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「&So Are You」完結済み 全50話

50
バラは赤い、スミレは青い、お砂糖は甘い、そうして君も……。 一九六三年ミズーリ。代々トウモロコシ農家を営むベンの住む田舎町へやって来たハンナは、初対面でズケズケものを言う嫌味な…
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#友情

「&So Are You」第一話

「&So Are You」第一話

プロローグ
 照りつける太陽の光が、僕の背中をローストターキーの表面のようにこんがりと焼きつける。
 目前に広がる湖面には零れんばかりの光の粒が溢れ、宝石箱を埋め尽くしたダイヤモンドみたいに煌めいていた。

 この場所で共に長い時を過ごした僕たちは、なにひとつ色褪せることなく同じ輝きを放っているはずだ。
 すべてあの頃のままに。

 そうして君も、あの日のキラキラした笑顔のままで……。

 耳を澄

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「&So Are You」第三十六話

「&So Are You」第三十六話

ハンナからの手紙

 ベン、あなたが言う通り、この戦争は無価値で無意味なものよ。

 そしてその大きな代償を払わされるのは、この国の政治家たちではなく、前線で戦うあなたたち。

 あなたが今まさに見ているように、共産主義を目指すベトナムに対して、自分たちの都合だけで民主主義を彼等に押しつけようとするアメリカのふるまいは、ベトナムに暮らす人々にとって、ただの侵略行為でしかないわ。

 そしてあなたが

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「&So Are You」第四十二話

「&So Are You」第四十二話



「お前も知ってるんだろ!? ここの情報はもはや敵に筒抜けだって! 上層部はそれを逆に利用したんだ。解放軍を一ヶ所に引き寄せられるだけ引き付けて、空撃で一網打尽にする作戦だ。俺たちはそのおとり役に選ばれたんだよ!」

 ――空爆!?

 知らない情報につい攻撃の手を休める。

「空からってなんだよ! 砲兵隊の援護爆破じゃないのか!?」

「死にたくなかったら手を止めるな!」デクスターは撃ち続け

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「&So Are You」第四十三話

「&So Are You」第四十三話

名もない駒

 なんのために戦い、そしてなぜ死んでいくんだろう? このジャングルの暗闇と同じに視界が闇に染まる。

 僕たちは所詮、ルールを知らない子供がプレイするゲームの盤上に置かれた名も無い駒でしかない。彼等は相手の駒を減らすのに躍起立ち、駒の持つ役割も考えずに、ただ単純に消耗戦を繰り広げていくだけ。

 きっと手持ちの駒が無くなれば、優しいパパとママが新しい駒を勝手にいくらでも補充してくれる

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「&So Are You」第四十四話

「&So Are You」第四十四話

悲しいこだま

 穴の中は兵士たちの流した血でぬかるみ、火薬と死肉の臭いで満たされていた。おびただしい数の死体が積み重なりもはや敵か味方かも判別できない。

 激しく響く爆撃音と銃声をかい潜り、穴を覗いてはグレッグの名を呼んだ。

 穴のひとつから僅かにうめき声が聞こえた。中に転がり落ちるように飛び込むと、エリオットとジェフの姿があった。エリオットは頭部の大部分を失っており、すでにこと切れていた。

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「&So Are You」第四十五話

「&So Are You」第四十五話

よお相棒!

 目の前でまた一人戦友が逝った。――結局、僕は彼の願いを叶えてやることができなかった。でも彼は今、最期の望みが叶い、穏やかな表情でその人生に幕を降ろしている。

 本当のところ、ウィズリーはどうだったのか? 頭の中はそればかりが駆け巡っていた。本当に自殺だったのか? それとも誰かに最期を頼んだのか? 

 なにが善で、なにが悪なのか……。この戦争の先に行けば行くほど、見えなくなってい

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「&So Are You」第四十七話

「&So Are You」第四十七話

空を切り裂く

 そのときだった。僕たちは何者かに狙撃を受けた。弾は当たらなかったものの、弾みで地面に転がった。

 グレッグは一早く体勢を立て直すと、木の陰まで僕を引きずってM60の残弾を確認し銃を構えた。

 現時点で、おそらく西側はほぼ制圧されている。敵の部隊は南東全域に渡って進撃しているはずだ。嫌な予感が過る。そしてそれは見事に的中していた。

 第一・第三中隊の攻撃をすり抜けたゲリラ部隊

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「&So Are You」第四十八話

「&So Are You」第四十八話

親友の声

『…… …… …』

『……… … ん………… …………』

『… …… ら……… ……  ……か……』

 バタバタと音の鳴る暗闇で、誰かが囁いている。

『ベン、ドランクモアに行かないか』

 この声はグレッグだ。

『ベン、親父さんが呼んでるぜ?』

 次第に意識が呼び起こされる。

 ――僕は生きている!? 

『ベン、お前ハンナに惚れたんだろ? この退屈な町にはいないタイプの

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「&So Are You」第四十九話

「&So Are You」第四十九話

第五章 Pennsylvania, 1966二人の儀式

 ――恐怖と狂気と絶望が渦巻くベトナムの大地から、傷つき疲れ果て命からがら飛び出した僕は、故郷へと帰り着き君に会うことさえできればすべてが元通りになると思っていた。

 壊れたものも、失くしたものも全部ね。

 どうしてそんな風に考えてしまったんだろう。落ちた花の蕾は、自らの力で茎に戻ることもないし、蕾を失った茎が頭を垂れて落ちた蕾を拾い上

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「&So Are You」第五十話(最終話)

「&So Are You」第五十話(最終話)

エピローグ Missouri, Later新たな家

 やがて、親しい友人や家族が僕の前から去っていき、そしてさらに時が流れた。

 慣れ親しんだトウモロコシ畑と、グレッグの愛したリカーショップ、そして金物屋くらいしかないこの退屈な町が、どれほどにその姿を変化させていったとしても、ただこの湖だけは、今も昔も変わることなくこの場所に在り続けた。

 どんなに町が姿を変えても、たとえ、この目が光を失っ

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