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監督

(初出:旧ブログ2016/02/16 )
 『監督』がフィクションなのかノンフィクションなのか問われれば一応フィクションということになる。こんな一文が冒頭に入るけど。

 この物語はの登場人物および組織は全て架空であり、現存するいかなる実在人物および実在組織に似ていようとも、それはまったくの偶然である。
 この物語をもう一人の広岡達朗に捧ぐ――――

 『イチロー対古畑任三郎』ではないが、主役の広岡達朗監督は我々のよく知っている、いしいひさいちの漫画そっくりの知将とは同姓同名の別人。クールかつインテリジェンスな野球小説はいきなり禁じ手のような書き出しで始まる。

 エンゼルス(おそらくヤクルト。この小説はエンゼルス以外の球団と選手名は実名で登場する)はシーズンも終わろうかというタイミングで監督の交代を発表。広岡達朗、現役時代はジャイアンツの遊撃手として活躍するも監督の川上との確執により引退した選手だった。捕手と共謀してリリーフにわざと四球を出させ、先発にハッパをかけるような非情采配で「ぬるま湯」「なあなあ」だったエンゼルス変革に取り組む。

 広岡の造形がこの小説のキモ。冷やかで動じない、ように見えて実はジャイアンツへのリベンジという野心を静かに燃やす姿勢が見所。作中の広岡はかなり女性にモテるが、こんなスマートな監督がいたら男の俺だってホレちゃうよ。「エビサワって本当に生意気な男なんだよ。あれで小説が面白くなかったら俺、怒るよ」とタモさんが海老沢泰久を評したことがあるみたいだけど、すごく納得がいく。

#野球 #小説

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