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毒書

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本ニ関スル雑記
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冬、嵯峨籠り

冬、嵯峨籠り

三時間弱だろうか、廣瀬珈琲店に居座る。恐ろしく寒くなってからというもの、徒歩範囲外に出るのがひどく億劫に。それでこの頃は専ら此処で過ごしている。今日は一冊読み終えて、それから辻邦生『天草の雅歌』を半分ほど。

この『天草-』であるが、実際に自らが当事者として見聞きしているような臨場感がある。この感覚は作品と自身のその当時の状態との関係において生まれるものであろう。両者の周波数、とでも言おうか。その

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毒書

毒書

仙台の古書店で買った本、柄谷行人の『探求Ⅰ』はひとりで入った呑み屋なぞで読み進める。偶に明晰なひとときがやってきて、物思いに耽ろうと持ち上げた盃は、象られつつあった結晶を溶かす。他者の解体とともに自己のそれも進んで、その将棋倒しの如き拡がりは留まることを知らぬ。壁外人類は存在したのだ...

谷崎潤一郎の『鍵』を読んだ。特定の人間の、その目に触れることを目的とした"日記"は不誠実であると、そんなこ

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10/16~22

10/16~22

さて、件の更新の滞りであるが、敢えて因を挙げるとするならば、「炬燵」の二文字に帰結する。それは一家具であり空間であり、固有の時間でもある。生まれて此の方、両親の辛労もあって、生活への"それ"の介入を何とか回避しておった。が、遂にそのときが来てしもうたのである。睡眠時間の伸長とその質の悪化は相殺として、食われている感はどうも払拭できん。そうして今もまたこうして、我ながら熟れた手つきで温度の調節をする

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連休終わりに

連休終わりに

今日は大雨、ザアザア降り。朝方に眠りについて、布団を出たのはお昼過ぎ。失われた時間を取り戻すべく傘を差して出掛ける。先ずは近くの古本屋へ。

連休中の半額セールに託けたはずだったが、セール外のハードカバーが余りにも手頃なお値段だったため四冊ほどいただく。四天王寺で催されていた古本祭終わり、とのことでちょびっと期待していたが品揃えに変わった様子は無い。

腹を拵える。午後からの時間を存分に過ごすには

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鏡花水月

鏡花水月

夕方、鏡花の『歌行燈』を読んだ。これまでに読んできた数作品と同じく、異界と現実世界とのあわいより湧き上がる類の、幽玄なる"美"の表現。それを芸術の文脈で描き出す。

この神秘的で、それでいて情景のイメージに寸分の違いも許すまじ、そんな意図をも感じる、ある種わかり易く、或いは強制的な筆致の妙。

"ぴたり"という言葉とは裏腹に、想起される情景はものの十数秒もその形を保てないような、そんな浮世離れした

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昨日今日の読んだ

昨日今日の読んだ

夜中、リビングでひとりになって、先月までの暮らしを思い出していた。本を読んでいるだけ。リンドバーグ夫人の『海からの贈物』なのだけれど、これがなかなか面白うて。

半分ほど読み進めてはみたが、内容は"孤独"について云々というのが多い。かくいう私も孤独なる時間は大事だと思っていたり。

もう遅いから、この辺でね。その後のことは機会があれば。おやすみなさい。

寝ていたのでこのまま続けて。昼から近場の喫

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辻邦生の彼是

辻邦生の彼是

昼、コンビニの駐車場で『天草の雅歌』を読み終えたのはいいが、手元に開ける本が無くなったのはなんとも心地が悪い。有るからといって開くというわけでもないのであるが。というより開くことの方が珍しいくらいの話で。それは置いておくとして、帰宅するまではなんとも手持ち無沙汰であった。昨夜の段階で、鞄に文庫本の一冊でも放り込んでおけばよかった...

