日経記事「平成の敗北」に異議あり~令和に向けた平成の丁寧な検証求む!

平成を振り返る報道が続いているのに、一向に腹落ちするものがない。20190422付の日経新聞「核心」の欄に「平成の敗北 なぜ起きた」という論説があったが「核心」に至った感じはしない。残りわずかの平成の間にメディアに検証を望むこと・・・。

掲題の記事では、日本のGDPが1989年の世界4位から2018年に26位に落ちたこと、株式時価総額ランキング(世界)で1989年には上位20社のうち14社が日本企業だったのに、2019年4月では上位20位までに日本企業が入っていないことを示し、他者の言葉も引用しながら、平成を敗北の時代としている。

そして、その原因を「企業活力の衰え」「老いる企業がリスクを嫌がる保守的な組織になった」ことで留めてしまっている。これでは、令和に活かせる材料とはなりえない。

バブルのピークから始まった平成。バブル崩壊、金融危機、アジア通貨危機、ITバブルと崩壊、バイオバブルと崩壊、ライブドアショック、リーマンショック・・・。いろいろあった平成だが、結局解明されていないようにみえるのは以下3点。

①産業政策の問題点(産業が転換できていない)
➁企業の事業変革における問題点(既存企業が変わっていない)
➂企業の事業創造における問題点(新興企業のインパクトが弱い)

これらが明らかになってようやく「企業の活力」はどうやって生み出せるのか、活力の維持(既存企業の事業変革)、活力の新たな担い手づくり(新興企業の事業創造)、それを支援する制度の在り方(各種政策)が議論できるのではないか?

補足として、先日の記事で触れられていないことを書いてみたい。

・1989年の時価総額トップ5:1位 NTT、2位 日本興業銀行、3位 住友銀行、4位 富士銀行、5位 第一勧業銀行

・2019年4月の同トップ5:1位 アップル、2位 マイクロソフト、3位 アマゾン・ドット・コム、4位 アルファベット(グーグル)、5位 バークシャー・ハザウェイ

時価総額トップ5は1989年は日本企業、2019年は米国企業が占めている。
しかし、この交代は日本企業→米国企業というより、金融業→IT、情報サービス業という産業の牽引役の交代にこそ目を向けるべきである。産業政策の検証を望む理由がここにある。

そもそも1989年は日本のバブル期であり、トップ5が日本企業と言っても金融の企業ばかりである。上位20社のうち14社が金融(本来は実業の裏方のはず)。バブル崩壊でメッキが剥れた金融企業がランキング圏外になったとしても問題ではない。むしろ実業の企業が2019年にランクインしていないことが問題であり、そこに平成の敗北がある

金融以外の時価総額ランキングは以下のように変化している。

・1989年:9位 東京電力、11位 トヨタ自動車、15位 新日本製鉄、17位 日立製作所、18位 松下電器、20位 東芝

・2019年4月:41位 トヨタ自動車(日本企業として最高位)、82位 ソフトバンクG、129位 NTT、138位 キーエンス

ランクダウンしたトヨタ自動車とNTTを除き、1989年に20位内にランクインしていた日本企業で2019年に150位内に残っている企業はない。一方で、新たな日本企業のランクインも乏しい。

このことから以下2点が言える。

・世界から注目されるほどにビジネスモデルを変革した日本企業はなかった(既存企業)
・ 世界から注目されるほどのビジネスを創造し、新たに登場した日本企業もなかった(新興企業)

産業の牽引役は時代と共に変わるのが常である。繊維、鉄鋼、電機、自動車に続く産業のひとつがIT、情報サービスであった。しかし、日本では牽引役とはならなかった。なぜ日本では産業の転換が進まなかったのか検証が必要なはずである。

さらに検証の切り口として以下2点を挙げたい。1についてはさらに細分化して(ア)と(イ)を提示したい。

1. 1989年に存在した企業が2019年に上位ランクインできなかったのはなぜか?
 (ア) 電機、自動車のような他産業からIT、情報サービス業への転換、ビジネスモデルの変革が進まなかったのはなぜか?
 (イ) 情報通信サービス業から、上位ランクインする企業が出なかったのはなぜか?

2. 1989年に存在しなかった企業で、2019年に上位ランクインする企業が登場しなかったのはなぜか?

1の(ア)について言えば、歴史的に祖業を捨て、事業転換する企業は存在する。また、1990年代、2000年のITバブルの頃などに、いわゆるリアル世界の企業でIT、情報サービスに取り組んでいた/取り組もうとしていた企業はあった。

(イ)は既存企業と言えば製造業ばかり検証されるが、IT、情報通信サービス業こそ検証されるべきではないのか?という問題意識による。米国でもIBMは確かにトップ5にいない。しかし、だからといって、NECや富士通もいなくてよいということにはならないはずだ。

2は、1990年代以降、日本でもベンチャー企業が沢山出た。しかし、日米企業に差異がある。これは何によるものか?ということである。

2019年トップ5にある米国企業は、ビジネスモデルの変革やインパクトあるビジネスの創造を実現できた企業である。日本はなぜできなかったのか?

1、2位のアップル、マイクロソフトは1970年代に設立された企業であり、企業寿命30年説でいえばその期間を過ぎている。企業の高齢化が活力の衰えに繋がること(内部環境)を言い訳にしてはいけない

3、4位のアマゾンやアルファベット(グーグル)は1990年代に登場した企業である。ITバブルを経て残っている。外部環境を言い訳にしてもいけない

これらの企業はいずれも変化の速いIT業界にありながら、強い存在意義を示している。紆余曲折を経ながらも変化を自ら創った or 変化に適応してきた企業と言える。細部を見れば、どの時期、どの企業の、どの部分が変革・創造に相当するかもわかるはずだ。

思うに、平成を敗北としているのは昭和の時代に勝利を実感していた世代だろう。彼らが敗北感を感じているせいか、検証や分析が中途半端な感傷の域に留まっているようにすら見える。中高年世代の懐古趣味や中途半端な諦念感が冷静な分析や検証を邪魔していないか?企業の核となる中年世代の敗北感が事業変革や事業創造を邪魔していないか?実際の敗北よりも敗北「感」の方が前向きな行動を阻害するので問題としてはより大きいだろう。

一方、上の世代から植え付けられない限り、若い世代に敗北感はないはずだ。なぜなら、彼らには平成、それこそがスタート地点だったのだから。デジタルネイティブの彼らこそ、インパクトある事業を創造する新興企業(上述した➂を超える)を興せるだろう。

平成も残す所わずか。
変化対応が後手になりがちな日本企業。令和では変化に適応する、変化を先取りする、変化を自ら創れるよう、中高年世代の関係者には検証を望みたい。

歩く好奇心。ビジネス、起業、キャリアのコンサルタントが綴る雑感と臍曲がり視点の異論。