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てのひらの物語

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物語を綴るように、体験を通したエッセイ。
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#白夜

夢の中へ帰る

夢の中へ帰る

夢を見たことを久しぶりに起きた後も覚えていた。

以前よく夢の中に出てきた、知らないはずなのによく知っている場所に私は居た。

煙のように消えてしまった、あの町へまた帰って来たのだ。

今までと少し違っていたのは、その町から別の町へ電車に乗って出かけ、またあの町へ帰ろうとしていることだ。

だけれど、私は帰れない。
降りる駅の名前が思い出せない。

夢の中で私は迷っていた。

仕方がないので次の駅

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精霊になった、あなたへ

精霊になった、あなたへ

車ごと列車に乗り込み、南の街から1000km離れた北へと向かった。
車窓を流れる風景は、平原からなだらかな稜線を描く山々、白樺から針葉樹の森へと移り変わってゆく。
極北の大地は太陽の沈まない完全な白夜に包まれ、薄明の空の下を一晩中、夜行列車は走り続ける。

ガタンゴトン、ガタンゴトン、レールと車輪の軋みに揺られ、コンパートメントの三段ベッドに寝そべっていると、「大いなる鉄路」でナレーションを担当し

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わたしの海

わたしの海

私は山に囲まれた片田舎で生まれ育ち、そこは海のない町だった。
子供の頃に海水浴へ行った事も片手で数えられる程で、だからずっと私にとって海は身近ではなかった。
上京してからは、鎌倉や江ノ島など湘南へは年に1回くらいは訪れていたと思う。行ったあと暫くは海の近くに住むのもいいなと夢想したが、日々の忙しない暮らしの中でそのうち忘れてしまい、結局、都心の便利な沿線にある駅からもそう遠くない住居に住み、そこそ

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白夜〜夏至祭の魔法

白夜〜夏至祭の魔法

真夜中0時近くなっても空は仄かに明るいまま、夜はなかなかやって来ない。

私の住む国は今、白夜だ。
白夜というのは夜になっても太陽は沈まず、"Midnight Sun 真夜中の太陽" と言われる現象のことだ。
完全な白夜になるのは北極圏付近だけだが、私が暮らす南部の街も0時を過ぎても宵闇のように薄暗くなるだけで、ほんの数時間でまた朝陽が昇る。
どちらにしても昼間がとても長くなり、夜はとても短くなる

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