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ブルーグラス名盤探訪『J.D. Crowe & the New South』(1975年)
毎年新緑の季節になると、ブルーグラスが聞きたくなる。本能的なものか、その言葉の響きからくる「刷り込み」に近いものなのかはわからない。
ご承知のとおり、「ブルーグラス」というジャンル名は、この音楽スタイルを確立したビル・モンローのグループ名「ブルーグラス・ボーイズ」に由来する。1930〜40年代にかけて、スコットランドやアイルランドにルーツを持つアパラチア地域で歌い奏でられていた民俗音楽にブルース
ジェイムス・テイラー コンサート雑感(2024年4月6日 東京ガーデンシアター)
ジェイムス・テイラーは、私にとって特別な存在だ。14〜5歳の頃に初めて聞いて以来40数年、ジェイムスの音楽は常に私の人生のBGMだった。20歳前後の多感な時期、彼の曲はジャクソン・ブラウンの曲とともに、私の人生の「道標」だった。「Country Road」や「Riding On A Railroad」に自分探し・アメリカ探しの旅に出る勇気をもらい、疲れた時には「Yon Can Close Your
もっとみるL.ヘルム/J.キャッシュ/E.ハリス/C.ダニエルズらによる出色のコンセプトアルバム『The Legend Of Jesse James』
前回の記事でエミルー・ハリスの2番目の夫ブライアン・アハーンについて、彼が関わった70年代の作品を軸に取り上げた。一方で、エミルーの80年代を語るとき無視できないのが、3番目の夫ポール・ケナリーの存在だ。今回は、このポール・ケナリーについて、彼を語る上で鍵となるアルバム『The Legend Of Jesse James』を軸に掘り下げたい。
アルバム『The Legend Of Jesse J
プロデューサー ブライアン・アハーンと「White Line」
少し前にエミルー・ハリスの初期の曲「アマリロ」(Amarillo)について書いた際、彼女の当時のプロデューサーであり、その後夫にもなるブライアン・アハーンについて言及した。70年代のカリフォルニアにおいて、ロックサイドからのカントリーロックでもナッシュビル産のカントリーでもない、独自のカントリーミュージック・モデルの形成に寄与したという意味で、ブライアン・アハーンの果たした役割は大きいはずだが、そ
もっとみる新譜レビュー:John Leventhal 『Rumble Strip』
今回は、1月末に発表されたジョン・リヴェンサールのデビューアルバムを取り上げたい。「デビューアルバム」と言っても、彼はぽっと出の新人などではない。それどころか、プロデューサーとして19回もグラミー賞にノミネートされ、そのうち1998年にはプロデューサー&コンポーザーとして「ソング・オブ・ザ・イヤー」と「レコード・オブ・ザ・イヤー」も受賞している。90年代以降、「アメリカーナ」と言われる分野の一翼を
もっとみるボズ・スキャッグスとジェフ・マルダーの 一見意外な音楽的共通項
前回、ボズ・スキャッグスの音楽的ルーツに触れた記事を書いた際、彼の実質的ファーストアルバム『Boz Scaggs』(1969年)を聞き直していたのだが、そんな中でちょっとした「気付き」があった。それは、ボズの根っこにある音楽性とジェフ・マルダーのそれとの共通点だ。例えば、アルバム『Boz Scaggs』には、一般的な彼のAORイメージからはほど遠いカントリーブルース的な要素が垣間見られる。ボズがヨ
もっとみるボズ・スキャッグスの音楽を何と形容するか?
