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「鳥かごのハイディ」完結済み 全23話

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ラクロスの双子、エレノアとチャーリーは幸せに暮らしていた。姿はそっくりでも、性格は正反対。せっかちで右利きのエレノアに、不器用で左利きのチャーリー。一歩先を行くエレノアをチャーリ…
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#カウンセリング

「鳥かごのハイディ」第一話

「鳥かごのハイディ」第一話

プロローグ
 ハイディー、エレノア。

 八月のグランダッド・ブラフから見る、ミシシッピ川の渓谷と、青々と生い茂る木々の緑。その境界線の向こうには、手を伸ばせば届きそうなほどの真っ白くて大きな雲と、透き通った青空が見えるわ。
 青と緑の境界線を自由に飛び回る野生の鷲が、今のわたしには眩しく見える。このシーズンの、グランダッド・ブラフ・パークって、こんなにも観光客で賑わってたかしら? 
 たった一年

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「鳥かごのハイディ」第三話

「鳥かごのハイディ」第三話

Twins(2)

「チェック!」
 女性の声が聞こえてわたしは目を覚ます。目に映るのは、所々剥がれかけたシンプルなアイボリーの壁紙と真っ白な天井にぶら下がったブリキのカバーの小さなライト。
「チャーリー? スタイルズ先生とのカウンセリングの時間になるわよ? そろそろ起き上がっても良いんじゃない?」
 ベッドから上半身を起こし、声の方に顔を向けると、看護師が笑いながら再び部屋の扉を閉めた。
 小窓

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「鳥かごのハイディ」第四話

「鳥かごのハイディ」第四話

Twins(3)

 わたしとアガサは部屋を出て、無機質で無表情な廊下を進んでいく。廊下の壁に備え付けられてる窓から入り込む陽の光が、一層この白い廊下を眩しく感じさせる。
 一本道の廊下を進んだ先には広い談話室があった。施設のプログラムを受けてる色々な変わり者たちが羽を休める憩いの場所。くだらないニュース番組をしかめっ面で見てる人もいれば、相手もいないチェス盤を睨みつけてる人。絵を描いてる人もいれ

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「鳥かごのハイディ」第六話

「鳥かごのハイディ」第六話

第二章Haze

 レベッカに付き添われたアガサを見送ったわたしは、彼女たちが消えていったエレベーターホールをぼんやりと眺めていた。
「アガサが戻ってくる頃になったら看護師に連絡をして、君を呼び出してあげるから、それまで談話室か自室で過ごすと良いよ。廊下にいたら、体が冷えてしまうよ」
 気遣かってくれるモーヴィーの言葉に甘えて、わたしは談話室へと引き返してアガサを待つことにした。
 水色の扉を開け

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「鳥かごのハイディ」第八話

「鳥かごのハイディ」第八話

Haze
(3)

「チェック!」

 翌日、毎時間恒例の看護師によるチェックコールのあと、レベッカがわたしに向かって言った。
「チャーリー。あなたに面会人が来てるわよ?」
 レベッカの話に驚いたわたしは、ベッドから体を起こして彼女に訊ねた。
「面会人? 一体誰?」
「あなたのお父さんよ。私について来て」
 レベッカが優しく笑いながら廊下の方へと姿を消す。わたしは慌てて後を追った。
 エレベーター

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「鳥かごのハイディ」第九話

「鳥かごのハイディ」第九話

Haze
(4)

 一時間ほどパパと過ごした後、看護師たちの昼食を告げる声と共に次第に廊下が騒がしくなっていく。レクリエーションルームの扉をノックする音が聞こえると看護師長のクレアが顔を覗かせた。
「チャーリー? 食事の時間だけど、どうする? お父さんの分と一緒に、ここへ運びましょうか?」
 クレアに返事をせずに、わたしはパパの顔を見る。
「たまには、一緒に食事をしないか?」
 申し訳なさそうに

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「鳥かごのハイディ」第十話

「鳥かごのハイディ」第十話

第三章Smoke(1)

