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#短編小説

長距離電話と猫

長距離電話と猫

電話をする時に限って、猫が邪魔をしに来る。
普段ろくに鳴かないくせに、嫌がらせのように電話を始めるとスマホ近くで鳴くのだ。

「大丈夫?猫ちゃん淋しいの?」

優しい君は少し笑いながらそんなことを言う。

「猫もヤキモチ妬くのかな。」

そんな会話を何回繰り返しただろう。

会えない距離がもどかしく、彼女が我先に話し出す頃にいつもこいつが現れる。

母親が拾ってきた、ハチワレの仔猫。
何故か僕に懐

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男と女

男と女

君が掴んでくれたこの手を
振りほどいたのは、僕の方だ。

「大丈夫、頑張ろうよ。ね、一緒にさ。」

そう言って、君が僕の手を握った時。
とてつもなく、惨めな気持ちになったんだ。

大人気ない。男らしくもない。おチョコよりも小さい人の器だと、僕自身が思う。

八つ当たりだった。優しさに甘えた。

「人生、順風満帆なお前には分からないよ。」

そう言った時に、視界の隅で見えてしまった君の目を、僕は一生

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ある女の日常

ある女の日常

天気の良い朝に
窓を開けて深呼吸をする

寒さに振るえ、慌てて窓を締める

憧れの生活には程遠い
振り返りホコリの溜まった本棚に
軽く絶望する

お気に入りのシャツは
生乾きのままぶら下がっている

朝の星座占いは1位
気分がいい

時計を見ると、すでに家を出る30分前である

バタバタと顔を洗い歯を磨く
2番手の洋服を選び
せかせかとワンパターンなメイクをする

メイクに10分ってかけすぎじゃな

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ある男のルーティーン

ある男のルーティーン

今日もくだらない一日を生きる。

予定の時間をいつも通り30分は遅れて目覚め、鳴りやまないスマホのアラームにいら立つ。

なでる程度に顔を洗い歯を磨き髭をそる。

代わり映えのない通勤着。

まとまらな髪型。

車に乗り込んで、いつものコンビニでいつものコーヒーとパンを購入。

愛想のよいおばちゃんと言葉を交わし、パンを咥えて通勤路を走る。

生きるために働いて、たまにうまい酒を飲む。

今日もく

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我が家の食卓

我が家の食卓

今日、僕は生まれて初めて人を殺しました。

僕をフッた彼女です。

ドラマで見たとおり、ロープを用意して後ろから首を絞めました。

人間というのは、思うより簡単に死んでしまうものだと思いました。

それとも彼女が特別なのでしょうか?

そして僕は、屍になった彼女を裸にしてしばらく眺めていました。

そこへお母さんが入ってきました。

『ヒッ!!』と声にならない音を、喉でたてました。

「お母さん。

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雨の日

雨の日

今日の雨はいつもにも増して、うるさい。

近頃は地球もバグってきてるのだろう。

梅雨というよりはもう、スコールだ。亜熱帯性気候。

日本はどこにいても、災害の危険にさらされている。

などと、専門家めいたことを言っているが。

僕はどこにでもいる、一般人だ。

今日も僕は、薄暗いアパートの一室でこうしてキーボードをたたいている。

僕の仕事は、オンライン販売をメインとしたアパレルの在庫管理。

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