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207ページ目の珈琲の染み 04

来客

俺がこの家に来てから、7日目。
伊達は珍しく、掃除をしていた。
こいつの部屋はそこまで汚れていないから、伊達は掃除をあまりしない。
コーヒーミルの掃除は、よくするが。

掃除機をかけ、換気をした。
3日間、干しっぱなしにしてあった洗濯物を、一つ残らずかたした。


昼を少し過ぎた頃、家のチャイムが鳴った。
伊達は洗いかけの食器を放って、玄関へ向かった。
あの平皿は、もう一度洗う羽目になるだろう。

「やあ。」
「ええ。」

女。
髪は長く、ほんのすこし茶色がかっている。
えんじ色のロングコートに、小さなバッグ、
筋の整った鼻の先は、ほんのり赤みがかっている。

伊達は左手で、セーターの背中の裾を握っている。
握ったまま、女を部屋に招き入れた。

「今日はとっても寒いわ。今季最低気温ですって。」
「ふうん。たしかに、換気がつらかった。」
「換気をしたの?だから、室内なのに寒いのね。
 換気は良いことだけれど、女の子を呼ぶ時は、部屋は温めておくものよ。」
「そうか。」
「そうよ。」

「、、、コーヒーは?」
「もちろん、いただくわ。」

伊達はなんだか嬉しそうだ。
いつもどうりの手順で、いつもより多い分量で、コーヒーを用意する。


女は部屋を一通り見渡して、ベランダよりの位置にある、テーブルの上に目を留めた。

「珍しい本を読むのね。」

俺のことか。

「ん、、、。2〜3年前に、話を聞いたことがあったんだ。
 それで、ちょっと気になって。」
「ふうん。」

俺も、ふうん。だ。
そういうことだったのか。

「読んでもいい?」
「ああ、構わないよ。」

俺はしっとりとした、柔らかい手に包まれた。
なんだか嬉々とした感じの目が、俺を覗き込む。

女は、コーヒーを飲みながら、俺を数ページ読んだ。
伊達はその前で、コーヒーを満足そうにすすっている。

「、、、いいけれど、ちょっと読みづらいわ。何年前に書かれたの?」
「さあ。でも、僕はなんだか好きなんだ。」
「、、、そう。」

部屋は少しずつ温まってきた。

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