大河内健志

五感を文字で綴る次世代小説家。 国語の教科書に載ることを目指して書いています。

大河内健志

五感を文字で綴る次世代小説家。 国語の教科書に載ることを目指して書いています。

マガジン

  • 『天国へ届け、この歌を』スマホ版

  • 大河内健志短編集

  • 宮本武蔵はこう戦った

  • 白木の棺

    知恩院の七不思議のひとつである「白木の棺」にまつわる物語です。

  • 出版企画書

    書籍化していただける出版社を探しております。

最近の記事

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短編小説『近鉄京都線 桃山御陵前駅』

妹の旦那に送ってもらって、新田辺駅から京都行の急行に乗り込む。 今日中に東京に戻らなければならない。 木津川の鉄橋から夕陽が見えた。 何年ぶりだろうか。 今まで空さえも見上げていなかったような気がする。 狭い空間に押し込められて、地べたを這いつくばるように生きてきた。 少しばかり有名だったIT関係の会社に勤めていたばかりに、いい気になって会社の仲間と独立して会社を作った。 一等地のビルにオフィスを構えて、眺めのいい高層マンションに住んだ。 CEOという肩書が私

    • 短編小説『悲しくなるほど美しい』

      暫く歩いて閑静な住宅街を抜けると、小さな町工場や倉庫が立ち並ぶ、殺風景なところに出た。 そこを通り抜けるのが、淀川の花火大会が見える名前の知らない用水路を大きくしたような川の土手たどり着ける近道なのだ。 干からびたアスファルトの道路。枯れ果てた街路樹のように無造作に立つ電柱。切りっぱなしのトタンでできた人気のない建物。 辺り一面に赤さびがこびりついている。 それは、古い血痕のように黒ずんでいて、乾いた血のような鼻につく臭いが立ち込めている。 街全体が、中世の絵画のよ

      • 短編小説『鯖の煮付けと独り酒』

        娘のカンナは、お友達と食事をして帰るので今日は遅くなるとメールが入っていた。 だから今夜は、一人きりで過ごさなければならない。 病院で、単身赴任をしている裕司の病状を聞いてから、今こうやって普通に生活していることが現実じゃないような気がしている。 悪い夢をずっと見ているような気がする。早く目が覚めて、すべてが夢の中だったと思いたい。 お医者さんの言葉が頭の中をずっとサティのジムノペティの音楽と一緒に文字となって、エンドレスで回り続けている。 ソファに座ったまま何もする

        • プロローグ『仮面の告白 第二章』

          時代が変わった。令和になった。 かつての私は、昭和の代名詞となってしまった。 小説家を超えた存在として、印象を留めることが出来た。 私の行動に後に続くものがいなかったこともあり、もはや私は、神格化されたともいえるだろう。 それも、私の画策していた通りとなった。 小説や作品は、やがて色褪せる。 時代が移り変わるごとに、古い勲章のように過去の賞賛に追いやられる。 時代が品定めをするのだ。 時代がふるいをかけてゆく。 令和になって、私たちの時代に創られた作品や作者

        • 固定された記事

        短編小説『近鉄京都線 桃山御陵前駅』

        マガジン

        • 『天国へ届け、この歌を』スマホ版
          125本
        • 大河内健志短編集
          71本
        • 宮本武蔵はこう戦った
          22本
        • 白木の棺
          13本
        • 出版企画書
          4本
        • 龍馬が月夜に翔んだ
          43本

        記事

          短編小説「地下鉄が黄昏の鉄橋を渡るときに思うこと」

          やっと一日が終わった。帰りの地下鉄御堂筋線は、混み合う。 特に淀屋橋から梅田方面に行こうとすると、京阪からの乗り換えがあるので降りる人より、乗り込む人の方が圧倒的に多い。 だから、淀屋橋駅から乗る人は、すでに充分に混んでいる車両のところに、無理やり入り込まなくてはいけない。 たまに座れそうな席がある車両が来るが、それは中津行きか新大阪行きである。 降りる駅はその先の江坂である。 乗り換えが面倒なのでそれには乗らない。 いつも、先頭から2両目の2番目の出入り口に乗る

