牧山雪華

文芸同人誌「あるかいど」同人。華道家。 アガサ・クリスティーが大好きで、日本物の推理小…

牧山雪華

文芸同人誌「あるかいど」同人。華道家。 アガサ・クリスティーが大好きで、日本物の推理小説を書いてみたいと思いました。 お千鶴(ちづ)さんや、相棒のお由(よし)さん達が大活躍する、江戸深川へ、ご案内します。 ぜひ、ご一緒にどうぞ。

記事一覧

お千鶴さん事件帖「結晶」第四話③/3   完結編

「弱ったなあ。親分に聞いてから……」 「いけませんよ」  と、立ち上がりかける徳三を千鶴は押さえつけて話を続けた。 「これから、カンザシをお城のお姫様にだって売り…

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牧山雪華
6日前
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お千鶴さん事件帖「結晶」第四話②/3

 抜いたことなどないと思っていた檜山の刀が、今や賊の刀とぎりぎりと音をたてて噛み合っている。  ーーやられないで! と千鶴の腕にも力が入る。  檜山が真っ先に刀を…

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牧山雪華
6日前
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お千鶴さん事件帖「結晶」第四話①/3 無料試し読み

 橋蔵は米と大根を包んだ大きな風呂敷をかかえ、今しがた降り出した冷たい雨の昼下がりを小走りに駆けた。 角を曲がると、「よいしょ」と荷を下ろし団子屋の軒先で濡れな…

牧山雪華
4週間前
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「雪華ちゃんのしくじり事件帖2」こちらも、よろしくね

今回のしくじりは、一言で「4キロも太った」編でございます。 少し言い訳をしますと、2022年10月に片肺いっぱいに水がたまるという病にかかり、入院しました。一つの肺に…

牧山雪華
2か月前
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お千鶴さん事件帖「花火」第三話③/3     完結編

 それから程なく橋蔵が深川六軒堀の長屋へ帰ってきた。引戸を開けた橋蔵の濃い影は真下にあったから酷くあわてた。気付かないうちにお天道様はとっくに頭上にあったようだ…

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牧山雪華
2か月前
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お千鶴さん事件帖「花火」第三話②/3

 千鶴は、最後となった咲の髪結いの日のことを思い出していた。    昼前から、かんかん照りの暑い日だった。細いつるの先の大輪の朝顔は、ピクリとも揺るがない。  隣…

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牧山雪華
2か月前

お千鶴さん事件帖「花火」第三話①/3 無料試し読み

 夜空に一筋の閃光が立ち昇る。  江戸っ子が大好きな恒例の両国川開きの大花火が打ち上げられていた。歓声とどよめきが渦巻く。その中、ひときわ大きな「玉屋」「玉屋」…

牧山雪華
2か月前
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お千鶴さん事件帖「片恋」第二話③/3 完結編

 四、五人ほど通りや店の人に尋ねたあげく、ついにたどり着いた所はみすぼらしい、あばら家だった.  軒先で子供たち三人が並んで草履作りをしている。一番末の女の子は…

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牧山雪華
3か月前
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お千鶴さん事件帖「片恋」第二話②/3

(ニ)  先に六軒堀長屋に戻った千鶴は、奥の部屋から、小さな中庭を覗く様に少し戸を開けた。そこいらの長屋よりも格別にいい家を、橋蔵の顔で借りることができている。 …

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牧山雪華
3か月前
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自己紹介:小説を書く人に100の質問 後編

Q.51 地の文と会話文、どっちが好き? どちらも難しいですね。 説明じゃない、気の利いた会話。説明じゃない、読みやすい地の文を目指します。 Q.52 キャラクターの名前は…

牧山雪華
3か月前
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自己紹介:小説を書く人に100の質問 前編

Q.1 筆名(ペンネーム)を教えてください。 牧山雪華(まきやま せっか)と申します。 Q.2 筆名の由来は? 華道の雅号です。 華は親先生から一字譲り受け、雪は、大阪生まれ…

牧山雪華
3か月前
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お千鶴さん事件帖「片恋」第二話①/3 無料試し読み

