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2022年9月の記事一覧
『日本ダイエット』 # 毎週ショートショートnote
「先生、日本って本当にあるんですか」
「あったのは確かだ。世界地図のこのあたりにあったんだよ」
「沈んでしまったのですか」
「違うんだ。それはそれは不思議な話なんだけどね」
「教えてください」
「日本の国力が衰えたから、国土が縮小していったのか、あるいはその逆なのかは、わからないんだけどね。
とにかく、国土が縮小するとともに、そこの、いわゆる日本人だね、それもどんどん縮小していったんだ。
そして、
『セントルイス・ブルースの流れるバーで』
あいつはあんまり美人じゃないないからよう、俺でも声をかけてやらなきゃと思ってさ。
そうしたら、あの女、いい気になりやがって。
本当に、可哀想なくらい美人じゃなかったのよ。
もちろん、人は見かけだけじゃない。
でも、限度ってものがあるだろう。
いくら、俺が優しくたって、ノートルダムのせむし男じゃ、誰も話も聞いちゃくれないさ。
ああ、知りませんよね。
せむし男なんてね。
そうだよな。
わかってらあ。
『ひ、み、つ』 # 2000字のホラー
「お母さん、帰ってくるよね」
小学校に入ったばかりの息子が尋ねてくる。
その頭を撫でる。
「ああ、帰ってくるよ。もうすぐな」
息子は、友達を見つけたのか、子供たちの集団の方に駆けていった。
日曜日の朝の公園。
家族連れが多い中で、自分はポツンとひとりだった。
他の家族は、子供だけでなく、親どうしも知り合いらしい。
笑顔で挨拶しあっている。
元々、町内の行事にはほとんど顔を出していない。
息子の学校
『二重人格ごっこ』 # 2000字のホラー
「二重人格って知ってるかい」
「何よ、急に」
「二重人格だよ」
「失礼ね。知ってるわよ、ジキルとハイドみたいなのでしょ」
「それそれ」
「それが、どうしたの、二重人格が」
「あれって、1人の人間の中に2つの人格があるわけじゃないか」
「そうよね。2つ以上ってこともあるらしいわよ」
「で、その人格同士は、他人なのかな」
「どういうこと」
「だからね、その人間の中にある複数の人格は、お互いに知り合う
『たましい』 # 2000字のホラー
彼が玄関のドアを開けると、妻が笑顔で出迎える。
「お帰りなさい。あなた」
彼から鞄と上着を受け取り、妻は先にリビングに入っていく。
後ろから抱きつくと、妻はこちらを向く。
それを突き放した。
バランスを崩して座り込む妻をそのままに、彼は自分の部屋に入った。
「あなたお食事は」
返事もせずに勢いよくドアを閉める。
椅子に腰掛けると、ズボンのポケットから、携帯電話と昼間もらった名刺を取り出した。
男
『違法の健康』2 # 毎週ショートショートnote
殊更に健康にこだわり必要以上に長生きをしようとする健康者は、自然の摂理に反していると言わざるを得ない。
健康は違法だと提訴された。
もちろん、健康者はそれに意を唱える。
健康が違法なら、不健康も違法ではないか。
いや、違法というなら、むしろ不健康こそが違法だ。
必要以上に、糖分やカロリーをとり、寿命を縮めてしまう。
医療費もかさむ。
不健康こそ違法であり、不健康者は排除するべきだ。
と、そこに
『違法の健康』 # 毎週ショートショートnote
小窓ひとつない薄暗い小屋の中で女は打ちひしがれていた。
情けなくて涙も出ない。
どうしてこんな目にあうのか。
あんなに苦労したのに。
憲兵に見つかるとは。
つい数時間前までは希望に満ち溢れていた。
やっと闇で手に入れた食料の山。
普通では手に入らない野菜や甘い果物。
少しだが白米もある。
これを息子に食べさせる。
空襲の犠牲になり、余命いくばくもない息子に。
息子の笑顔を見たい。
最後にもう一度
『満月の夜にベランダで』
息子が眠ったので、ベランダに出てみた。
向かいの6階建てのマンションの向こうに、満月が明るい。
こちらは7階だけれど、同じ高さだ。
向こうのほうが高台にある。
今夜は十五夜だっただろうか。
勤め先では、そんな話は出なかった。
元々、そんな雰囲気の職場でもないが。
ふと、不安になるが打ち消した。
わざとらしく、首を振ってみる。
どちらでもいい。
ともあれ、私は、今、満月を眺めている。
夫が缶ビールを
『地球儀』 #2000字のホラー
さあ、今日は怖いお話をするよ。
みんな大好きだよね、怖い話。
しかも、これは本当にあった怖い話なんだよ。
テレビでもやってるよね、ほん怖。
でも、あれは大人が考えたお話なんだよ。
これからお話しするのは、正真正銘、本当のお話なんだ。
だって、その主役はこのおじさんなんだからね。
おじさんの名前は、裕太って言うんだ。
その裕太くんが子供の頃の、そう、ちょうど君たちと同じくらいの頃のお話だよ。
さあ
『感想文部』 # 毎週ショートショートnote
「感想文部?」
「ええ、そうです」
「文学部ではなくて? 感想文部?」
「その通り。我が校に感想文部を新設しましょう」
かつては、日記、自由研究と合わせて、小中高生の3大嫌われ者のひとつだった感想文。
しかし、今や感想文は大人気だ。
感想文を書く人は、インプレッションズライターと呼ばれて、なりたいもの職業の堂々一位に輝いている。
「その小説を書いた人は知らないけど、その感想文を書いた人なら知
『息子は死にましたよ』
これは事実をもとにした物語である。
その朝、銀行のシャッターが上がると同時にその男は彼女の目の前に立った。
背は高くないが少し太り気味。
40歳くらいだろうか。
左目と比べて右目が極端に細い。
「母が亡くなったんですけど」
カウンターの向こうに腰をかけてそれだけ言った。
この歳で、他人と話すのに慣れていないようだ。
「お母様がお亡くなりになられたのですね。
ご愁傷様です。大変でしたね」
よくある
『株式会社のおと』# 毎週ショートショートnote
「みんなに応援してもらって、仲間と素晴らしいものをつくるのが株式会社なんだよ」
彼は、自分の質問に父が答えるのを聞いていた。
次の日、テーブルの上に一冊のノートがあった。
「株式会社のおと」と書かれている。
「これはなんだい? 」
「これはね、ママに応援してもらって、パパと僕で素敵なおはなしを書いていくんだよ。だから、株式会社のおとなんだ」
「で、あの時のように、この新しいノートに2人で物語を書