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ショートストーリー

86
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2023年3月の記事一覧

光って見える

光って見える

この島を出たいのかな、わたし。
こんなに広い海の向こう側を、奥の、奥のほうを見てる。
朝になれば、あそこから光が見えるんだ。波がキラキラきれいに光って、わたしが主人公の一日がはじまる気持ちになる。
だからね、たまにだけど、それにあわせて秘密で歌ってるんだ。

歌手になって、みんなの一番になったら……。
そのなかに、みんなはいてくれるのかな。

なんか、わたし、イヤなやつみたいだな。

この島を出た

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好みの問題

好みの問題

「あたまに『こ』がつくとさ、なんかムカつかね?」
ウサギは、ソファに深く座って宙を見上げている。

「たとえば?」と、ニワトリ。

「小難しい。小癪、小洒落てる、小うるさい。『こ』にさ、イヤな気持ちがこもってるんだよ。相手を下にみたようなさ」
ウサギが足を天井に向けながら、ソファの背もたれクッションに頭をバウンドさせている。

「お前が、そういうのを選んでるだけだろ」

「そうか?」

「そうだよ

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収集車

収集車

待っているのは、嫌いだ。
だが、待つしかないこともある。

たかだか一台のトラックを待つだけで、なんでこんなにヤキモキしなくてはいけないのだ。
やめろ。落ち着いて待てばいいのだ。
そう。だた平穏にしていればいい。

砂浜の波のように。
よく晴れてあたたかなビーチと、青く透き通った海。
白くきれいな砂に混じって、貝殻もあると良い。
イヤホンからはハワイアンミュージックをながす。

もうすぐ午前八時。

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独占欲

独占欲

「とりかえしてぇ」

もう、いい加減にしてくれ。
何回言ったら、気が済むんだ。同じことばかり言いやがって。
あれは僕の鳥だったんだぞ。
それを返せって? 都合がいいにもほどがある。

そんなとこで寝転がったままで、こっちを見てんじゃねぇーよ。
眉一つ動かしやしない。
女はみんなそうなのか?
男に要求するだけで、なんでも思い通りになると思ってやがる。
しかも、もう持ってる癖にそれ以上を欲しがる。

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卵が先か?

卵が先か?

美味い卵を産み出し続けて、いずれ死ぬ。
その時がきたら何となく理解し、恐怖し、感謝なんてないとしても終わってしまう。
それを残酷だと、声をあげるヤツがいる。
苦しく終わるのは、駄目なのか。
殺す為に生まれては、駄目なのか。
生まれてこないほうが、絶対いいのか。
苦痛は認めても、喜びの可能性は無視するのか。
始まる前なら、殺したことにならないのか。
こんなことを思うのは、冷たいのか。
苦しい最後を予

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オバケはこわい

オバケはこわい

「オバケはさ、見えるから怖いんだろ」
「そうか? 聞こえるからかも。」

「近くに寄ってくるからじゃないか?」

「たぶん反射的に目を閉じるのは、心を防御してるんだ」
「へー。じゃあ永遠に防御しようと思ったら、死んじまうのがいいのか?」

「そんなことしたら、毎日オバケに会うようになるけどな」

ウサギとニワトリは、側に立つオバケを睨みつける。
「なぁ、会話に入ってこないでくれるか? 気が散るんだ

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「なあ、ヤブカラボウって知ってるか?」

「なあ、ヤブカラボウって知ってるか?」

「なあ、ヤブカラボウって知ってるか?」

眉ををあげて、ニワトリが答える。
「いまのお前みたいに、突然なんかやってくる奴に使う言葉だよ」
「じゃあ、オレはいまヤブカラボウになったのか?」
そう自問するウサギは、悩むように腕を組む。

「いやいや」と、ニワトリは手を振る。
「お前がなったとかじゃなくて、藪の中から急に棒が出てくるみたいに突然でビックリしたときに使う、ことわざ? みたいな言い回しだよ」

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「オレって雑かな?」

「オレって雑かな?」

「なあ、オレって雑かな?なあ、どうだ?」
「その質問が雑だな」
「へー」
「その返事は、もっと雑だ」
「雑ってさ、こう、グチャグチャってなってることだろ?雑炊は、グチャグチャってつくるもんな。でもさ、雑煮はなんであんなにキチッとつくるんだ?」
「なんでだろうな」
「しかもさ、正月くらいにしか名前も聞かない。なんなんだ?つくる時期まで決まってる」
いつに無く真剣に悩む兎は、険しい顔をしている。
「な

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「なんでそんなに眠いの?」

「なんでそんなに眠いの?」

「なあ、なんでそんなにいつも眠いの?」 
兎は、目を閉じて座っているニワトリに聞く。
「べつにいつも眠いわけじゃない」
薄目をあけて横目で見るニワトリは、また目を閉じ、そのまま話す。
「目をつぶるとさ、自分の世界にはいれるからな」
疑った顔で兎が顔を近づける。
「へー。じゃあ、今は自分の世界か?なあなあ」
兎の追求に、ニワトリが一言。
「いや」

「なぁ、なんで春は花粉が多いんだ?」

「なぁ、なんで春は花粉が多いんだ?」

「なぁ、なんで春は花粉が多いんだ?」
兎が、となりで両目を瞑っているニワトリを肘でつつく。
「そりゃあ、春だし。なんか新しい生活のはじまりだって気持ちになるだろ」ニワトリが片目を半分だけあけ、また瞑る。
「あたらしい生命の季節ってことか?」
「ちがう」
ニワトリは寝ぼけたままだが、兎はそんなことには構わない。
「なぁって」
「んぁあ。ソワソワするだろ、だいたい。天気もいいし、気持ちも足取りも軽くな

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「なぁ、なんでお前は飛ばないんだ?」

「なぁ、なんでお前は飛ばないんだ?」

ある二人の日常

「なぁ、なんでお前は飛ばないんだ?」
兎は同じ小屋にいるニワトリを肘でつつく。
ニワトリは、それを煩わしそうに体を揺すっただけで返事をすまし、また白くきれいな羽を手入れしてる。
そんなことには構わず、兎。
「なぁって」
「んあぁっ、なんだよっ」
イライラしたニワトリが、空を睨みつける。
「あんな汚ねぇ空なんか飛んだら、羽が汚れちまう」

短い物語をよく目にするので、わたしも試しに

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