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ミステリー小説 第三話 (最終話)
そう、あの人……04号室の男だった。
妹をジロジロとみていた大嫌いな瞳が僕を見ている。
「久しぶりだな」
04号室の男は小声で話し始める。
「自己紹介をしてやろうか。俺の名前は加藤罅だ。聞き覚えあるだろう?」
罅といえば、小さいとはいえ強力な暴力団のボスだ。
テレビが一時期この男がどーたらこーたらで騒いでいた。関心が薄すぎて、よく覚えていないが。
「おい、少年。用があるのはお前なんだ
ミステリー小説 二話 (全三話)
「佐久くん、あなたよ」
沈黙の時間は長かった。
僕が理解できていない時間、美琴はずっと僕の目を見つめて、絶対にそらさなかった。その眼力に押し入れられるように僕の心にポンと彼女の言葉が放り入れられた。その言葉をゆっくりゆっくり僕の心が消化していく。
「あ……えっと」
始めに僕が吐いた言葉は特に意味があるものではなかった。
それから美琴の言った言葉の馬鹿らしさが追い付いてきて、僕は声を出して
ミステリー小説 一話(全三話)
朝起きると、妹が死んでいた。
白いシーツは赤く染まって幻想的だ。
警察は、すでにホテルの職員によって呼ばれていたようだ。外ではパトカーのサイレンが鳴り響いている。
まだ夢の中にいるみたいだ。
ぼうっとして状況が飲み込めない。
特に、シーツを染める赤は美しすぎて、現実味を奪っていった。
しかし、ぼやけた頭でも体はハッキリとことの重大さが分かっているらしい。金縛りにあったみたいに、動けない
短編小説 バスに乗りたい彼女
太陽が白い。
入道雲が目立つ真っ青な空は汗ばむ季節の象徴だ。
大きな荷物を持っていた右手には鞄の跡がくっきりと残っている。
バスはもうとっくに行ってしまったらしい。
「環境を変えれば気分も変わる」
そう進められて、緑が綺麗な田舎に一週間くらいの旅行を計画したのだが、暑苦しいだけだった。
もともと飽きやすい性格だった俺は一週間の宿泊を三日で断念。
帰路につこうとしたものの、なんとバスが