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『プロのバナナ』 # 毎週ショートショートnote

彼女はずっと熱でうなされていた。
医者に行き、注射も打った。
薬も飲んだ。
両親は心配そうに見下ろしていた。

深夜、声が聞こえてきた。
「さあさあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」
おばあちゃんと行った夏祭り。
その時の余興の声だ。
でも今は、まだまだ春。
彼女は声のする方に歩いて行った。
はちまき姿のおじさん。
そこだけほんのり明るい。

「オイラはプロのバナナ売り。
だから売るのはプロのバナナ。
お、そこのお嬢ちゃん、一本どうだい」
でも、おじさんの前には何もない。
「さあさあ、こちらへ」
不思議がる彼女に手招きする。
彼女が近づくと、おじさんは右手の指をパチンと鳴らした。
鳴らした指で、夜空の三日月をもぎ取ってしまった。
「さあ、お食べなさい。栄養満点だ」
三日月は、黄色くて美味しそうなバナナに変わっていた。

翌朝、彼女の熱は下がり、両親は喜んだ。
夜、窓の外に三日月を見つけて安心した。
「そうだ」
窓を開けると、彼女は右手の指をパチンと鳴らした。


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