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矢口れんと
2019年8月7日 05:57
恵まれなかった手ばかり見つめ、踏みしめる踵の感触を忘れる。果たして「恵み」とは「なければならない」ものだったか。手の先にぼやけていた大地を見遣る。焦点はうまく合わないが、いつもそこにあったらしい。踵の微かな痛みに気づく。傷ついたのは顔でも心でもなかった。私は…何を怠ってきたのか。
2019年7月30日 06:43
誰も彼もが喋りすぎて、夜が来るのが遅くなった。夜が来るまで喧しくなった。それは今日という日に今日を置いて行けなくなったことだ。疲れなくては眠れないなんて…… 〔詩に寄せて〕*
2019年6月28日 11:30
あなたと時間の両輪がいつの間にか共に廻り出しよく私を連れて出かけた未だ知らない私のところへ宇宙のような小箱のような暗いばかりの秘密の場所で悦に顔をほころばせたダリア背のびをやめないサルスベリ時の散りばめられた堆肥に合わずに枯れゆく芽もあれば徒に増え手に負えなくなった花々も見た–– 園の主?––あなたじゃないし私でもないひとり 立ってみる背にした陽から放たれる粒
2019年6月16日 12:58
かの眩さに粉々に散る雲の真下で 千切れたがったこの身がひとつ つなぎ止めている宿命ひとつ 許されたのは内に広がる時の空だけ
2019年4月4日 21:10
心ゆらゆら瞳も揺れる鏡を見ればまた取り繕う誰かが言った「私はいない」 信じられること信じることどんな本にも書いていない誰の口からも出ない言の葉 ーーそれは誰かの涙の底に宿る詩誰かの瞳に火を灯した詩言葉であることを忘れた詩
2019年3月11日 08:08
「大丈夫だ」と、ことあるごとに諭し続けてくれた海。「大丈夫だ」と、日々を想って語りかけてみる、立つ波に。音は生まれる、内と外から同じ声響きぶつかる縁に。僕は生まれた、内と外から海が手をとり溶け合うしじまに。
2019年3月3日 00:25
さようならの足音は、絶頂の日にこそ鳴り響いていた。高らかに、そして痛ましく。委ねることも抗うことも、きっと在りし日の余情に過ぎない。不協和音を折り重ねるペダル。踏んだ足をまだ離さないのは、身を捧げると決めたから。あなたにではなく、祈ることにね。
2019年2月25日 23:23
戸を開いたら、春の香りが広がった。たしかに今朝は心叩く音を感じていた。 一瞬の風にさらわれる香気に、問いかけようとする口を噤めば、いつだって、世界は生まれ変わろうとする。いつかを知るのは今の私だけ。 ある夜に、悲しいアリアの種を包んで、胸元にそっと忍ばせていた。これ以上泣かないですむように、と。 さあ話そうか。夜の続きじゃなく、また手を繋いでさ。また新しく。
2019年2月21日 13:39
掴んだ手 懐に寄せて開いた手 何も残らない 時は大地と宙を巡り 砂塵にきらめく 夢のつぶてが 告げる みずから此処に佇めと
2018年12月31日 08:31
覚めたのはきっと現の方だ夢はありったけのあるだけの日々饗宴は ひとすじの星明かりへと楽園は 一輪の花へ 還っていく* * *2018年は大変お世話になりましたどうぞ良いお年をお迎えください矢口蓮人* * *