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『天国へ届け、この歌を』スマホ版

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記事一覧

短編小説『ワタシの歌を聞いてくれる人』

二人並んで歩いている。 暫くの間お互いに黙ったままでいる。 声には出していないけど、ワタ…

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短編小説『悲しくなるほど美しい』

暫く歩いて閑静な住宅街を抜けると、小さな町工場や倉庫が立ち並ぶ、殺風景なところに出た。 …

大河内健志
11日前
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短編小説『鯖の煮付けと独り酒』

娘のカンナは、お友達と食事をして帰るので今日は遅くなるとメールが入っていた。 だから今夜…

大河内健志
2週間前
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短編小説「地下鉄が黄昏の鉄橋を渡るときに思うこと」

やっと一日が終わった。帰りの地下鉄御堂筋線は、混み合う。 特に淀屋橋から梅田方面に行こう…

大河内健志
1か月前
21

短編小説「目を閉じて広がる景色」

遠くで若い女性の引き裂くような叫び声がした。 全身に鉄の鎧をまとった大男がベッドの周りを…

大河内健志
2か月前
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短編小説『思い出を失ってしまうことの悲しみ』

お父さんが亡くなってしまったことより、お父さんとの思い出を失ってしまったことが悲しい。 …

大河内健志
5か月前
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短編小説『嫉妬より奥深に存在する美しい輝き』

自分のレジ袋に目をやった。 突き出ている土のついたごぼう。 スーパーマーケットのロゴが大きく書いてある大きく脹れあがった重いレジ袋。それを持つ年輪を隠し切れない手指。 嫉妬。 いや、それを通り越した感情。 かつて私も持っていたけれども、失ってしまったもの。 この娘さんなら、先程のようにあの頃の裕司の笑顔を蘇らせることが出来る。私には出来ない。 もう一度、裕司の若い頃のあの笑顔を見たい。 嫉妬。 いや、それよりもっと深い感情。 過去と未来。 私は、もう戻れ

短編小説『嫉妬より奥深くに棲む魔物』

旦那が単身赴任をしている北大阪のマンションにきている。 名古屋で受けた精密検査の結果が悪…

大河内健志
6か月前
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短編小説『美味しさが奏でるメロディー』

久々に手料理を味わっている。 それにしても香田さんの作った料理はおいしい。 その上、お箸…

大河内健志
7か月前
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短編小説『夕焼けを見ながら二人並んで歩きたい 』

胸騒ぎがしたので、単身赴任をしている部屋へ予定より1日早く行ってみた。 やっぱり私の予感…

大河内健志
7か月前
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短編小説『夕焼けと古い街並み』

スヌーピーのエコバックを重たそうに提げる、香田さんの後ろを離れないように歩く。 スーパー…

大河内健志
7か月前
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短編小説『お父さんの涙』

補助輪なしで自転車に乗れた日、 今でも鮮明に覚えている。 補助輪を外して乗れるように練…

大河内健志
8か月前
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短編小説『月明かりに照らし出される幻想』

「そろそろ閉店の時間になります」 追い出されるように二人はカフェの外に出た。 「随分、遅…

大河内健志
8か月前
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短編小説『ひとりで歌うのが好き』

ワタシは、お父さんが自殺した日から、ピアノを弾くのをやめた。 なぜなら、ピアノを始めた頃から、お父さんと遠く離れてしまったような気がするから。 急にピアノが憎くなった。 あれほど練習したのに、弾くとますますお父さんと離れてしまうような気がしたのでやめた。 代わりにギターを始めた。 お父さんの部屋には、ギターがあった。 まだ仲の良かった幼い頃のある日、お父さんがひとりでギターを弾いていた。 近くに寄って、だまって聴いていると、「弾いてみる?」と言って、ギターを持た