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物語のようなもの

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短いお話を思いついた時に書いています。確実に3分以内で読めます。カップ麺のできあがりを待ちながら。
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2022年5月の記事一覧

『1分しまうま』 # 毎週ショートショートnote

『1分しまうま』 # 毎週ショートショートnote

しまうまをご存知でしょうか。
失礼しました。
ご存じですよね。
では、「1分しまうま」という遊びはご存じですか。
これは、1分以内にしまうまに関する疑問をひとつでも多く言えた方が勝ち。
そんなゲームです。
まあ、それほど、しまうまには謎が多いということでもあるんですがね。

そもそもあれは、馬なのか。
あのしまは何の役に立つのか。
あるいは、何の役にも立たないのか。
いつからあのしまはあるのか。

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『優しい彼女』

『優しい彼女』

理想の彼女をあなたの手で。
それがうたい文句だった。
要するに、AI搭載のアンドロイドだ。
毎週届く部品と雑誌。
それを組み立てていけば誰でも作り上げることができる。
雑誌には、アンドロイドの話題や、自分好みに作り上げるためのコツが掲載されている。
ちょうど、別れたばかりだった。
最初から、自分好みにできるのならうまくいくんじゃないか。
そんな欲望もあった。
まあ、飽きれば途中でやめればいいと、創

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『身の上話』

『身の上話』

あの人、酔うと話が長くなるのよ。
いつも同じ話ばかりでごめんなさいね。
あたしは、そう言って他の客に頭を下げる。

俺はな、親に捨てられた。
小さな橋の下にな。
それを、おじいとおばあが拾って育ててくれた。
俺は、すくすくと育ったんだ。
ある夏の日にな、学校から帰ると人だかりがしている。
近所のおばさんが、
「あんたのお父さんとお母さん、首吊ったよ」
言いにくいことをはっきり言いやがる。
しかも、

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『残された手紙』

『残された手紙』

もう何十年も前の話です。
関東の小さな村での出来事です。
どうしてこの話がニュースにならなかったのか。
当時はあちらこちらで、政治的な騒動が起こっていました。
同時に、学生同志の陰惨な事件も多くありました。
ええ、あの時代です。
この国が成熟していくための、通過儀礼のようなものだった。
そう語る人もいます。
小さな村の小さな事件など、見向きもされなかったのでしょう。
当時の言い方をすれば、大義の前

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『#お世話になりました』

『#お世話になりました』

バイトが休みだったので、朝はゆっくり目覚めた。
それでも、体から気だるさは抜けていない。
カーテンを開けて、すでに高い日を取り入れる。
スマホの通知音。
先に、トイレに行く。
顔を洗うと、少しは体も目覚めてきたような気がする。
スマホを手に取った。
それから、慌ててテレビをつけた。

この世の悲しみなど知らないかのような司会者が、最近流行りのカフェを紹介している。
その画面の上にテロップが出る

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『結婚式ゾンビ』  # 毎週ショートショートnote

『結婚式ゾンビ』 # 毎週ショートショートnote

聖書の朗読も終わった。
いよいよ、誓いの言葉と指輪の交換。
そして、2人のキスへと続いていく。
両家の親族、友人も笑顔で見守っている。
その時だ。
後方のドアが開き、1人の男がふらりと入り込んできた。

髪はボサボサ、顔は青白く生気がない。
両手を下にたらし、ふらつく足取りでゆっくり進んでくる。
口元からはポタポタとしたたる血。
最初に叫んだのは新婦だ。
「きゃー、ゾンビ、ゾンビよ」
教会内は大混

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『人生はわからない』

『人生はわからない』

俺とあいつは幼なじみだ。
だが、幼なじみが必ず仲良しだと思ったら大間違いだ。
小学校の頃には、しょっちゅう取っ組み合いの喧嘩をした。
そんなに喧嘩をするなら近づかなければいいのにと、大人からはよく言われた。
しかし、なぜか俺たちは近づいた。
お互いに静かに近づいて、ある程度の距離まで来ると、急に胸ぐらをつかみ合う。

