207ページ目の珈琲の染み 03
レンズ
こいつは大学生で、一人暮らしをしている。
部屋は適度に掃除されていて、適度に散らかっている。
自分でこしらえたとみえるカウンターの上には、コーヒーミルとドリップポットが隣同士でなかよく並び、部屋にはコーヒーの匂いが充満している。
ベランダに近いところに置いてあるテーブルの上が、俺の居場所になった。
とりあえず。
こいつにあだ名をつけてやろう。
学生証からわかったが、本名は”✕✕✕✕✕”と、めんどくさい。
何にしようか。
あだ名を決めるときの要素は、主に3つある。
一つ、本名。
一つ、癖や行動パターン。
一つ、外見。
こいつの本名は吐き気がする程どうしようもないから、だめだ。
癖や行動パターンは、今のところわからない。まだ会って半日もたっていないのだから。 というか、むしろ失礼だろう。
じゃあ、外見か。
メガネ、そこそこ長身、黒髪天パ、細い、白い、、、。
くそう、モテそうなやつだ。
、、、こいつのあだ名は、まだ”こいつ”だな。
こいつはとかくコーヒーを飲む。
朝に一杯、でかけるときは水筒に、夕食後に一杯。
俺が知らないだけで、もっとかも知れない。
こいつが俺のことを読んでくれているときは、いつもコーヒーを飲みながらだ。
コーヒーを飲むに至るルーティンはこんな感じだ。
お湯を沸かす。
冷蔵庫から豆を出す。
豆を量る。
ミルで挽く。
ドリップポットにお湯を移す。
ドリッパーとペーパーをセットする。
淹れる。
コーヒーをいれたカップをテーブルまで運ぶ。
一口飲む。
俺を読む。
俺としては、少々めんどくさい。インスタントじゃ駄目なのか?
、、、俺は飲んだことないからわからんが。
5日経って、わかったことを述べよう。
こいつのメガネは、伊達だ。レンズが入ってない。
なんで掛けているのか、わからん。
目はいいらしい。かなり離れた位置から時計を正確に読んだ。
格好つけるためか?、、、しかし、こいつは部屋でもずっと掛けている。
よし、
こいつのあだ名は、伊達だ。
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