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エッセイ

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実際にあった出来事を自分なりに咀嚼して書いたエッセイです。
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F町の地下にて♯2

F町の地下にて♯2

 昨日も踏んだ地下への階段を今日も踏む。2週間前に会ったばかりの彼のことが忘れられなくて、淡い期待を持って扉を開けると、彼は煙草を吸いながら軽く会釈をした。

 彼の端正な顔立ちがこちらを向いて、心臓がどくりと動いた。

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F町の地下にて ♯1

F町の地下にて ♯1

 AM3:00、F町の薬局の地下。スナックやバーが立ち並ぶ、ひっそりと、しかしながら艶やかに眠らない場所。通称、『地下』。地下にいる人々は酒を酌み交わしながら非日常に浸っている。
 このエッセイは、19歳という若さでその地下に足を踏み入れ、今では頻繁に通っている彩田の日記である。

 彼がホストだと聞いた時、驚きはしなかった。安心できる笑いかたと話し方、心地よい間の取り方、あざとい、という言葉がぴ

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大丈夫、

わからない、という単語がしっくりくる感情に、今1人包まれている。

人間が好きだ。人間が好きだから今の学部にいるし、今のバイトをしているし、飲み屋に行くのが趣味だ。コミュニケーションは、私の唯一の武器だと思っていたのに、それを踏んづけられてしまった。お前は人に甘えている、コミュニケーションをもっと学べと、言われてしまった。武器を失った今、夕方5時以降、食欲でしか外に出られない、4年前と同じ生活に逆

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はてなRPG

はてなRPG

 幼い頃から学びへの意欲が止まらない人間だった。何故?が溢れる脳内で生活していると、毎日がいい意味で疑問符に溢れている。それらをひとつひとつ潰していくのが何より楽しい。

ゲームもアニメも漫画も知らない私にとって、この疑問符を学びで潰すことは最愛のRPGである。

 このRPG、ボス戦がいくつかあるらしい。私は初戦【中学受験】をなんと一発で倒し、次戦【高校受験】までも一度に倒してしまった。ゲームは

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某東京♯2

某東京♯2

 浪人した人間はある程度大学への夢と理想が薄れるという噂はその通りだった。自己推薦で進学が決まるまでの間に華の大学デビューを遂げた同級生は、課題やレポートや単位に追われ、その現実から目を背けるために酒やタバコやカルチャーに溺れまくり、ドロドロとしたモノの中でヘラヘラとしている人間と、はなからそんな現実わかりきっていたのでうまくこなしていく人間に二分化された。後者の方が後々生きやすく、そして楽しく過

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某東京♯1

某東京♯1

 祖母の家の最寄りの駅。岩手県新花巻駅。お土産の売店と、ぽつりと置かれた顔はめパネル、銀河鉄道をモチーフにした駅前のオブジェ、鬼剣舞の写真が並んだ待合室があった。

それしか、なかった。

見送りに来てくれた叔母に手を振り、ホームから新幹線に乗り込む。簡素なホームがどんどん遠くなり、少し心細くなった。YouTubeでも見て紛らわそうかと携帯電話を取り出すも、山の中を行く新幹線は多くのトンネルを通過

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2023/11/23

「私が1番ダメなんだから、当たり前だ。」

 私の自己否定はリストカットと同じだった。心に無理矢理傷をつけて、そこから血が流れるのを見て、「ああ、生きてる」と生の実感を覚えた。まだ自分は感情を失っていないと、確認する方法だった。傷ついた自分は何よりも美しくて、血まみれになった心は何よりも自分の愚を象徴していた。

 その美しさに取り憑かれた私は、自己否定をやめられなくなった。いくら辛い状況に置かれ

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高校を辞めた私が学生生活でやりたかった50のこと

高校を辞めた私が学生生活でやりたかった50のこと

はじめに

高校を辞めています。
中高一貫校でそれなりの成績でしたが、中学3年生の時重い精神疾患を宣告され、学校に行くことができなくなり、いじめに遭ってそのまま自主退学しました。通信制高校で高校の卒業単位をとった後、浪人をしています。通信制高校で友達と深く関わり、今でもとても仲良くしている、なんて人はいません。高校の時、私はずっとひとりぼっちでした。
これは、私がもし病気にならなくて、かつての健康

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中央線の彼女

 中央線でドアの近くに追いやられていた彼女は、ひどく疲れた顔をしていた。茶色く染めた白髪混じりの髪を結い上げた彼女は、スマートフォンのメモアプリを見て悲しげな表情を浮かべている。

 そこには、シャンパンコールの文字起こしが記されていた。何を言われた時にどのように返すかがしっかりと書かれているそのメモに、私は引き込まれてしまった。
 メモアプリとボイスメモを行ったり来たりしながらコールを書き進める

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待ち合わせ

 人と待ち合わせをする時、人を待たせる時と待たされる時の割合は半々くらいだ。

 待っている時、私だけが楽しみなのかな、本当に来るのかな、なんて思いながらずっと待っている。駅から行くところまでの地図とか、周辺のご飯とか調べてしまって、虚しくなって、うまく笑えてるか不安になってしまう。
 待たせている時、本当にいるのかな、帰ってしまっていないかな、愛想尽かされたかな、と不安ばかりが募ってしまって。

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写真を撮っている

写真を撮っている

写真を撮っている。

携帯の写真フォルダには大体その時見た風景か、その時一緒にいた人の写真、その人と食べたご飯の写真が溜まっていく。

人の写真を撮るのが好きだ。人の笑った顔がたまらなく好きである。こう、目がふにゃってなって、顔をくしゃっとして口角を上げた私の友人たちの写真は、どんな写真よりもたまらなく美しくて、綺麗で、すごく価値のあるものだと思っている。
だから私は、その日あった人が極度の写真嫌

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学生お笑いを見ると決めた日

学生お笑いを見ると決めた日

 きっかけは友人がお笑いサークルに入ったという話だった。元々お笑いが好きなのもあったし、その友人が舞台に立っているところを見たいという思いから、気づけば下北沢の小さな劇場の下手側3列目に座っていた。

 正直、ずっとプロのお笑いを応援したり生で見てきたから、そんなに期待はしてなかった。本当にただ、友人の姿が見たいというだけで行った。しかし、私はそこで「面白さ」では包括できない大きな感情に飲まれそう

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深夜2時

生まれつき耳が悪い。音を拾いすぎる身体障害。
重度の聴覚過敏症である私は、先日やっと買ったイヤーマフを耳につけこの文章を打つ。

耳が塞がってないと、話せない。
耳が塞がってないと、聞こえない。
耳が塞がってないと、書けない。

普通は反対なんだと思う。周りの音を聞かないと何を話したらいいかわからないだろうし、周りの音がないと聴こえないって意味がわからないし、書くことを聞かないと文字が書けないのは

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18歳

 本当はこんな青い文章書くつもりではなかったのだけれど、たぶんこの、18歳で深夜まで遊んだ帰り道にしか書けない文章だと思うので書き残しておきます。

 ダーツができる飲み屋に行っています最近。友達と行ったり、1人で行ったり。そこで知り合いも増えたし、趣味も増えました。
 そこで私の友人、同い年の子の多くはお酒を飲み、タバコを吸います。私はそんな友人たちを決して軽蔑はしません。むしろ、好きにすれば良

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