さすがに中学に入ると、そんな喧嘩はしなくなった。
俺が野球部に入ると、あいつはサ

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『えくぼの嘘』

『えくぼの嘘』

目の前の女性を見つめていた。
商談コーナーの椅子に腰掛けて、目の前の資料とパソコンの画面を指差しながら話している。
久しぶりに若干名の中途採用をすることになり、人事部で担当した。
女性は、その求人広告の代理店の営業だ。
しかし、その内容よりも、女性の顔を見つめていた。
顔というよりも、正確にはそのえくぼを見つめていたのだ。
話している唇の横に、唇の端から絶妙の距離をとって現れる窪みを。
触りたいと

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『悲しい朝に』

『悲しい朝に』

幼馴染といえば、そうなのかもしれない。
私の家族が越してきた向かいが、彼の家だった。
幼稚園に通う頃には、男女に関係なく、身近な同世代が友達になる。
私たちは、いつも一緒に遊んでいた。
朝の迎えのバスを待つ時から、夕方、どちらかの母親が呼びに来るまで。

小学校に入って少しすると、彼にも、私にも、新しい友人ができた。
その頃になって、気づき始めた。
彼の友人には、何となく女の子が多いなと。
つまり

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『プロのバナナ』 # 毎週ショートショートnote

『プロのバナナ』 # 毎週ショートショートnote

彼女はずっと熱でうなされていた。
医者に行き、注射も打った。
薬も飲んだ。
両親は心配そうに見下ろしていた。

深夜、声が聞こえてきた。
「さあさあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」
おばあちゃんと行った夏祭り。
その時の余興の声だ。
でも今は、まだまだ春。
彼女は声のする方に歩いて行った。
はちまき姿のおじさん。
そこだけほんのり明るい。

「オイラはプロのバナナ売り。
だから売るのはプロのバ

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『夢のかけら』

『夢のかけら』

あっしたちが、こんなことしたくてやってると思いますか。
あなたならどうですか。
こんなこと、やりたくないでしょう。
そりゃ、そうだ。
それに、あなたたちが、あっしたちみたいになっちまったら困ったもんだ。
誰が、世界を動かしていくんです。
世界には、運転手が必要なんですよ。

もちろん、そうでしょう。
あっしたちは、働きもせずに人様の食べ残したものばかりを漁ってるって?
そうでしょうね。
そう思われ

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『暁の星』

『暁の星』

見張りは完璧だ。
警察も協力してくれている。
この屋敷の主人が私的に雇った警備員も随所に配置されている。
アリ1匹、クモ1匹出入りする余地はない。
屋敷の隅々、大きな庭を囲う塀の隅々にまで、警戒の目は光っている。
監視カメラも死角の無いように設置されている。
もちろん、いつの間にか静止画像に切り替えられているなどということは、想定済みだ。
映像の中を絶えず誰かが横切るように配置している。
一定時間

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『京都のアソコ』

『京都のアソコ』

僕は喫茶店の紙ナプキンを広げて説明していた。
ボールペンで、大きくYと書いた。
「この右側から来てるのが高野川」
僕は、斜めの線の横に高野川と書く。
「そして、反対のこれが賀茂川」
同じように賀茂川と書く。
「そして、高野川と賀茂川が一緒になって真っ直ぐ伸びているのが、これも鴨川」
真っ直ぐの線の横に鴨川と書く。
「これはどちらもカモガワなんだけれども、こちらは賀茂川で、合流してからは鴨川と書くん

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『みんなで動かない』  # 毎週ショートショートnote

『みんなで動かない』 # 毎週ショートショートnote

子供の間では、突然ある遊びが流行ったりする。
昼休みも、放課後も、その遊びに夢中になる。
時には、それが何世代か前に流行ったような遊びであったりする。

その頃、僕たちの間では、だるまさんがころんだ、が流行っていた。
最近では、ドラマ「イカゲーム」の最初のゲームと言えばわかるだろうか。

終わりの会で、先生は突然発表した。
「岡村君は、ご家族の都合で急きょ転校することになりました」
えー!と僕たち

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