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ただお出掛けがしたいだけだった

正午を過ぎた頃、友達から1通の通知が来た。遊びの誘いだった。彼女からの連絡はいつも突然だ。だからこそいい。数日後の約束をしたところで、私の体調が良いかを予測することはできないから。

内容はタコパの誘いだった。たこ焼きパーティーである。参加者は私を含めて男女4人だった。友達の仕事が終わるのが遅く、夜に彼女の家で開催される。彼女は彼氏と同棲をしていて、その家には私も何回か行ったことがあった。体力を温存するため、ベッドで3時間ほど仮眠をとることにした。

友達が家まで迎えに来てくれたときには夜の10時を超えていた。いつもなら、ベッドに入り寝る時刻であった。もうこれでは、朝の10時のようだと思った。ただ天気はどんより曇りで暗かった。

まだタコが揃ってないらしく、今から友達と2人で買い出しに行くことになった。タコが欲しいのに、なかなか見つからない。この際冷凍のタコでも良かったが、ドンキにもなかった。もう時刻は真夜中に近づいているというのに、ドンキは若者で賑わっていた。金曜日の夜だから、気分でも良いのだろうか。店内は活発で楽しげな雰囲気だった。ただレジだけが、がらんと空いており、一つだけ稼働していた。店員は若いお姉さんで、とても愛想が良かった。

結局タコは、2店舗目のコンビニで見つけた。1店舗目では値札はあるものの、売れきれたのかなかった。お酒のおつまみに食べれるよう、刺身として売られているタコつぶである。値段は少々かかったが、真夜中のタコパなんてこんなものでいい。

私たちが家に着いたときには、既に11時だった。男子は揃っていた。友達の彼氏であるA君と会うのは久しぶりだったが、外見からして変わった様子はなかった。O君とは初対面だったが、聞いていた通り真面目で良い子そうだった。ハリポタを適当に流しながら、タコパを始めた。机の上にはお酒が沢山並べられていた。それもストゼロの缶が多くあった。ちなみに友達はお酒を飲まない。

「めっちゃお酒あるじゃん」私が言うと、私が来るから沢山買ったんだと既に飲んでいたA君が楽しそうに言った。私はお酒が強いというイメージがついているらしかった。薬を飲んでいるから今日はお酒を飲まないことをあらかじめ言っておけば良かった、と思った。その旨を彼らに伝えたら、案外すんなりと受け入れてくれた。

だいぶ仲が打ち解けた頃、「今日は薬もう飲まないつもりだったからお酒飲んじゃおうかな」とぽろっと一言こぼした。すぐに、酔いのまわった男子達が「飲みなよ、飲みな!」と勧めてきた。薬は家に置いてきてしまったし、薬を飲まないのならばお酒は飲んでも大丈夫だった。それでも飲まないにこしたことはなかった。

「さすがにストゼロはきついから」って笑いながら、私は冷蔵庫を探った。他には、ほろよいくらいしかお酒がなかった。「なんでストゼロばっかなん」と言うと、A君に「だって私が来るからさ」と、また同じことを言われた。仕方なくほろよいを開けたが、すぐに空になってしまった。私はストゼロに手を伸ばしていた。

男子らに何回か煙草に誘われた。私は20歳になって煙草は辞めようと思いしばらく吸っていなかった。数本だけならいいよねと思い、やめていた煙草にも手を出した。久しぶりだったけれど、案外吸えるものだなと思った。煙草が肺を汚染していく感覚が妙に懐かしさを誘った。

ベランダは寒かった。ベランダにはO君とA君の3人だった。O君は寒さで体が震えていた。私は不思議と昔の感覚を思い出していた。「身体、震えているじゃん。ねえ、私のこと抱きしめてよ」彼は案外素直に抱きしめてくれた。O君が彼女を欲しがっているという話は聞いていたし、それは本人からも直接聞いた。けれど、今の私は彼氏を必要としていなかった。ただ男がいればよかった。

