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オリジナル小説を書いていきます。 遅筆ですが、読んで頂けると嬉しいです。
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記事一覧

【創作百合】no title 02

Moonlight Serenade せっかくならその瞬間まで起きていようと、ポーカーやら花札やらで時間をつぶし、燃え朽ちる薪を尻目に、今は本を。
療養に家元を離れ来た少女と、その町に建つ屋敷の少女とが出会うあたりで、私を呼ぶ声が聞こえた。この人は緋い糸を探り解く、探偵の話を読んでいたんじゃなかったかしら。

「あのさ、もしよかったら……」

リンゴとはよく言ったものね。熱でもあるのかと思うほどに

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【創作百合】no title 03

Daffodil うたたね 背の高い棚にはたくさんの本。木のデスクには、先程まで読まれていたらしいのが数冊、開かれたままになっている。そして、それらを先程まで読んでいたらしいのが1人、折り曲げた両腕に顔をうずめている。シャツを着込んだ背中が、膨らんでは戻るのを規則的に繰り返す他は、どこも微動だにしない。

 まったく、まだ寒い日が続いているというのに何も羽織らず……。

 ん……。水の中にいるみ

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【創作百合】no title 01

【創作百合】no title 01

星空の下、丘の上で、好きな人の隣でギターを弾く
隣にいるのは大切な人で、安直に触れてはいけないほど、尊い人。

空気の澄みきったこの季節、二人で丘の上、隣り合って座っている。どちらが誘ったのか、どういう経緯でこうすることになったのかは忘れてしまった。彼女は覚えているかもしれない。しっかりしているから。だけど、もうそういうのはどうでも良いんだ。今大切なのは、そういうことじゃないから。
彼女は隣でただ

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207ページ目の珈琲の染み 05

207ページ目の珈琲の染み 05

2人は夕方まで談笑していた。

大学のことだの、本のことだの、コーヒーのことだの、、、
(コーヒーの話はほとんど伊達の熱弁だった)

2人は仲睦まじく、少しぎこちなく喋っていた。

女が伊達を夕食に誘い、2人は家を出た。
何を食ってくるのかはわからないが、うまいコーヒーがでる店なら、伊達は喜ぶだろう。

本屋にいたころ、中学生くらいの男児がこう言っていた。

「腹が減って吐きそうだよ〜。」とな。

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207ページ目の珈琲の染み 04

207ページ目の珈琲の染み 04

来客俺がこの家に来てから、7日目。
伊達は珍しく、掃除をしていた。
こいつの部屋はそこまで汚れていないから、伊達は掃除をあまりしない。
コーヒーミルの掃除は、よくするが。

掃除機をかけ、換気をした。
3日間、干しっぱなしにしてあった洗濯物を、一つ残らずかたした。

昼を少し過ぎた頃、家のチャイムが鳴った。
伊達は洗いかけの食器を放って、玄関へ向かった。
あの平皿は、もう一度洗う羽目になるだろう。

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207ページ目の珈琲の染み 03

207ページ目の珈琲の染み 03

 レンズこいつは大学生で、一人暮らしをしている。
部屋は適度に掃除されていて、適度に散らかっている。
自分でこしらえたとみえるカウンターの上には、コーヒーミルとドリップポットが隣同士でなかよく並び、部屋にはコーヒーの匂いが充満している。

ベランダに近いところに置いてあるテーブルの上が、俺の居場所になった。
とりあえず。

こいつにあだ名をつけてやろう。
学生証からわかったが、本名は”✕✕✕✕✕”

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207ページ目の珈琲の染み 02

207ページ目の珈琲の染み 02

 空気感起きたぜ。さすがに。
この持ち歩かれている感じ、久しぶりすぎて酔いそうだ。
ちょっぴり乾燥した手が、俺を握りしめている。

俺は、買われる、、、?
今更よろこぶわけでもないが、環境が変わる。それはいいことだ。

店の主人は淡々と、会計をすすめる。
人間のくせに、感情を持ち合わせていないかのようだ。
たしか、玉ねぎ臭かったあのおばさんを前にしても、こんなだった。

「カバーは付けますか。」

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207ページ目の珈琲の染み 01

 俺のいる本屋1年間に出版される本の出版冊数はおよそ7万5千冊。
1ヶ月にすると約6千冊、1日にすると約2百冊。

そんで、俺はそのうちの1冊。

20年くらい前に出版された、全共闘についての本だ。
今でこそウィキペディアに書かれていそうなことが、
だらだらと綴られている。

こんな本、誰も読みやしない。

そんなこと、店主だって分かってるだろう。
だが、この店の主人は、ずっと俺を本棚の隅に置いて

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