短編小説『先ずは京の作法を学びなさい』
「造作奉行様のご命令で、わざわざ京に呼び寄せられたが、何ということだ。何事をするにしても、書面を回せとか、誰々に挨拶せよとか、つまらぬことばかり指図される。これでは何も進まん。わしらは、代々南都七大寺様の加護を受けて、誰にも文句を言われず好き放題させて頂いた由緒ある宮大工なのだ。それをことあるごとに、小役人どもが一々口出しをしてくる。これでは仕事にならん」
奈良におりました頃は、温厚で泰然自若であった主人の与平次も、京に来ましてから、妻の私に愚痴をこぼすようになってきており