんてことを万が一言っていたら、彼に対する(読者としての)信頼を失うところでした。

人類には、英知を振り絞るべき課題が残されています。「戦争」「疫病」「飢餓」です。そして地球温暖化などのグローバルな問題です。ぜひとも知識人たちがリーダーシップを取って、グローバルに連帯し、人類の存続の道を歩むべきだと、大げさではなく思います。

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