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お千鶴さん事件帖「片恋」第二話②/3
(ニ)
先に六軒堀長屋に戻った千鶴は、奥の部屋から、小さな中庭を覗く様に少し戸を開けた。そこいらの長屋よりも格別にいい家を、橋蔵の顔で借りることができている。
午後には陽も照り、雪はあらかた消えてしまった。はばかりの横に残る僅かな雪を見つけると、千鶴は、勢いよく飛び出した。両手ですくって、掌に乗るほどの小さな雪だるまをこしらえ、橋蔵に見えるようにどこへ置こうかとしばらく思案する。冷気が身にしみ始めた頃、はばかりの中に飾ることしか思いつかなかったので、そっと置いた。
その晩、橋蔵が帰ると、
「雪だるまに尻を見られちまった」と愉快そうに笑っていた。夕方から冷え込み、まだ解けずに残っていたのだ。
夕げの支度をしながら、聞き込みの成果を聞かせてもらった。
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