マガジンのカバー画像

RIPPLE〔詩〕

132
運営しているクリエイター

#随想

恵まれなかった手ばかり見つめ、踏みしめる踵の感触を忘れる。果たして「恵み」とは「なければならない」ものだったか。手の先にぼやけていた大地を見遣る。焦点はうまく合わないが、いつもそこにあったらしい。踵の微かな痛みに気づく。傷ついたのは顔でも心でもなかった。私は…何を怠ってきたのか。

地下の方舟〔詩〕

地下の方舟〔詩〕

誰も彼もが喋りすぎて、夜が来るのが遅くなった。夜が来るまで喧しくなった。それは今日という日に今日を置いて行けなくなったことだ。疲れなくては眠れないなんて…… 〔詩に寄せて〕



暁の下

暁の下

あなたと時間の両輪が
いつの間にか共に廻り出し
よく私を連れて出かけた
未だ知らない私のところへ

宇宙のような小箱のような
暗いばかりの秘密の場所で
悦に顔をほころばせたダリア
背のびをやめないサルスベリ

時の散りばめられた堆肥に
合わずに枯れゆく芽もあれば
徒に増え
手に負えなくなった花々も見た

–– 園の主?––
あなたじゃないし私でもない

ひとり 立ってみる
背にした陽から放たれる粒

もっとみる
四行詩 20.

四行詩 20.

  かの眩さに粉々に散る雲の真下で

  千切れたがったこの身がひとつ

  つなぎ止めている宿命ひとつ

  許されたのは内に広がる時の空だけ

短詩

短詩

心ゆらゆら瞳も揺れる
鏡を見ればまた取り繕う
誰かが言った「私はいない」

信じられること信じること
どんな本にも書いていない
誰の口からも出ない言の葉

ーーそれは
誰かの涙の底に宿る詩
誰かの瞳に火を灯した詩
言葉であることを忘れた詩

「大丈夫だ」と、ことあるごとに諭し続けてくれた海。「大丈夫だ」と、日々を想って語りかけてみる、立つ波に。音は生まれる、内と外から同じ声響きぶつかる縁に。僕は生まれた、内と外から海が手をとり溶け合うしじまに。

さようならの足音は、絶頂の日にこそ鳴り響いていた。高らかに、そして痛ましく。委ねることも抗うことも、きっと在りし日の余情に過ぎない。不協和音を折り重ねるペダル。踏んだ足をまだ離さないのは、身を捧げると決めたから。あなたにではなく、祈ることにね。

花の香の種

花の香の種

戸を開いたら、
春の香りが広がった。
たしかに今朝は
心叩く音を感じていた。

一瞬の風にさらわれる香気に、
問いかけようとする口を噤めば、
いつだって、世界は生まれ変わろうとする。
いつかを知るのは今の私だけ。

ある夜に、
悲しいアリアの種を包んで、
胸元にそっと忍ばせていた。
これ以上泣かないですむように、と。

さあ話そうか。
夜の続きじゃなく、
また手を繋いでさ。
また新しく。

四行詩 16.

四行詩 16.

   掴んだ手 懐に寄せて開いた手

   何も残らない 時は大地と宙を巡り

   砂塵にきらめく 夢のつぶてが

   告げる みずから此処に佇めと

四行詩 15.

四行詩 15.

覚めたのはきっと現の方だ

夢はありったけのあるだけの日々

饗宴は ひとすじの星明かりへと

楽園は 一輪の花へ 還っていく

*  *  *

2018年は大変お世話になりました

どうぞ良いお年をお迎えください

矢口蓮人

*  *  *