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皆様の執筆された心に留めたいnote記事を集めさせて頂いております。 素晴らしい作品に感謝です。
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2022年5月の記事一覧

  幸せな「凱旋」 癌で逝った弟

  幸せな「凱旋」 癌で逝った弟

 此処は埋め立て地なのだろうか。
 港湾をつなぐ水路に囲まれたベイエリアの一角に病院はあった。

 病棟の二重扉を入ると、まっすぐ伸びた通路の両脇に病室が並び、その突き当たりはニ方向ガラス張りの休息室になっていた。
 入り口脇にある来訪者の受付カウンターで手続きを済ませると、一区切りつけたくて明るい窓側の席に腰を下ろした。

 糸のように撚れた穏やかな運河のような海面を、時折小さな船舶が行き来して

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「死を選ぶ生き方」は正しい生き方として良いか?~安楽死制度を議論する手引き01

「死を選ぶ生き方」は正しい生き方として良いか?~安楽死制度を議論する手引き01

論点:日本人として、「死を選ぶ生き方」は正しい生き方として良いか?

安楽死制度の議論をしていく中で、それぞれの言い分がかみ合わない理由のひとつに「個人レベルの話と社会レベルの話をごちゃごちゃにしている」パターンがある。
まずはこの点から整理していこう。

「私は私、あなたはあなた」の議論には実りがない

安楽死制度に反対する意見には様々な種類がある。その中で、この章では「これまでギリギリの状態で

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「頭が悪いから、風俗でしか働けないんですよ」

「頭が悪いから、風俗でしか働けないんですよ」

「俺、中卒だし、小学校もほとんど通ってなかったし、そもそも頭が悪いから。

 だからウリセン(ゲイ風俗)でしか働けないんですよ」

 そんな風に自虐したのは、26歳のゲイの青年でした。



 今回はあたいが去年の夏ごろに、ゲイバーで出会った男の子の話をしますわ。

 彼の名前はユキ(仮名)

 26歳のゲイで、愛想がいい子だった。

 髪型もお化粧も今どきな感じで、あとブランド名の主張が強めな

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孤独との距離感

孤独との距離感

 古いCDを、ふと思い出し、かけてみた。
 クスコというドイツのユニットの、幻想的なインストゥルメンタルの楽曲とか、バッハの名曲集、エンヤなど。どれも20代~30代のころに聴いていたアルバムで、なかには20年以上前のものもある。
 当時は、孤独だった。

 ひさしぶりに耳から流れ込んでくるそれらの音は、単に懐かしいというだけでなく、当時の空気感のようなものをまとっていて、私の領域のしばらく触れてい

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苦しみの全てをゼロにできるのか~安楽死制度を議論する手引き00

苦しみの全てをゼロにできるのか~安楽死制度を議論する手引き00

安楽死を求めた二人の物語をつづった『だから、もう眠らせてほしい』の公開、そして書籍化から2年。

国内では安楽死制度の成立を求め、それに賛成する声も多い中、国民的議論としてはほとんど進展をみせていない。

安楽死制度の話題が出るたび、「もっと議論を深めるべき」「いまの日本では時期尚早」という結論が繰り返されるが、「では具体的にどのような論点で議論を深めるべきか」「いつになったらその『時期』が来るの

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