 正月の月がまだ幾日も過ぎない日のことだ。  昼下がりの日差しは強いようだったが、普請の良い戸口でもカタリ、と音をもらすほどの風が吹いていた。清兵衛が出かけよう…

牧山雪華
3か月前
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note新入りご挨拶と「雪華ちゃんのしくじり事件帖」その1

 この度、文芸同人誌に10年程書き溜めた拙作オリジナル小説をnoteにて、投稿することにしました。大阪の老舗文芸同人誌上でのtitleは、『岡っ引女房捕物帖ーー○○』です…

牧山雪華
4か月前
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お千鶴さん事件帖「涙雨」第一話③/3 完結編 無料試し読み

 千鶴は手招きして橋蔵に伝えた。気絶でもしそうなことが無い限り、つかつかと御用の場に入っていくわけにはいかない。薄く開く戸口から、怪訝そうな顔の橋蔵が覗き返した…

牧山雪華
4か月前
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お千鶴さん事件帖「涙雨」第一話②/3  無料試し読み  

 とっさのことで鋏ならともかく、松が包丁を持ち出してまで刺すとは思えない。別の誰かなのでは、と千鶴には明るい兆しのようなものが見えた。  寛西が、檜山に断って「…

牧山雪華
4か月前
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お千鶴さん事件帖「涙雨」第一話①/3 無料試し読み

「あらすじ」  江戸時代後期、深川で岡っ引の女房千鶴が、夫を助けようとして、捕物に目覚める第一話「涙雨」三回完結。  太一は酒浸りの父政次に虐待を受けていた。母松…

牧山雪華
4か月前
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お千鶴さん事件帖「結晶」第四話③/3   完結編

お千鶴さん事件帖「結晶」第四話③/3   完結編

「弱ったなあ。親分に聞いてから……」
「いけませんよ」
 と、立ち上がりかける徳三を千鶴は押さえつけて話を続けた。
「これから、カンザシをお城のお姫様にだって売り込まなきゃならないかもしれないでしょう? 度胸試しです。しっかりやってくださいな。ねっ」
「魂胆がばれたらどうすればいいんですか?」
「焼いて食われるようなことにはならないです。つまみ出されるくらい」
「いやですよお」
「じゃあ、わたしが

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お千鶴さん事件帖「結晶」第四話②/3

お千鶴さん事件帖「結晶」第四話②/3

 抜いたことなどないと思っていた檜山の刀が、今や賊の刀とぎりぎりと音をたてて噛み合っている。
 ーーやられないで! と千鶴の腕にも力が入る。
 檜山が真っ先に刀を押し込んだ。しかし、賊も力いっぱい押し返し、やられそうになった。
 ああ、と心の中で泣き叫ぶ。しかしそんなことも、しばらくのことだった。
 傍目から見ても次第に檜山の力が優勢になるように見える。
 ーー檜山様がこんなに強いなんて……。
 

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お千鶴さん事件帖「結晶」第四話①/3 無料試し読み

お千鶴さん事件帖「結晶」第四話①/3 無料試し読み

 橋蔵は米と大根を包んだ大きな風呂敷をかかえ、今しがた降り出した冷たい雨の昼下がりを小走りに駆けた。
角を曲がると、「よいしょ」と荷を下ろし団子屋の軒先で濡れないように風呂敷包みの結び目を硬く結い直す。店は込み合って賑やかな談笑が聞こえた。
 憎らしそうに天を見上げ、仕方なく小降りになるのを待つことにした。
橋蔵の住む六軒堀長屋から北の堅川を渡ってすぐのところに、相生町二丁目長屋があり、もう目と鼻

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「雪華ちゃんのしくじり事件帖2」こちらも、よろしくね

「雪華ちゃんのしくじり事件帖2」こちらも、よろしくね

今回のしくじりは、一言で「4キロも太った」編でございます。

少し言い訳をしますと、2022年10月に片肺いっぱいに水がたまるという病にかかり、入院しました。一つの肺に2、3リットルぐらい貯水できるということがわかったのでございます。右側の肺一つで、一応生きていくことはできるのですが、ちょっと動くと息苦しい。十歩ぐらいで、ハアハア息が上がりました。車椅子でないと、移動は難しかったです。
一か月ほど