思い返すと『天草一』を手に入れたのはちょうど一年ほど前、出雲

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偶然性を偶然性としてだな

偶然性を偶然性としてだな

朝、喫茶でモオニングを。大阪某所、或る書店の開店を目掛けて電車に飛び乗る。南へ、南へと逸る気持ちのままに、Ben E. Kingの聞こえたあの街へ。

ふと向かいの窓に映る、私の背後に広がる風景が目に映った。自身のものと合わせて、三重の硝子を通して生まれた、その古めかしい色合いに見惚れたのも束の間、額縁はマンション群に塗り潰される。元来、世界は閉じるものである。

なんとも野蛮でお下品な買い付け、

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冬はつとめて

冬はつとめて

ガルシア・マルケスの短編を。吐き出した煙に乗って、四つの島を巡る。それは濃密で、優雅な旅。珈琲の苦味宜しく、本を閉じたのちも欧州の乾いた空気だけはその場に居座り、矢張り冬一一 そう、スイートな冬を漂わせている。

冬なる季節と重なる彼是は多いもので、それは忍耐であったり最期であったり、陰鬱さや高潔さ等々、挙げるとキリはない。四季のダイナミズムに人生を重ねたと思えば、精神の中に冬を見出してみたり、と

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『楢山節考』考

『楢山節考』考

子供の時分、何かの折に触れて姥捨山の話が出る度に、「そういうときが来たらちゃんとオカン捨てなアカンで」と母は私に言い聞かせたものだった。深沢七郎『楢山節考』を読みながら、思い出すのはそんなこんなで、本を閉じてからは「もしやすると母もこの本を読んだのやもしれん」なんてことを考えたり。

新潮文庫のこの書籍には四作ほどが収録されていて、冒頭掲載の『月のアペニン山』だけは読んでいた。それは掴みどころのな

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好きこそ浄福の第一歩

好きこそ浄福の第一歩

きのうのこと。

目が覚めたのは針が五時を指そうかという頃合で、飲み残しの日本酒がツンと鼻を刺した。外はまだ暗い。暖房も炬燵も働きっぱなしだったようで、部屋はちと温すぎる。寝起きの気怠さは便所の冷気へと溶けゆき、ゆうべ観た『テルマ&ルイーズ』がふと脳裏を掠めた。微睡みの中、眼に写った跳躍。少なくとも再び横になる気にはならんかった。

傍にあった『眞晝の海への旅』を開く。漕ぎ出したらば止まらぬ。日常

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かみしんにて

かみしんにて

五月に引越しをして以来であろうか、上新庄駅に降り立った。常々再訪を考えていた小町書店へ。過日と同様、文庫本を漁る。この古書店と旧居近くの三番館なる喫茶店とが、この地での生活を占めていたんだっけ。友人と何度か行った居酒屋なり温泉施設なりも含めて、自宅と駅とを結ぶ線上において完結していたという訳である。そんな半年であった。

この日は幸い三番館まで歩む気力が無かったから、買った本を鞄へ詰め込み駅構内の

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ドリアン・グレイと崖

ドリアン・グレイと崖

昼休み、手早く軽食を平らげてから近場の喫茶へ。オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの画像』を読み進める。初っ端から口先だけの、薄っぺらい台詞が諄いくらいに並べられているのだが、そのある種巧みな言葉に魅了される人物の描写には妙な説得力がある。

さて目下の関心事は現代に於いてドリアン・グレイはドリアン・グレイたることが可能であるか、なる手垢のこびりついた問い一一 おっと危ない。脳内に蔓延るヘンリー

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読んだ

読んだ

昨日のお昼過ぎ、時間があった(あったのか?)から一乗寺はマヤルカ古書店に立ち寄り、澁澤龍彦の作品集を。ちょうど手持ち無沙汰であったから、早速帰りのバスから読み始めて、先ほど喫茶店にて読了。私自身、メルヘンチックな作風に触れる機会は少ないが、アンデルセンなり宮沢賢治なり、何かと好みの部類ではあるみたいだ。

本書には『撲滅の賦/エピクロスの肋骨/錬金術的コント』の三篇が収録されている。何れも珠玉たる

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