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フランスの名優ジェラール・ドパルデュのロシア移住

昔からフランスは憧憬の国だったし、現在でも辻仁成や金原ひとみ、中山美穂、後藤久美子など多くの文化人・著名人が移住している。私は大学でフランス史を専攻したこともあって、「フランス映画のためなら死ねる」とか「フランス人になりたい」とか言っている変人?をこの目で見てきた。

そんな文化人の憧憬の国・フランスの名優の一人が、ジェラール・ドパルデュだ。私にとってドパルデュといえば映画『シラノ・ド・ベルジュラック』。思春期の私にとって、醜形に怯えながらも恋のために命を懸けるシラノはヒーローであり、「羽飾りこころいき」一つを携えて天国へと去っていくシラノを見事に演じたドパルデュに強く惹かれた。以来、ラブコメの『グリーン・カード』からシリアス映画の『あるいは裏切りという名の犬』までずっと追いかけてきた。この方、コロンブスからジャン・バルジャンまであらゆる時代劇の主役を演じているので、フランスの津川雅彦と私は勝手に呼んでいるのだが、津川雅彦とはスケールが全く異なる、フランス映画界の大御所である。

2013年、自由と文化の国・フランスを代表するドパルデュが、権威主義と統制の国・ロシアに移住し、国籍を移したものだから、まあびっくりした。フランス人は「ドパルデュ事件」と呼んでいるらしい。歴史家ユヴァル・ノア・ハラリは、専制国家ロシアに移住を希望する人をみかけたことはないと言っているが、ドパルデュというフランスを代表するような人がロシアに移住した事実を忘れている。
ドパルデュは国籍を移す際「成功や創造性、才能の処罰を信奉する政権のために私は国を出る」と表明したが、表向きの主張とは裏腹に、年収の75%という重税を逃れ、所得税が一律13%のロシアを選んだ、というのは誰の目にも明らかだった。
プーチンと友人であるドパルデュは移住後、「ロシアの平和に感銘を受けた」と述べている。

もちろん、この話には続きがあって、ロシアのウクライナ侵攻にさすがに持論を貫けなかった彼は2022年3月、「プーチン氏の行き過ぎた行動だ。狂っており、許せない」と非難、ロシア政府は国籍はく奪を示唆した。もともとお騒がせな彼だが、レイプで訴えられたりと、私生活は残念なニュースばかりが目に付く。もっとも2022年にメグロ刑事を演じた映画『メグロ』がヒットするなど、俳優としてはさすがだが。

中国の孔子は「苛政かせいは虎よりも猛し」と言ったが、苛政(=重税)と虎(=戦争)のどちらが恐ろしいだろうか。これは防衛費増額にともなう増税について議論が沸騰している日本にこそ、重要な問いである。
ドパルデュは重税から逃れ、結局戦争からも逃れようとドタバタ騒ぎを起こしているが、フランスに次ぐ世界2位の重税国家・日本も、有能な人材や富裕層が逃げ出し、ますますジリ貧になるかもしれない。かといって国防は重要で、難しい問題だ。

参考文献
ユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons』
仏俳優ドパルデュー氏、レイプ容疑で捜査対象に 女優の告発受け
仏俳優ドパルデューが富裕税反発で国籍放棄 ブリジット・バルドーも動物愛護で?
ロシアに仰天:ドパルデューがいかにロシアに安らぎの地を見出したか
仏俳優ドパルデューさん、プーチン派を離反 侵攻「狂っている」 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

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