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お千鶴さん事件帖「花火」第三話③/3     完結編

お千鶴さん事件帖「花火」第三話③/3     完結編

 それから程なく橋蔵が深川六軒堀の長屋へ帰ってきた。引戸を開けた橋蔵の濃い影は真下にあったから酷くあわてた。気付かないうちにお天道様はとっくに頭上にあったようだ。続いて檜山の姿も目に入った。
「飯の支度をしてくれないかな、お千鶴」
「はいよ、おまえさん。檜山様もどうぞ。毎度冷や飯しかありませんが、いい頃合の漬物がありますよ。実は私もお腹がぺこぺこなんです」
 と、苦笑して檜山を招きいれた。よくある

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お千鶴さん事件帖「花火」第三話②/3

お千鶴さん事件帖「花火」第三話②/3

 千鶴は、最後となった咲の髪結いの日のことを思い出していた。
 
 昼前から、かんかん照りの暑い日だった。細いつるの先の大輪の朝顔は、ピクリとも揺るがない。
 隣長屋のお産の手伝いに借り出されたものの、なかなか子は現れず手間どった。あのときばかりは蝉の声がやけにうるさくて、生まれてくる赤子には申し訳ないがイライラしたものだ。そして難産の末にようやく小さな頭がのぞいた。
 ――深川を案内してあげる。

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お千鶴さん事件帖「花火」第三話①/3 無料試し読み

お千鶴さん事件帖「花火」第三話①/3 無料試し読み

 夜空に一筋の閃光が立ち昇る。
 江戸っ子が大好きな恒例の両国川開きの大花火が打ち上げられていた。歓声とどよめきが渦巻く。その中、ひときわ大きな「玉屋」「玉屋」の呼び声が続く。
 またドーンという地響きと火薬の匂い。
 全ての者の目が天に咲く見事な菊、牡丹、柳の花火に向けられる。大人も子供も呆けたように口を開けるだけだ。正気に戻ると「玉屋」の声が聞こえてくる。
 玉屋と鍵屋が競って大花火を打ち上げ

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お千鶴さん事件帖「片恋」第二話③/3 完結編

お千鶴さん事件帖「片恋」第二話③/3 完結編

 四、五人ほど通りや店の人に尋ねたあげく、ついにたどり着いた所はみすぼらしい、あばら家だった.
 軒先で子供たち三人が並んで草履作りをしている。一番末の女の子はまだ三つか四つで、兄や姉にまとわりついている。
「突然すみません。おっかさんか、おっとさんはいますか?」さぶを見つけて尋ねた。
「ああ、おっかあなら裏で洗濯しているよ。おっとうは旅籠に草履を届けに行った。おかみさんは、この間お店で見かけたね

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お千鶴さん事件帖「片恋」第二話②/3

お千鶴さん事件帖「片恋」第二話②/3

(ニ)
 先に六軒堀長屋に戻った千鶴は、奥の部屋から、小さな中庭を覗く様に少し戸を開けた。そこいらの長屋よりも格別にいい家を、橋蔵の顔で借りることができている。
 午後には陽も照り、雪はあらかた消えてしまった。はばかりの横に残る僅かな雪を見つけると、千鶴は、勢いよく飛び出した。両手ですくって、掌に乗るほどの小さな雪だるまをこしらえ、橋蔵に見えるようにどこへ置こうかとしばらく思案する。冷気が身にしみ

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自己紹介:小説を書く人に100の質問 後編

自己紹介:小説を書く人に100の質問 後編

Q.51 地の文と会話文、どっちが好き?
どちらも難しいですね。
説明じゃない、気の利いた会話。説明じゃない、読みやすい地の文を目指します。

Q.52 キャラクターの名前はどうやってつけていますか?
キャラクターの性格や雰囲気など、大まかな履歴書を作って説得力のある人物像にできたらいいなあと思います。名前はほんと、何でもいいの、ついてたらいい、ぐらい。A、B、Cにするわけにはいかないので、悩みま

