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精霊になった、あなたへ

車ごと列車に乗り込み、南の街から1000km離れた北へと向かった。
車窓を流れる風景は、平原からなだらかな稜線を描く山々、白樺から針葉樹の森へと移り変わってゆく。
極北の大地は太陽の沈まない完全な白夜に包まれ、薄明の空の下を一晩中、夜行列車は走り続ける。

ガタンゴトン、ガタンゴトン、レールと車輪の軋みに揺られ、コンパートメントの三段ベッドに寝そべっていると、「大いなる鉄路」でナレーションを担当した春馬くんの、優しく穏やかな声が頭の中に響いてくる。
シベリア鉄道の車内や車窓の風景は、私が乗車している列車にもよく似ている。
二つの国を行き来する列車は今、停止したままだ。いつ再開するのか見通しは立たない。

"あなたの10年後の夢は、なんですか?"
手を振り別れゆく列車の乗客たちに、春馬くんは語りかける。



あの衝撃と悲しみの日から二年が経った。
あなたは突然この世から姿を消した、というのが世間の一般的な認識だろう。
だけれど、私にとっては、あの日からあなたの輪郭がハッキリと形を露わし始めたのだ。

あなたがいなくなって、自分の中にあった美しく純粋で躍動していたものの一部は、もう二度と取り返しがつかない、永遠に失われてしまった…と感じる。



今年も私は人影のない森の中で、あなたを想っている。
白夜の空には、月も星も見えず、日没もなく夜明けも来ない。
鬱蒼とした木々の、枝葉の隙間から光が煌めいている。
さっと風が吹き抜け、湖が波打つ。

梢のざわめき
風のささや
何処かで鳥の鳴き声がする
野ウサギの子供が二匹姿を現し
リスが地面を跳ねている

天から光の粒子が降り注ぎ

一つ一つの存在に魂が宿っている


此処ここに居るんだね
この世界の何処にでも
あなたは居るんだね

私たち一人一人の中に
あなたは存在する

精霊シエル
この国の言葉では
あなたをそう呼ぶ


Never Gonna Be Alone…

もうこれからは、独りじゃない
あなたも
私も





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