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【読書記録】「さよなら、灰色の世界」/丸井とまと

 あらすじを読んで、絶対買うと決めた。鮮やかな世界を知った人間が見る灰色の世界は、もとから灰色の世界を見ている人とは違い、褪せて見える気がするから。

 ある日突然、世界がモノクロになってしまった主人公の楓。楓は、いつも友達の意見にあわせてしまって、自分を見失っている。そんなところから物語はスタートする。見える色は、他人のオーラだけ。

 世界が灰色に染まり、オーラの色が見える以外は普通の青春ストーリー。主人公の楓が自分を出すために、自分のなりたい色を決めて少しずつ行動をしはじめる。もちろんその側には、友達がいて背中を押してくれる。

 楓は周りの目を気にして、悪い方に悪い方に考えてしまう癖がある。嫌われたらどうしよう、居場所がなくなったらどうしよう、相手を不快にさせたらどうしよう…。そんな不安ばかり抱えている。読んでいてとても心当たりがあるなぁと思った。

 自分の学生時代を思い返すと、確かに学校が世界の全てだったように思う。日中のほとんどを過ごす学校で、自分の居場所がなくなるのはとても怖い。特に学生という立場はなかなか自分の意思で逃げることができない気になる。大人になってから思えば、そんなことはないのだけど。

 私の学生時代は、少ない友達から嫌われないようにと気を遣っていた日々だった。楓よりは自分の意見を表に出していたけれど、仲の良い友達がいなくなると怖いなという感情は常にあった。本音をひた隠しにすることも多々ある。もちろん処世術でもあるのだけれど、疲れてしまうのも事実だ。

 今思えば、相手を思いやる気持ちと自分の意見を表に出すことは共存できる。楓も同じように、相手を思いやりながらも自分のやりたいことを大事にしている。なりたいと思った自分になるために、自分を大事にするために、一歩踏み出すのだ。

 本作の楓は学生時代の私と違ってバイトをしている。学校以外でも自分の居場所があったことが、彼女にとっては救いだったのだろう。学校では怖い噂で避けていた同級生と関わることで学校にはない居場所を見つけた。それは、学校生活にも波及していく。

 さらさらと流れるような文章で描かれる心理描写は必読だ。世界が色づく瞬間のきらめきは本当に自分の目の前で色づいていくかのようだった。

 私の色は何色か、そんなことを考えながら本を閉じる。なりたい色になればいい。この本がそう教えてくれたから、なりたい色になるために勇気を出して一歩踏み出してみよう。

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