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自己紹介:小説を書く人に100の質問 前編

自己紹介:小説を書く人に100の質問 前編

Q.1 筆名(ペンネーム)を教えてください。
牧山雪華(まきやま せっか)と申します。

Q.2 筆名の由来は?
華道の雅号です。
華は親先生から一字譲り受け、雪は、大阪生まれの私にとって憧れ。

Q.3 主にどんな小説を書いていますか?(長編・短編・掌編など)
短編の連作を続けています。4作で長編1作分の横のつながりが完成します。
捕物帖という形で、本格推理ものを目指しています。
このnoteで

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お千鶴さん事件帖「片恋」第二話①/3 無料試し読み

お千鶴さん事件帖「片恋」第二話①/3 無料試し読み

 正月の月がまだ幾日も過ぎない日のことだ。
 昼下がりの日差しは強いようだったが、普請の良い戸口でもカタリ、と音をもらすほどの風が吹いていた。清兵衛が出かけようか止めようか、と思案していると、掃き掃除をしている小僧とぶつかり、よろっと後ずさった。いきなり、頭の後ろから突き刺すような女の声がした。
「邪魔よ! あなたって、ほんと、うっとうしいわねえ。店にいても、奥にいても」
 清兵衛は、はっと振り返

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note新入りご挨拶と「雪華ちゃんのしくじり事件帖」その1

note新入りご挨拶と「雪華ちゃんのしくじり事件帖」その1

 この度、文芸同人誌に10年程書き溜めた拙作オリジナル小説をnoteにて、投稿することにしました。大阪の老舗文芸同人誌上でのtitleは、『岡っ引女房捕物帖ーー○○』ですが、『お千鶴さん事件帖「○○」』に改め、本文にも少し改稿を加えました。
 note上では、1話を三部に分けて投稿していく予定です。もっと説明しますと、4話でドラマなどで使われる1シーズンとなります。1話毎に事件は解決し、縦軸として

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お千鶴さん事件帖「涙雨」第一話③/3 完結編 無料試し読み

お千鶴さん事件帖「涙雨」第一話③/3 完結編 無料試し読み

 千鶴は手招きして橋蔵に伝えた。気絶でもしそうなことが無い限り、つかつかと御用の場に入っていくわけにはいかない。薄く開く戸口から、怪訝そうな顔の橋蔵が覗き返した。「どうしたんでい? もう、うちに帰っているのかと思ったが」

 橋蔵は自身番の戸をさらに開けそっと出て来た。もう宵の五つ(八時頃)に近づいている頃だろう。千鶴は早口になって、太一から聞いた事を仔細に伝えた。何かひっかかるふしがあったようで

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お千鶴さん事件帖「涙雨」第一話②/3  無料試し読み  

お千鶴さん事件帖「涙雨」第一話②/3  無料試し読み  

 とっさのことで鋏ならともかく、松が包丁を持ち出してまで刺すとは思えない。別の誰かなのでは、と千鶴には明るい兆しのようなものが見えた。

 寛西が、檜山に断って「どうせ、ついでだから」と、死に至った傷口を視てみようと申し出ているのが聞こえた。しばらくして、桶に水を汲み、仏さんの傷口を洗い始めたようだった。千鶴は遠目でその様子を眺めるが、たぶん寛西が仏さんに被いかぶさるようにして、覗き込んでいるのだ

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お千鶴さん事件帖「涙雨」第一話①/3 無料試し読み

お千鶴さん事件帖「涙雨」第一話①/3 無料試し読み

「あらすじ」
 江戸時代後期、深川で岡っ引の女房千鶴が、夫を助けようとして、捕物に目覚める第一話「涙雨」三回完結。
 太一は酒浸りの父政次に虐待を受けていた。母松も、同じであり、隣家の修造がたびたび止めに入っていた。
 政次は、腹を刺され殺される事件が起こった。真っ先に松が自首したが、続いて修造も名乗り出た。二人の共謀と思われた。
 千鶴は、幼い太一を不憫に思い親切心から、世話を焼くようになった。

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