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記録たち

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小説・漫画・その他の感想や記録置き場。
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【読書記録】「明け方の若者たち」/カツセマサヒコ

【読書記録】「明け方の若者たち」/カツセマサヒコ

※このnoteは、「明け方の若者たち」のネタバレを含みます。

 この本を手に取ったのは、ほんの偶然だった。予定の時間までまだ余裕があったからと本屋に立ち寄って、話題の本の中で一際目を引いた。

 物語の始まりは、「勝ち組飲み」。大手に内定が決まった明大生が、俺たちは何かを成し遂げるんだ、すごいんだという根拠のない自信だけを持ってマウントを取るような飲み会をしている。

 冒頭から、身につまされる

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【読書記録】「さよなら、灰色の世界」/丸井とまと

【読書記録】「さよなら、灰色の世界」/丸井とまと

 あらすじを読んで、絶対買うと決めた。鮮やかな世界を知った人間が見る灰色の世界は、もとから灰色の世界を見ている人とは違い、褪せて見える気がするから。

 ある日突然、世界がモノクロになってしまった主人公の楓。楓は、いつも友達の意見にあわせてしまって、自分を見失っている。そんなところから物語はスタートする。見える色は、他人のオーラだけ。

 世界が灰色に染まり、オーラの色が見える以外は普通の青春スト

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【映画記録】エンパイア・オブ・ライト

【映画記録】エンパイア・オブ・ライト

 客先からの帰り道、勢いよく飛び出したせいか足を挫いた。誰もいない会社に嫌になり、仕事を投げ出して映画を見た。あらすじなど見ず、ただ時間の合う映画を選んでチケットを買った。そうして出会ったのが「エンパイア・オブ・ライト」だった。

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 舞台は1980年代のイギリス。海辺の街にある映画館エンパイアで働く女性ヒラリーの物語だ。

 ヒラリーはとある事情により精神的な病を抱えている

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【読書記録】「深い河」/遠藤周作

【読書記録】「深い河」/遠藤周作

 私はどちらかというと、玉ねぎを信じていない。それでも、生と死が集まる、悲しみと愛しさを集めたようなガンジス川については、とても興味があった。

 まだ私が社会人1年目のとき、一度だけ「深い河」を手に取ったことがある。あの時の私は、どこかに行きたくて救われたくて、でもそれは許されないから全てを無に帰すようなガンジス川に行きたかった。ガンジス川のことも、ヒンドゥー教のことも知らず、ただそういうものだ

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【読書記録】「私が大好きな小説家を殺すまで」/斜線堂有紀

【読書記録】「私が大好きな小説家を殺すまで」/斜線堂有紀

 『憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んで欲しかった』

 書店でタイトルに惹かれてページを捲った。最初の一文を読んで、これは読まねばならないと思い、躊躇うことなくレジへ向かったのを覚えている。これほどまでに惹きつけられる一文がここに存在する。その高揚感を思い出し、私

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