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神様のいない日本シリーズ

(初出:旧ブログ2016/01/01)

 ミヤまるが読んだ野球小説の中でもベスト3に入るであろう中編。著者は「もらっといてやる」でお馴染みの人だが大胆不敵な発言とは対照的に 繊細な作品。戦後の日本人の根っこの部分にいかに野球があり、いに野球とともに生きてきたかを軽やかに描く。

 息子の香折が自室に閉じこもってしまった。上級生を差し置いて少年野球団のレギュラーを勝ち取り、その上級生からの嫌がらせが原因のようだ。父は息子のどうして息子に香折という女の子のような名前をつけたか、そしてこの家の男手の「血」には西鉄と西武という2つのライオンズが3連敗したのち4連勝した、58年と84年の日本シリーズが関わってくることをドア越しに語りかける。

 野球ファンはどこかしらグラウンドの選手たちへ宗教的な、「信仰」にも近いファン心理を多かれ少なかれ持っている。後半からサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』も物語に関わってくるが、「待つ」という行いこそ野球を見つめる人間の姿そのものなのだろう。誰に言われるでもなく、開幕を、ホームランを、優勝を、大量補強を「待つ」。その「神性」を決して大仰にせず、静かに進む純文学。 

#野球 #小説 #田中慎弥

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