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エッセイ𓆸こういう事を考えている

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何も考えず生きていくのは楽で怖いので、時々考えるようにしている。 思いつくまま。エッセイ。
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#散文

ボルシチを知らずに彼は死ぬでしょう

ボルシチを知らずに彼は死ぬでしょう

2024年5月なかば

「あれって女の子の店でしょ」と、夫が言った。

スープストックトウキョウの好きなスープを聞いた時だ。
「行ったこと無い」という夫に最初に思ったのは、へ?(スープストック)東京なのに?店名に東京ついちゃってるし、あなたは東京出身なのに?で、「女の子の店でしょ」と言われてまた、へ?っと思った。

けれど確かにあの店で男性1人客に出会ったことが無い。かも…いや…今日いた…あれは…

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怖いこと

怖いこと

2024.4月

子供の頃、死ぬのが怖かった。
怖くて怖くてたまらなかった。
あの頃死ぬ事は、ママとパパと(ついでに兄にも)会えなくなるということだった。

次に怖かったのが誘拐される事で、誘拐も会えなくなるから。

-完全に母に見せられていた火曜サスペンスの影響だったと思う。火サスは私の人間形成に大きく関わっている。-

子供の時、だから私はいつも毎夜、死神にも悪い大人にも見つからない様に、布団

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私きっと慣れないよ。

私きっと慣れないよ。

ちょっと振り返って2月のこと

「ここに骨壷でいてもおかしくなかったなぁ」
炬燵で寝転がりながら父が言った。

…本当だよ
私にもリビングに骨壷が置かれている光景が容易に想像できた。

「神様がパパを返してくれた。最高のプレゼント。」
2日後が誕生日の母が涙ぐみながら喜んでいる。

同じリビングで、同じ日のことだ。

…カオスだ。



1月突如入院した父は、家族に大きな打撃と数えきれない恐れを

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頭の中の蜘蛛の糸

頭の中の蜘蛛の糸

2024.1月末

白い半透明の糸が1本、左右に渡っている。

その糸は時にピンと張ったり、だらりと垂れ下がったり、太くなったり千切れそうな程に細くなったり、朝露をたたえたり、カラカラに乾いたり、変容していく。

ああ、蜘蛛の糸だ。と思う。
横に張った、蜘蛛の糸。

という情景がもう1週間頭の中に浮かんでいる。「切れないで欲しいと」ずっと。ずっと。ずっと、

原因不明の発熱で父が入院してから約2週

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それってやっぱりアイラブユーじゃん?(散文)

それってやっぱりアイラブユーじゃん?(散文)

12月の、たぶん今年最後の満月の日

四分の1ほど残ってた綿棒を落っことして全部ダメにしちゃったのはクリスマス前で、ひとり大騒ぎしていたら夫に「俺、綿棒使わないしな」って言われた。

クリスマスを何日か過ぎた夜、会社から帰ってきた夫が「買ってきたよ」って渡してくれたのは綿棒だった。
毎日毎日買い忘れて帰ってくる私に気がついていたんだって。

それってやっぱりアイラブユーじゃん

「愛してるってこと

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それはもう綱渡りをする人みたいに

それはもう綱渡りをする人みたいに

12月末 すごく年の瀬。

遅い通勤、駅までの道を俯いて歩いていたら視界に靴下が入った。

靴下?

ちょっと色褪せた水色地、側面に沿って白い線が一本入った靴下がすいすい視界の左上を出たり入ったりしている。

え?と思って顔を上げたら2メートルほど先で若い男の子が右足の靴を脱いで逆さまにしていた。バランスをとる靴下の右足は器用で、綱渡りの人のそれの様で、何度かすいすい、すいすーいとした後に一度も地

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安全なこっち側の世界で卵の如く(散文)

安全なこっち側の世界で卵の如く(散文)

 9月、台風がきた。金曜日

 雨は言われていたよりもひどくなくて、少し肩透かし。被害が無くて喜ぶべきだ、わかっている。喜んでいるしホッとしている、けれど少しだけ残念に思ってしまうところもあり、私の大人の部分が罪悪感を抱える。私の中にはまだ初めての雷に興奮したあの頃の、保育園児の私が生きている。脈々と。

 昼。歯医者に行こうと外に出たら寒くて、出掛けに部屋に戻ってシャツを羽織った。東京で真夏日じ

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ある日々。散文として。

ある日々。散文として。

ある日曜日。夫が買ってきてくれたモスバーガーの袋を開けたら、ジンジャーエールとオレンジジュースが、ものすごい緑の液体となんか溶けた泡に変容していてめちゃくちゃ笑った。
 飲んでみたらメロンソーダとたぶんコーヒーシェーク。
 コーヒーシェークは溶けまくっていてなんだか飲んじゃいけないものみたいだったし、メロンソーダは家で見ると緑すぎた。



ある月曜日。父と母を大きな病院に検査に連れて行った。病

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今、結婚とは。又は右往左往する夫。

今、結婚とは。又は右往左往する夫。

夫を愛しているのだと思う、たぶん。
『愛』を語る文化圏にいなかったので、よく分からないけれど。
(好きはわかる。大好きはわかる。大切はわかる。愛ってなに?)

『夫はいい男だ。』と、思った事は無い。けれど『夫はとても私に合った男だ』と、思う事は多い。その距離感が。
ヤマアラシの距離感。寂しくないしめんどくさく無い距離。そして時々、棘が無い距離に私達は近づく。

例えばリビングで少し離れた位置で別の

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