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長距離電話と猫

電話をする時に限って、猫が邪魔をしに来る。
普段ろくに鳴かないくせに、嫌がらせのように電話を始めるとスマホ近くで鳴くのだ。

「大丈夫?猫ちゃん淋しいの?」

優しい君は少し笑いながらそんなことを言う。

「猫もヤキモチ妬くのかな。」

そんな会話を何回繰り返しただろう。

会えない距離がもどかしく、彼女が我先に話し出す頃にいつもこいつが現れる。

母親が拾ってきた、ハチワレの仔猫。
何故か僕に懐いてくる。そりゃあ、これだけ懐かれれば情も湧くし。
眠る時にふわふわの毛が頬に当たれば、幸せな気持ちにもなる。

「そういえば、こいつメス猫だった。」

相変わらずうるさく鳴く猫の背中を撫でながら、2人で小さく笑った。

「はやく逢いたいな」

それは、猫になのか僕になのか。
聞くのも野暮かと言葉を飲んで

「早く逢いにおいで」

と、カッコつけて言ってみたりした。

一人暮らしの彼女の寂しさを、埋めてやれない口下手な僕。
いつも猫に救われる。
すぐにでも抱きしめられたなら、言葉なんかいらないのに。

電話を切る頃には、2人とも言葉少なくなる。
語らない僕の膝の上で、猫がまるまっている。

「明日もあるから寝るね。」

切り出すのはいつも彼女だ。

「そうだね。おやすみ。またな。」

そうやって、今夜も電話を切った。

どうすれば、この距離を言葉で埋められるんだろう。
「愛しているよ。」
その一言を、照れくさくてどうしても言えない。

意気地のない僕の、言い訳のように電話口で鳴く猫。

明日こそ。明日こそ。

彼女に言おう。

「愛しているよ。」


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