4人でスイッチをしてゲームに熱中しているうちに、もう時刻は朝の5時を過ぎていた。O君だけがお昼からバイトがあるから、早めに帰らなければいけないという話だった。しかし、皆に眠りの限界が来ていた。お布団が一つしかないから、2人で寝てねと友達に布団を渡された。

ソファで私はO君と一緒になった。A君がこっそりと隣に来て私たちに囁いた。「ゴムはないからそこはなんとかしてくれ」と半ばにやついていた顔だった。A君もO君もかなり酔いがきているようだった。まだ理性が残っているのは私だけなのかと少し呆れた。A君が「じゃあ良い夜を」と言い残して隣の部屋へ行くと、早速O君にキスをされた。O君にはさっきもキスをされていたが、このキスでやる気だなと思った。

一緒に横になっていた時にO君から聞かされたA君に関しての暴露が頭に残っていた。私はそこまで驚きはしなかったが、彼女が知ったら傷つくだろうと思った。O君はお酒の酔いのせいで口走ってしまったのだろうが、相手が悪かった。私はまだお酒で記憶をなくしたことはなかった。

朝目を覚ますと、O君は既に部屋を出ていた。途中何回か目を覚ました時に彼が部屋を出ていった記憶があるが、その時は眠くて声をかけずにそのまま寝てしまった。2人はまだ寝ているようだった。

ソファでそのまましばらく横になっていたが、あの感覚が来て、やばいと思った。よりによってどうして今来てしまったのか。私は涙を流し始めた。

少しして11時頃にやっと友達が起きてきた。私の異変に気が付いたようだった。友達に「大丈夫だよ」と背中をさすられるも、身体が動かなかった。声も出せなかった。涙は流れたり、止まったりを繰り返した。今朝見た夢の内容が私を怖がらせたし、その他多くの考えが私の頭に浮かんだ。友達に、人に、身体を触られることも怖かった。誰も私に触れないでと思ったが、声の出ない私にはそれを伝える方法がなかった。

完全に、うつの症状が出ていた。A君も起きてきて、2人で何か話しているようだったが、内容は聞こえなかった。でも、私をそっとしておいてくれたのはありがたかった。彼らはそこには理解のある友人だった。

しばらくして、ゆっくりと起き上がった。すると、突然吐き気がした。我慢できなくなり、トイレで嘔吐した。その後も数回駆け込み嘔吐した。どうして、と思った。苦しかった。昨夜も食欲はなかったため、たこ焼きもほんのわずかしか口にしなかった。それにお酒で吐いたことはなかった。吐くものは何もないはずなのに、なぜか嘔吐が止まらなかった。久しぶりに飲んだお酒がいけなかったのか。はたまた、効かないなと思いながら服薬していたけれど、実は効いていて薬を2回分抜かしたことの結果なのか。原因が分からなかった。

キッチンの隅にうずくまって泣いていた。それを見つけたA君が「お家に送った方がいいね」と友達に言い、友達が私の荷物を持って家まで送ってくれた。その日起きてから、私は一言も発しなかった。彼らにバイバイを告げることもできなかった。目は虚ろになっていただろうし、自分でもどうしようもできないのが悔しかった。身体も上手く動かせなかった。

帰宅した後も、悔しさや悲しさでどうしようもない感情でぐちゃぐちゃだった。その日は何も食べていなかっため、何か食べなくてはと思い、夜ご飯には手をつけたが、何かを口に入れる行為さえきつかった。無理やり食べている感覚が苦しかった。口に入れる度に吐きそうになり、食べることが命がけだった。

久し振りのお酒と煙草と夜更かしで無理をしたのは私の責任かもしれない。しかし、以前できていたことが今は許されない。たまにのお出掛けも身体が許してくれない。

私はとてつもなく辛かった。苦しかった。死にたく思った。

平気で毎日を過ごしている人が羨ましかった。健康体でありたいと強く思った。普通の身体に戻って欲しかった。既に呪われているかもしれない自分の身体を呪いたくなった。

それでも私はいつ治るのか分からない不安と向き合わなくてはいけなかった。他に、方法も、何もすることができないでいた。


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