企業が直面するAI危機とは? -業界破壊者の登場-
Chat-GPTに代表される大規模言語モデル、いわゆる生成系AIの出現によって「AIに仕事を奪われる」が現実化し、それはどんな意味を持つか、という話を今までしてきました。
安易な楽観論は正しいようだが…
ところで僕が語った、「自分の仕事がAIに奪われるか否か」という「AI脅威論」は、あくまで、企業経営者と社員、すなわち、会社内のこととして決められることになります。
日本には労働基準法があり、不当解雇はできませんし、「AIが出現したから社員はいらなくなったので解雇」は、現在の労働基準法に抵触します。
ですので、会社に雇用されている立場の社員の中に、「AIが社員より優秀であっても、そう簡単に自分の仕事はなくならないだろう」と考える人がいてもおかしくはありません。
また、雇用している側の経営者も、「AIを導入すればわが社の業務効率は上がり業績も上がるのでは」という期待を持っているかもしれません。
AIによって企業は「存続の危機」に?
しかし、僕は、経営者が、今すぐAI時代に対応した考えや行動を始めないと、AIの発達によって、ゆくゆくはあらゆる企業にとって「存続の危機が来るかもしれない」と思っています。
「いやいや『企業の効率化をどうするか』、『AIに何をさせて、従業員に何をさせるか』を考えるのが、AI時代の会社経営でしょう」
もしも、本当にそう考えているなら、一度立ち止まってじっくり考えた方がいいと思います。企業経営者なら特に、です。
AIの進化がもたらす業界破壊
企業にとって、AIの進化がどんな脅威になるか? それは、簡単にいうと、業界破壊が起きる、ということです。AIにより、ほぼすべての業界でディスラプション(破壊)が起きる可能性が高いのです。
ディスラプションというと思い返されるのが2010年に登場した米のベンチャー企業「UBER」です。
「UBER」は、テクノロジー+ビジネス・アイデアのひらめき、を組み合わせることで、タクシー業界の問題点(値段が高い、すぐに捕まらない、サービスが悪いなど)を解決しようとしました。
具体的には、個人の保有車をタクシーにするという「ビジネス・アイデア」と、Google Mapを配車、乗車料金計算などに使うという「テクノロジー」を組み合わせたビジネスを起業。
この「ディスラプター(破壊者)」の登場により、米国をはじめとするタクシー業界はあっという間に破壊され、業界は様変わりしました。この間わずか数年で、です。
僕は、今年に入りすでに半年以上「AI中山」を開発することで、毎日AIに接しています。
Chat-GPTに代表される生成系AIの登場により、産業のディスラプション(業界破壊)が、3年以内に次々と、さまざまなな業界で起きるだろうな、と確信するに至りました。
AIによる業界破壊の例「コールセンター」
AIによる業界破壊として、わかりやすい例として、コールセンター業界をとりあげて、具体的に説明します。
多くのコールセンターは、現在、数百人の、社員オペレーターと非正規社員を、10人程度のスーパーバイザー(トラブル対応支援、仕事の割り振りをするマネージャー)を抱えて、電話の受付応答をしている、というのが現状ではないかと思います。
採算性と競争がとても厳しい業界であり、顧客企業のヘルプデスク業務の受託ののため、壮絶な価格競争をしています。
そのため、コストの抑制をせざるを得なくなっており、オペレーターの数を限定し、電話回線数を絞っています。そのため、顧客はコールセンターにTELすると、30分~1時間程度待たされることがほとんどです。
もちろん、コールセンターの中には素晴らしい対応が受けられる場合もあります。
しかし、大半のコールセンターでは、電話がようやく繋がったと思ったら、業務の習熟度や知識の高くない、アルバイトや経験の少ない社員が答える場合が多く、調べるのに時間を要するために回答に時間がかかったり、気が利かない対応を受けることも多々あります。
僕がコールセンター事業に参入するとしたら
もし「異業種からコールセンター業界に参入せよ」、といわれたらどうするか? 僕ならAIをフル活用して、次のような手順で新規のコールセンターを作るでしょう。
これで、旧来のコールセンターの
①繋がらない
②答えの品質が悪い
③ブラック労働と言われがち
