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みやまる・スポーツブックス・レビュー

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#小説

相撲と野球のがっぷり四つ:赤瀬川隼『さすらいのビヤ樽球団』

相撲と野球のがっぷり四つ:赤瀬川隼『さすらいのビヤ樽球団』

「ビヤ樽体型」の選手たち

 フィリップ・ロスは『素晴らしいアメリカ野球』で、国技である野球の、架空のリーグの歴史を語ることで、アメリカという国が持つ精神性を小説に描いた。
 日本でも高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』や小林信彦『素晴らしい日本野球』、赤瀬川隼『球は転々宇宙間』などのフォロワー作品が生まれ、国技ではないものの、国技のように日本国民に愛されるスポーツ、野球を通じて、日本の精神性を表

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「奇妙」で「精神的」な野球小説:G.プリンプトン『遠くから来た大リーガー シド・フィンチの奇妙な事件』

「奇妙」で「精神的」な野球小説:G.プリンプトン『遠くから来た大リーガー シド・フィンチの奇妙な事件』

 2021年シーズンの大谷翔平はまさに「未知」の選手だった。投手として9勝、打者として138安打・46本塁打という投打双方で「ごく一握りの選手にしかできない成績」をマークしてしまった。これだけ複雑に進化した現代野球に於いて、ベーブ・ルースのような二刀流の選手が姿を見せることを誰が予想できただろうか。
 20年前に筋骨隆々のマッチョマンたちを細身のイチローがしなやかに勝負したのを見て「最先端」と感じ

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著者特有の「汗臭さ」と「スポーツ賛歌」が光る名著:本城雅人『騎手の誇り』

著者特有の「汗臭さ」と「スポーツ賛歌」が光る名著:本城雅人『騎手の誇り』



本城雅人といえば、野球(『ノーバディノウズ』など)やサッカー(『誉れ高き勇敢なブルーよ』など)など様々な競技で名作を書いてきた、赤瀬川隼や海老沢泰久らと並ぶスポーツライティング界を牽引する名手として言って差し支えないだろう。そして著者特有のハードボイルチックの「汗臭さ」が味わい深い。なので、競馬という、お金が直接関わってくる、ギャンブルという、より男っぽい競技の小説なら絶対面白いはずだと思って

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熱く、真っ直ぐな野球賛歌/平野陽明「ライオンズ、1958。」

熱く、真っ直ぐな野球賛歌/平野陽明「ライオンズ、1958。」



(初出:旧ブログ2019/01/17)

 我々埼玉西武ファンは福岡ライオンズに対して複雑な感情を持っている。近年まで野武士軍団の栄光も、黒い霧の暗部も全てひっくるめて蓋をしてきたことに対する引っかかっりと、福岡から埼玉に居を移してくれたからこそ、我々の元に若獅子たちがやってきてくれたという、「仇花」的な思いを感じている。特にここ最近ソフトバンクが埼玉西武をボコボコにしているのを見ると、「ご先

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虚と実の狭間で戦うレスラーたちのサウダージ――樋口毅宏『太陽がいっぱい』

虚と実の狭間で戦うレスラーたちのサウダージ――樋口毅宏『太陽がいっぱい』



(初出:旧ブログ2017/10/15)

 プロレスというジャンルが有史以来対峙し続けているテーマがある。アングル(抗争などの筋書き)、ブック(試合進行の台本)の存在だ。確かにアメリカの大手プロレス団体WWEがブックの存在を認めたことはある。だがあれほどの肉体のショーが全て事前に打ち合わせた通りに運んでいるかといえぱ、違うだろう。レスラーの背中に他の競技のアスリートとは異なるサウダージを感じる

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監督

監督



(初出:旧ブログ2016/02/16 )
 『監督』がフィクションなのかノンフィクションなのか問われれば一応フィクションということになる。こんな一文が冒頭に入るけど。

 この物語はの登場人物および組織は全て架空であり、現存するいかなる実在人物および実在組織に似ていようとも、それはまったくの偶然である。
 この物語をもう一人の広岡達朗に捧ぐ――――

 『イチロー対古畑任三郎』ではないが、主役

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神様のいない日本シリーズ

神様のいない日本シリーズ



(初出:旧ブログ2016/01/01)

 ミヤまるが読んだ野球小説の中でもベスト3に入るであろう中編。著者は「もらっといてやる」でお馴染みの人だが大胆不敵な発言とは対照的に 繊細な作品。戦後の日本人の根っこの部分にいかに野球があり、いに野球とともに生きてきたかを軽やかに描く。

 息子の香折が自室に閉じこもってしまった。上級生を差し置いて少年野球団のレギュラーを勝ち取り、その上級生からの嫌

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誉れ高き勇敢なブルーよ

誉れ高き勇敢なブルーよ



(初出:旧ブログ2015/12/30)

 友人が「日本のサッカー界は今"幕末"である」と発言したことがあった。代表監督は海外から呼ぶべきという「開国派」、日本人監督を育てるべきという「攘夷派」、Jリーグなんてまだまだという「倒幕派」とJリーグ最高という「佐幕派」。そこまで日本史に詳しくないけどこの指摘はなるほどと思った。

 この本の主人公、望月はJ3クラブのGM。過去に寸前で記者にリーク

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ユニヴァーサル野球協会

ユニヴァーサル野球協会



(初出:旧ブログ2015/11/29)

 野球小説というより野球ゲーム小説。それも古き良きサイコロで結果が決まるアナログの野球ゲームだ。会計士のヘンリーがこれに尋常じゃないハマり方をしていく。ヘンリーがゲームそのものを作り、架空のチームと架空の選手一人一人の設定を練りこんで創造主として空想の野球小宇宙を見守る。

さすがにヘンリーのように一人一人架空の選手を作る度胸は無かったようだが実在の現

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素晴らしいアメリカ野球

素晴らしいアメリカ野球



(初出:旧ブログ2015/11/23)

 高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』のあとがきではこの作品をヒントに書かれたとされ、赤瀬川隼『球は転々宇宙間』の解説にも出てくる。玉木正之『プロ野球大事典』には<プロ野球関係者のなかには、誰ひとり読破したひとがいない、すばらしい野球小説>とのこと。そう言われるとますます読みたくなってくる。そんな感じで今年の夏に読んだ。

 結論から言うと手強い小説だ

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優雅で感傷的な日本野球

優雅で感傷的な日本野球



(初出:旧ブログ2015/11/14)

 印象的な題名ゆえ本の存在はずっと前から知っていたけど読んだのは最近。ピースの又吉直樹が獲り逃した三島由紀夫賞の第1回受賞作。

題名については松井秀喜や大谷翔平が青少年の模範となりダルビッシュ有や岩隈久志へ女性ファンから憧れの眼差しを注がれる「優雅」な面の一方で、選手や監督、オーナー(ここは実名出そうと思ったけど語弊があるので止めた。各自で想像して下

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