          短編小説「地下鉄が黄昏の鉄橋を渡るときに思うこと」

          短編小説「宮本武蔵が約束に遅れた理由」

          武蔵は、小舟に乗り込むと、真ん中の粗末な敷物が敷かれた席に腰を据えた。 そして、船頭を見やり、目で出すように促した。 船頭はそれには返答せず、おもむろに立ち上がり、櫂(かい:舟をこぐ道具)を手繰り寄せた。 右手の肘の二寸ほど先がなかった。 かつては、足軽として、戦に出ていたのだろうか。 粗末な身なり船頭なのだが、明らかに、それは切り合いで、切り落とされた跡と見受けられる。 得体のしれない者である。 しかし、船頭としての腕は確かだ。 左手だけで器用に櫂を扱う。

          短編小説「宮本武蔵が約束に遅れた理由」

          すべてはシナリオ通りに『仮面の告白 第二章』

          時代が変わった。 昭和が終わって、平成になり、やがて令和になった。 かつての私は、昭和の代名詞となってしまった。 小説家を超えた存在として、強烈な印象を留めることが出来た。 私の行動に後に続くものがいなかったこともあり、もはや私は、神格化されたともいえるだろう。 私の画策していた通りとなった。 小説自体は、やがて色褪せてくる。 時代が移り変わるごとに、勲章のように過去の賞賛に追いやられる。 時代が品定めをする。 時代がふるいをかけてゆく。 令和になって、私

          すべてはシナリオ通りに『仮面の告白 第二章』

          私は生まれ変わった『仮面の告白 第二章』

          私は生きている。 賢明な読者なら、もはや説明することはないと思うが、『豊穣の海』にその手掛かりは、書き記して置いた。 その中に、深海の奥底に蠢く甲殻類の囁きのごとく織り込んでおいた文意を読みこめば、私が何処に向かおうとしているか分かるはずだ。 私は生まれ変わったのだ。 魂は不滅である。 私は鮮烈な死を遂げた者しか与えられない名誉と勲章を得た。 目を閉じなさい。 盾の会の制服を着た凛々しい私の姿が鮮明に写し出されるはずだ。 その残像こそ、切磋琢磨して綴った小説の

          私は生まれ変わった『仮面の告白 第二章』

          短編小説「行く当てのない旅に出てしまったボク」

          耳鳴りがするほどの静寂。 何も聞こえない。 吸い込まれるような暗闇。 もう何も見えない。 急に身体が軽くなって、すっと浮き上がった。 ヘリウムガスが少し抜けた風船のように、戸惑いながら上ってゆく。 漆黒の海の中を彷徨う。 流されているのか。 周りが流れているのかわからない。 「何処に行ってしまうのだろうか」 考えているボクがいる。 記憶のかけらが、真っ暗なスクリーンの中から映像を浮かび上がらせる。 ホームに無造作に転がっているボクのスニーカー。 「片

          短編小説「行く当てのない旅に出てしまったボク」

          短編小説「目を閉じて広がる景色」

          遠くで若い女性の引き裂くような叫び声がした。 全身に鉄の鎧をまとった大男がベッドの周りをのし歩くような金属のこすれ合う音、重たい振動。 いらだちをつのらせるような、段々と間隔が短くなってくる電子音。 消し忘れの目覚まし時計のような鳴り響くブザー。 主治医の田中先生が突然、突然目の前に現れた 喜劇役者が出番前に見せるような虚構を取り除いて怯えを残した冷たい表情。「先生、息が出来ない。苦しい」 大声で叫んでいるつもりなのだが、田中先生は聞こえないのか、全く表情を変えな