④休日、夜間はコールセンター業務をしていないのでトラブル時に困る
の、すべてが解決します。
AIは24時間、365日、文句を言わず働きます。四六時中AIを働かさせてもブラック労働にはなりません。労働組合も結成しないので、賃金アップも要求しませんし、仕事をさぼったりもしません。
しかも人数(コンピュータ数)増やし放題。AIで動くシステムを増やすだけで、即座にオペレータの増員ができます。業務を受託している企業に新しい製品が追加されても数日で自動的に学習します。教育コストはほぼかかりません。
販管費はおそらく1/10ぐらいに圧縮
では、この会社の経費はどうなるか。
① 人件費:社長+スーパーバイザー10人の給与
② AIシステム構築料金(初期1000万円程度:LLMは、「AI中山」と同じように、フリーソフトを使いますので「タダ」です。)+ランニングコスト(クラウド利用料月100万円程度)
だけです。
今のコールセンターの人件費(販管費)を比べると、おそらく1/10ぐらいだと思います。それでいて、何でも知り尽くしているAIが丁寧に受け答えしますので、サービス品質は既存のコールセンターに比べてとても高く、かつ、24時間365日営業できます。
顧客である企業は、大勢の従業員を抱える既存のコールセンターと、僕でも作れるであろう、異業種から参入してきたこの会社の、どちらに業務を委託するでしょうか?
異業種から、ベンチャーから、破壊者が参入
すべての業界で、こうしたことが起き始めるでしょうが、まだ何も起きていないから誰も気が付いていません。
AI企業経営にどう使うかを真剣に検討しましょう…という話を、あなたが上司にしても、「同業他社はAIに手を付けていないから、AI利用が本格化してから導入を検討すれば問題ない」と答えが返ってくるかもしれません。
そういうことでは、全くないんです。
僕は、先ほど「異業種からコールセンター業界に参入せよ」という前提で例を書きました。
同業企業だけがライバルではありません。なぜならAIは業界に精通していなくても学習して、その業界のことをかなり深く学びます。つまり生成系AIリリース前の時代に比べて、異業種からの参入障壁が格段にしやすくなる。そのため、異業種からの参入者が増えてもおかしくありません。
そうです、同業他社のAI利用が脅威ではなく、自社でAI利用が十分でないことがリスクになるのでもなく、一番のリスクは、異業種から、ベンチャーや外資から「破壊者」が参入してくることです。これが今後、最大の脅威に成り得ます。
経営者が今すぐ、手を打たないと…
先に述べたように、日本には労働基準法があります。労働者を保護する反面、採用労働制を取らない大半の企業にとっては、労働基準法があるため、社員の解雇が簡単にはできません。
そのため人員調整したいときに制約を受け、新しい人材の確保が困難になることがある、解雇にあたっての解雇費用、失業保険費用、再就職支援費用などのコストが発生する、などのデメリットも考えられます。
多くの正社員を抱え、特に終身雇用、年功序列を是としてきた伝統的な企業ほど、こうした傾向にあるといえるでしょう。主業が過去のものとなり、ビジネスそのものを変えていきたいのに、現場が抵抗して動いてくれない、といったことも想像できます。
しかし、スタートアップ企業や外資は、合理的な判断がしやすいという点で圧倒的に有利です。従業員も新たに参入するので数多くいないスリムな企業形態で参入してきます。
すなわち、「AIに業務をさせることで、既存企業に対してコスト構造で勝算あり」、と判断すれば、あなたの業種にも間違いなく彼らは「破壊者」として参入してきます。
「AIは専門家任せ」の企業の末路
こうした「AIの発達がもたらす本質」を分かっている経営者が、AIで企業をどう変革していくかを、今から真剣に考えないと、近い未来、2030年にはあなたの会社は存在しないかもしれない…。
そのくらいの破壊が、これから起きようとしているのです。AIの本質を経営者が理解しているか、否か、で、企業、特に、大企業の5年後の未来が大いに変わります。AIは専門家に任せる…といったスタンスでは、この先会社経営はできない時代になったともいえます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?