それだけの愛
平日に
早起きして
山手線にゆられれば
わたしは社会のひとりになれる
渋谷で降りて坂をのぼり
パン屋と本屋に寄って
青山の街をのんびり歩けば
ちょっとおしゃれなわたしになれる
オーケーストアで
安いからとたくさん買って
両手にぱんぱんのエコバッグを持てば
まるでわたしは理想的な奥さんになれる
家事を終えて
じぶんのために紅茶をいれて
部屋にオレンジのライトを灯せば
だれにも思い出されない透明な存在になれる
ここにいれば
靴を履かなければ
愛なんて知らないわたしでいられた
それだけのことだった