見出し画像

詩『365日のミルフィーユ』

(おはよう)
 

けたたましく鳴る目覚まし時計を止めて
透明なパーティションをひらこう
また始まる
この美しい世界が目覚めてゆく

昨夜、苛々いらいらして、蹴った壁
へこんだままのwonder wall
台所から聞こえる包丁の音
早朝からリズムを刻んで
味噌汁の匂いが漂ってくる
母さん、言葉にはできないけど
ちいさくなった背中に向かって
こっそり『ありがとう』を

だんだんと明るくなってくる空
停滞している夜を越えて
保留にしたままのこたえ
時間は待ってくれない

始発が動き出す
半径五メートル以内のちいさな世界
どこへも行けなかったぼくらの魂を乗せて
列車は出発進行
地平線の向こうへ
色んな路線を列車が走る

学校での生活が再開された

口を覆う四角い布きれを切り刻んで
あたらしい門出を祝う紙吹雪になれ
朝の街へダイヴ

よく見えなかった友達の表情も
今ははっきりと見える

(おい、おまえら、泣いてんのか、めそめそすんなや、 大切なときのために、涙は小瓶にためてとっておけよ、こんなときに無駄遣いなんてすんなや、なんや、俺まで、泣きそうやんけ、やめろや、もらい泣きしてまうやろ、やめろや、俺は泣かへんぞ、ちゃうわ、これは汗や、ちゃうわ、電車に乗り遅れそうやったから、ダッシュしたあとの汗やって、あ~、暑いわ~、汗止まらんわ~、たまらんわ~、麦茶飲も~かなあ、)

口元のバリアも取り払われて
おんなのひとの口紅も
ぴかぴか嬉しそうに光っている

(おはよう)

当たり前だったおおきな弁当箱は
がたん、ごとん、と背中で揺られて
移り変わってゆく景色を見送っている
ひとかげのジャングルを搔き分けて 
当たり前なものなんて
なにひとつなかったんだ、と思い知る

いちにち、いちにち、の積み重ねが道になる
線路は続いてゆく
(今日の弁当のおかず何やろう、)


photo:見出し画像(みんなのフォトギャラリーより、ともうしまうさん)
photo2:Unsplash
design:未来の味蕾
word&poem:未来の味蕾

この記事が参加している募集

#スキしてみて

525,791件

サポートを頂けたら、創作、表現活動などの活動資金にしたいです。いつか詩集も出せたらいいなと思います。ありがとうございます!頑張ります!