「チェックメイト!」
 わたしのビショップを弾き飛ばしたエレノアは、嬉しそうにナイトを掲げた。
「なんで? エレノアの真似をしてるのに、なんでいつもわたしが負けちゃうの?」
 チェスのルールなんてまったく知らなかったし、駒を置く場所さえ正確には知らなかったけれど、天気が悪くて外で遊べない日には、エレノアは率先してチェスを引っ張り出してはわたしを相手に大勝ちを決め込んだ。

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「鳥かごのハイディ」第十二話

「鳥かごのハイディ」第十二話

Smoke
(3)

 翌日の空は薄暗く、ずっと曇天模様で、小窓の先にある外の光りからは完全に遮断されていた。
 どのみち、この狭い箱にある小さな窓からじゃ大した景色なんて見えないけれど、光りの差し込む量が違うだけで、この鳥かごは独房のように重苦しく感じる。
 いつもの看護師チェックの後に、毎日気分の落差を感じさせないアガサが大きな声でこう言うの。

「ハイディー! チャーリー」
 彼女はいつも元

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「鳥かごのハイディ」第十三話

「鳥かごのハイディ」第十三話

Smoke
(4)

「君たちが毎週末ピクニックに出掛けたグランダッド・ブラフと呼ばれる場所は、この時期どんな様子だったんだい?」

 スタイルズ先生の問い掛けに、わたしは目を開けることなくそのときの様子を話し出す。
「ただ、綺麗だとか、紅葉が美しいだとかって言葉を並べるだけでは、とても陳腐になってしまう」
 ラクロスの街並みは平坦で、極端に背の高い建物などない。そのラクロスで最も高台のグランド・

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「鳥かごのハイディ」第十五話

「鳥かごのハイディ」第十五話

第四章Border
(1)

 ゆっくりと昇っていくエレベーターの速度が、いつもよりも遅く感じる。エレベーター内にあったボタンはすべて押したけれど、行き先はいったいどこなのか? すべては運任せ。
 きっと神様が願いを聞き入れてくれるのなら、開いた扉の先には、外の世界に繋がる輝かしい出口が見えるはずよ。

 ガタンッ!

 ……古臭いエレベーターが、故障したように突然止まるのはいつものこと。どこかの

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「鳥かごのハイディ」第十六話

「鳥かごのハイディ」第十六話

Border
(2)

「チェック!」

 扉が開く音と共に、看護師長のクレアの声が聞こえた。目を覚ましたわたしは、いまだにこの狭い鳥かごの中にいることを知り、大きなため息をつく。
 いつの間にか真っ暗になっているこの部屋と、窓の向こう。すぐ傍には椅子に腰掛けたままで眠るアガサの姿があった。
「クレア……、今は何時なの?」
 ベッドから訊ねると、クレアは腕時計の文字盤をペンライトで照らし、「午前二

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「鳥かごのハイディ」第十七話

「鳥かごのハイディ」第十七話

Border
(3)

 あの日、思い出の宝箱の中の、エレノアに宛てられたチャーリーの手紙の文言が脳裏を揺蕩っていく。

 ママが言った、オレンジの片割れには、きっともっと別の意味があったって思うのはわたしだけじゃないはずよ。
 ねぇ? エレノアだってそう思うでしょ? 
 でももしそう思わないなら、わたしたちは体だけじゃなく、心までも切り離されたオレンジの片割れだわ。
 わがままばかり言って、本当

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「鳥かごのハイディ」第二十話

「鳥かごのハイディ」第二十話

String
(3)

 チャーリーがそれを望まないこともわかっていた。それでもママのベッドで泣き暮らすチャーリーを見ていたら、このまま家族の想い出の詰まったラクロスにいたら、いつまでたっても哀しみは癒えることはないだろうと思わせた。
 だからわたしは、喪失の痛みからチャーリーを遠ざけるためにミルウォーキーの高校へと追い出したんだ。将来のことを考えれば、たとえ恨まれることになったとしても、学校に通

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