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【書評】『リテイク・シックスティーン』豊島ミホ・著

高校の始業式、初めて出会ったはずのクラスメートが微笑みかけてくる。

「あたし、未来から来たの」

もう一度人生をやり直すという荒唐無稽な彼女の言い分が、まんざらウソではなさそうなことに気づいて戸惑う主人公。
SF小説にありがちなタイムスリップは、私を、彼女を、どう動かしてゆくというのか。

「どうして、私に会いに来なかったの。その時」

未来の世界で人生を投げ出してしまったという彼女に、16歳の主人公は問いかける。
でも、歳をとった読み手の僕は思ってしまう。
高校生の今は対等のクラスメートの親友でも、10年以上経って、働く場所も暮らす世界も変わってしまった相手に、今と同じように声をかけられただろうか。

未来を知らないからこその真っ直ぐな純粋さと、未来を知ってしまったからこそ過去を過去にしておきたい純情、そして、いま目の前に横たわる現実との格闘……

「未来は同じ」
「……同じじゃ、ないでしょ」

現在は作家活動を休止してしまっている筆者の、青春小説の最高峰ともいうべき傑作


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