ボズ・スキャッグスが来日する。ここのところ東京公演1回切りという海外アーティストが多い中、2月19日の東京から3月1日の福岡まで、なかなかのサービスぶりだ。ボズの来日は、1978年の初来日から今回で何と23回目になるという。それだけ彼が日本のファンに愛されているということだろう。
ボズのコンサートは今までに4回見た。最初に見たのは1983年。ジョー・ウォルシュ、マイケル・マクドナルドとのジョイン
新譜レビュー:Sarah Jarosz 『Polaroid Lovers』
今回は、先週(2024年1月26日)発表されたばかりの真新しいアルバムを紹介したい。シンガーソングライターであり、マルチインストゥルメンタリストでもあるサラ・ジャローズの7作目にあたる新作『Polaroid Lovers』だ。最初に言っておくと、このアルバムは従来のサラ・ジャローズのイメージからするとかなり異色のアルバムだ。今までサラのことを知らなかった人には、そのことを知っておいてもらいたい気は
もっとみるウィリー・ネルソン 「Me and Paul」
先日、ナッシュビルを訪れた際の古い話を書いたが、結果、自分自身がそれに感化されて、このところカントリーのアルバムを久しぶりによく聞いている。そんな中、今までさほど聞いていなかったウィリー・ネルソンのRCA時代(1965〜72年)のコンピレーションCDも引っ張り出してきたのだが(彼のRCA時代のアナログ盤は日本ではまず見かけない)、そのCDの1曲目「Me and Paul」の歌詞が今まで以上に耳に留
もっとみるナッシュビル紀行1987ー後編〜その頃のカントリーミュージック
今から37年前の1987年にカントリーミュージックのメッカ、テネシー州ナッシュビルを訪れた際の旅行記。後編の今回は、到着2日目、カントリーミュージック・ビジネスの拠点であるミュージックロウを訪れた際の記憶から。(旅の前編については下記リンクをご覧ください)
1987年3月15日、日曜日。この日は朝からミュージクロウ(Music Row)に向かった。ミュージクロウと言うのは、ナッシュビルのダウンタ
ナッシュビル紀行1987ー前編〜ナッシュビルへの道
今回はカントリーミュージックのメッカ、テネシー州ナッシュビルを訪れた際の古い記憶を辿ってみたい。先日のナンシー・グリフィスを紹介する記事の中で、彼女の出身地であるテキサス州オースティンがルーツ系音楽のライブミュージックのメッカであるのに対し、ナッシュビルはカントリーミュージック・ビジネスの集積地であると書いた。また、以前のクリス・ヒルマンの記事では、アメリカのカントリーミュージック業界はロックやポ
もっとみる新譜レビュー:『More Than a Whisper: Celebrating the Music of Nanci Griffith』 (Various Artists)
今年(2023年)9月に発表された、故ナンシー・グリフィスの音楽を讃えるトリビュートアルバム『More Than a Whisper: Celebrating the Music of Nanci Griffith』を紹介したい。2021年に68歳で亡くなったナンシー・グリフィスは、80〜90年代を中心に活躍したテキサス出身の女性シンガーソングライター。一般的な知名度は高くないが、アメリカ深部の市
もっとみるナンシー・グリフィス・トリビュートアルバム・レビューへの前書き(後編)
今年9月に発表されたナンシー・グリフィスへのトリビュートアルバム『More Than a Whisper: Celebrating the Music of Nanci Griffith』を紹介する前にナンシー・グリフィス自身のことを知っていただくコラムの後編。今回は、私がナンシー・グリフィスを本格的に聞くようになった1993年の話から。(前回の内容は下記リンクをご参照ください)
フォークソング
ナンシー・グリフィス・トリビュートアルバム・レビューへの前書き(前編)
今回取り上げたいアルバムは、この秋(2023年9月末)に発表された新譜で、タイトルは『More Than a Whisper: Celebrating the Music of Nanci Griffith』。2021年に68歳で亡くなったシンガーソングライター、ナンシー・グリフィスの音楽を讃えるトリビュートアルバムだ。しかし、ナンシー・グリフィスと言っても、ご存じの方は少ないかもしれない。何しろ
もっとみるデニー・レインの訃報に想うこと
今週初め(12月5日)、ウィングスの元メンバーでムーディーブルースの創設者のひとりでもあったデニー・レインが亡くなった。死因は間質性肺疾患、79歳だった。かつての仲間、ポール・マッカートニーも早々にSNSに追悼のメッセージを載せていた。
デニー・レイン個人の音楽については、私自身さほど入れ込んでいたわけではないし、ウィングス以降の彼の活動についても詳しくは知らない。ただ、ウィングスを多少なりとも