          短編小説「目を閉じて広がる景色」

          短編小説「伝えておきたかった知恩院三門の秘密」

          年のせいでしょうか、とりとめもなしに色々なことが思い出されます。 宮大工の娘に生まれたものとしては、お金と時間は無限にあると思うてました。それが今では、お金と時間に縛られてしまっています。 全ては、お金と時間に左右されてしまいます。 なんて、さもしい時代になってしまったのでしょう。 お金で、人の命が左右されるなんて。 詰め腹を切らされた五味様が不憫でなりません。 ちなみに三門にお納めした五味夫妻の木像は、主人が彫ったものです。 さすがにお仏師さんに頼むわけにはい

          短編小説「伝えておきたかった知恩院三門の秘密」

          短編小説「命をかけて守りぬくもの 」

          話は前後してしまいましたが、そもそも五味様が、何故お亡くなりになられたのかをお話しなければなりませんね。 大変つらいことです。 本当は、先にお話ししなければならないことなのですが、後回しにしていました。あまりにも辛い話なので、避けていました。 しかし、真実は伝えてゆかなければなりませんね。 では、ありのままをお話ししましょう。五味様は、知恩院さんの三門の建築に携わった人全ての咎を一身に受けられて、罪を償われたのです。 主人はもちろんですが、私たちも関係していることで

          短編小説「命をかけて守りぬくもの 」

          短編小説「雪が降ると思い出す 悲しくて美しい光景」

          前にもお話しましたように、知恩院三門の工期は二年とあらかじめ決められています。 奈良でしていたように、ゆっくりと丁寧に時間をかけて建ててゆくことは出来ないのです。 主人も、自ら道具を手にして、若い大工に教えながら仕事をすることも無くなってしまいました。 それぞれの棟梁からの相談ごとを聞いて、それをさばいてゆくだけになっています。もう大工と言うより、お役人みたいな仕事ぶりです。 二年など、あっという間に過ぎてしまいますから、そうでもしないといけないのでしょう。 役人と

          短編小説「雪が降ると思い出す 悲しくて美しい光景」

          短編小説『天才彫り物師が残した知恩院 三門の秘密』

          暫く手元に置いていた一枚の絵があります。甚五郎が描いた絵です。 知恩院の三門を書いた絵です。 私は普請がようやく終わって木曽から材木が届き始めた頃、現場に行きました。 届いた材木に符号を付けたり、材木に臍を入れたりして、大工らが慌ただしく働いている中に、一人だけ素知らぬ顔で、山の方を向いて絵師のように画板を肩にかけて、写生している者がおります。 左手で筆を持っているので、すぐに誰だかわかりました。甚五郎です。 熱心に書いている絵をのぞき込むと、そこには建てる前に作っ

          短編小説『天才彫り物師が残した知恩院 三門の秘密』

          連作短編小説「伝えることが難しくなった千年後の理想と現実」『白木の棺』

          この世界は、妥協の許さない厳しい世界です。 到達点と言うものはありません。 常に、理想を現実に変えて行かなければなりません。 私たちの仕事の成果の判断を下すのは、百年先の人かもしれませんし、もしかすれば千年先の人かもしれません。 ですから、私たちは、今ここにある現実ではなしに、その先にある理想を現実に変えて行って、それらの未来の人々の鑑賞に堪えるものを作りだして行かなければならないのです。 しかし、大御所様の時代に入って、やたらと規制が多くなりました。 物の価値が

          連作短編小説「伝えることが難しくなった千年後の理想と現実」『白木の棺』

          連作短編小説「物価の高騰による悲劇の予感」『白木の棺』

          直ぐに若い大工が、模型が出来上がったので、見に来てくださいと呼びに来ました。 今までの見たことのない様な大きな模型が出来上がっています。 その周りを主人らが取り囲んでいます。 模型を見なくても、主人の自慢顔を見ると、出来具合は分かります。 私は東大寺の南大門を知っているだけにその模型の緻密さには驚かされます。 垂木と斗栱(ときょう)の織り成す綾が鳥肌が立つくらいに見事な出来栄えを見せています。南大門と比べると遥かに現代的な感じがします。 「ちまちました小細工が、流

          連作短編小説「物価の高騰による悲劇の予感」『白木の棺』