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あなたも自分の影をなくしていませんか? シャミッソー『影をなくした男』の味わい方
日々の生活に追われて、ふと気が付くと最近自分の影を見た覚えがないことに気が付いた。
いつからだろうか、確かに見た覚えがない。
私は、ピーター・シュレミールと同様に、見知らぬ男と交換してしまったのかもしれない。
“幸福の金袋“と引き換えに自分の影を渡してしまったのかも知れない。
真夏の太陽が降り注ぐ中で、短くともその印象を濃くして存在感を示す影。
真冬の月夜に照らし出された間延びした青白く
失ってしまった大切なもの 島崎藤村『桜の実の熟する時』の味わい方
「なんとなくそよそよとした楽しい風が将来(さき)の方から吹いて
くるような気のする時だ。隠れた「成長」は、そこにも、ここにも、捨吉の目に付いて来た。」
この作品全体に「春」が流れている。
移りゆく季節の中で、心をときめかせ、希望に胸を膨らませる春。
成長してゆく身体に反して、揺れ動く心、漠然とした不安。
やさしく包み込むような光と頬をくすぐられような、ときめきをたっぷりと含んだ風。
この
後味の悪い結末に作者の生への執念を見た 藤原伊織『シリウスの道』の読み方
最初に、この本を読み終えたとき、なんとも複雑な思いに駆られました。今までの絡み合った伏線が、解きほどかれ、全てが昇華されると期待をしていたのに、全く期待外れの結末に終わっているのです。
伏線がつながらず、それぞれが思いの外の最悪の結果に終わっているので、読み終えた後に、消化しきれないものが残っているような後味の悪い読後感にとらわれました。
最初、作者がこの物語を完結せずにいたのは、次回作を書く
作家は読者の何十倍も涙を流している 住野よる『君の膵臓を食べたい』の読み方
『君の膵臓を食べたい』は読み進めていくうちに涙がこみあげてきて、段々と止まらなくなってきて、最後はとめどもなく流れ落ちるような小説ですね。
初めて住野よるさんの作品を読みました。
ものすごく感動しました。主人公の志賀春樹の姿とずっと昔の高校生の頃の自分の姿とダブりました。
スマホなんてなんてなかったずっと昔、デートするときにそのシチュエーションにあった文庫本を持って行ったことなどを思い出しま
物語を味わう究極のレシピ 小川糸『食堂かたつむり』の読み方
この作品を一流のシェフが作ったフルコースのディナーを食べているような気分で読みました。読むというより味わったという方が良いのかもしれません。
主人公は、訳があって都会を離れ、実家に戻るために夜行バスに乗り込みます。
夜の高速道路を走る夜行バスの窓ガラスに映し出される過去と幻想。そのあたりから現実から少しつ遠ざかってゆきます。
最初に食前酒が出されて、少しずつ酔いが体の中に染み込んでゆくような
揺らぎの中に凄みを感じる 伊与原新『月まで三キロ』の読み方
短編6話ともプロトがしっかりしていてとても読みやすいです。作者が科学の研究をされていた方だということがよくわかります。
「答え」を最初に決めていて、方程式を逆算するように、解きほどいていき「問い」を出すようにして書かれています。
「月」という地名、雪の結晶、アンモナイトの化石、古いサイダーの瓶、人気のない食堂のメニュー表、一眼レフのカメラなど、それらの題材から、作者は構想を膨らましてゆき、
五感を呼び覚ます松井玲奈『カモフラージュ』の読み方
作者の松井玲奈さんは、作品に登場させる小道具の使い方が非常にうまいと思います。
「空っぽの弁当箱」「ケチャップ」「ビー玉」「クッキー」「餃子」「桃の種」など、物語の中の描写で使われている小道具すべてがキーワードになっており、それぞれに意味を持たせてあります。
わざわざ心理描写を書き込まなくても、小道具に投影されている深みをたどってゆけば、心の動きが見事に浮かび上がってくるのです。
それは