【23】 緊急事態宣言下、近所の肛門科へおしりに指をつっこまれにゆく私
2020年の緊急事態宣言下、街が静まり返っているある日の朝、こちらにも緊急事態がやって参りました。
連日、痛みのあったおしりが、さらに一層ひどく切れ、派手な出血をしてしまったのです。
私は布団の中に潜り込み、半泣きになっていました。
(傷がまったく治らない……やばい……)
なんとかして、この状況を打破できぬものか。
チューブの軟膏と、便を柔らかくするマグネシウム。
これ以外に、何かできる処置はないのか。
私は、近所の「肛門科」がある病院を検索し、電話を掛けて状況を話してみました。
「緊急事態宣言のこんな時期に、まったく知らない病院に行って、服を脱いだりして、感染の心配はないの? 大丈夫なの?」
夫がもっともな指摘をしてきます。
いかんせん、おしりの状況も「待ったなし」なのでした。
病院まで到着すると、しかし待合室の電気が消えており、誰一人いませんでした。
(え??? 休みじゃないよね?)
しばらくおろおろしていましたが、奥の診察室の方は明かりがついています。真っ暗な待合室を抜け、勝手に奥へと入って行きました。
「あのう……」
そう声を掛けると、パソコンでなにかの動画を見ていた50代くらいの男性医師が、私の姿を認めてこちらにやってきました。
「スタッフ全員いないんだよね~」
医師が気さくな様子で説明してきます。
緊急事態宣言下で、看護師も事務員も、すべて休ませているとのこと。院長がたった一人で、私のような突発的な患者を受け入れているとのことでした。
「今現在、乳がんの抗がん剤治療中なんですけど」
私は、おしりが切れた経緯などをひととおり説明しながら、服用中の薬などを一通り説明しました。
それから下半身の服を脱いで、簡易ベッドに横になりました。枕に頭をつけると、ウィッグがずれるのではないかと不安になって、自然と頭に手がのびます。
(……何が悲しくて、こんな時期に、知らぬおっさんの前で尻の穴を出しているのか)
そんな思いが頭をもたげますが、そうも言っていられない切実さがありました。
医者も淡々とゴム手袋を装着し、何かジェル状のものをつけると、容赦のない様子でおしりに指をつっこんできました。
(ギャーー!!!!!!)
「痛い?」
「い、痛いです……」
そう言ってもやめる様子もなく、指をぐりぐり回してきます。
(イター!!! 何かのプレーじゃないんだからさ……って、そっちも仕事か……)
少しして医者は指を抜くと、「悪くないね」と言いました。
(悪くないって……どういう診察なんだ。だいだい指を突っ込んだだけで、いいとか悪いとか、分かるんだろうか?)
そう思っていたら、つっこんだ指に血が付着しなかったことが悪くない理由のようでした。
便を出すときには毎度激しく出血してしまうのですが、中に血が溜まっていたりはしていない様子。
(……えーと……で結局、私は何をしにきたんだ……肛門に指をつっこまれにきたんだっけ……そういう遊びをしにきたんだっけ……イヤイヤ、そんなバカな)
服を着ながら、「何か薬をください」と訴えると、
「どこだ、どこだ……」
棚の中の薬を探し始める院長先生。
薬の置き場所を把握していないらしく、やたらと時間がかかります。
しばらくガサゴソあさり「この軟膏は効くから」と小さなチューブ状の軟膏の連なりを、そのまま手渡されました。
袋などはもらえず、剥き出しのままです(笑)
(この人、診察以外は、100%スタッフまかせなんだろうね……ま、どこの医者もそんなもんか……)
病院の適当ででたらめな対応など、もはや、どうでもよいのです。
治る薬さえくれるのなら、それがすべてなのでした。
院長は、会計も適当で、レジ打ちがうまくできぬ様子。
あっちこっち押しまくって、急にレジがバーンと開きます(笑)
初診の際に作るであろう診察券も作ってもらえずに、病院を後にしたのでした。
(診療費、本当にこれで合ってるのか?? 多く払ってないよね??)
頭を掠めますが、高額じゃないから「どうでもいいか」とスルー。
院長の「この軟膏は効くから」の言葉を一筋の光として、
闇医者のような、コロナ禍の肛門病院を後にするのでした。
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