(すぐ終わる)短編小説 知らず知らず

彼女のことを、大嫌いな彼女のことを、なぜか今夜も思い出す。

好きな人より、嫌いな人が目につくのは、不思議なようで必然らしい。

長所よりも、短所。

そういう目の持ち方しかできない。

今夜は特に、自分の短所や、過去の恥ばかりが思い出されて胸がむかつく。

そして、私よりも性格の悪いはずの彼女がチヤホヤされているのが悔しくて、羨ましくて……。

そう思う度に自分がすさんでいくようで、ずるい自分が見えるようで……。

何を考えても悪い方にしか向かない。

たまらなくなってパソコンをつけた。

―—誰かにこの苦しみを理解してほしい。

その一心で「FTRE」に、自分の思いを書き綴った。

「FTRE」とはSNSの意見交換を目的としたサイトである。

荒い呼吸を整えながら「投稿」をタップした。

顔を伏せて、胸のむかつきが去っていくのを待つ。

ピロン

軽快なその音に顔を上げると、「いいね」が一つがついていた。

「共感」というのは恐ろしい。

私はそのたった一つの「いいね」で、慰めれられるような気がした。

「いいね」をしたのは「sky」。

はじめて見る名前だった。

アイコンをタップするとskyの投稿がずらりと並んで現れた。

「過去の私は恥ずかしいことばかりしていた」

「どうにもならないことほど重大なことだったりする」

「いつも不幸なのに、この先のいつかも幸せではないらしい」

「忘れられたら楽になるだろうか」

そのすべての投稿が私には共感できるものばかりだった。

あるいは私の抱える苦しみは普遍的なものなのかもしれない。

しかし、私は「普通」ではありえないほどの失態をおかしている。

誰かの「最悪」がむしろ羨ましいほどだ。

skyも同じように思っているだろうか。

「フォロー」をタップしてパソコンの電源を落とした



朝、起きて、今日に希望を感じられるのは本当に久しぶりだった。

パソコンを覗くとskyが新しい投稿をしていた。

「いいね」を押してそそくさと制服に着替える。

今日こそは彼女を気にせず過ごせるだろうか。

今日こそは小さくとも何らかの「成功」があるだろうか。

顕微鏡でやっと見えるほどの期待を胸に抱いて玄関の扉を開いた。



東京スカイツリーの上から見下ろしてやっと全体がみえるほどの不安と嫉妬と失態とを背負って玄関の扉を開いた。

服を洗濯機に放り込んで、緩い部屋着に着替えるとどっと疲れた。

明日、学校にいける気がしない……。

重苦しいため息をついて冷凍庫の棒状のアイスを口に突っ込んでベランダのドアを開けた。

外に出ると風が心地よい。

上から見下ろす都市の街並みは綺麗で魅力的で爽やかで。それでいて、その内面は残酷。

手を伸ばせば指の隙間からビルが見える。

62階のここはどんなビルよりも高い。

ピロン

つけっぱなしになっていたパソコンから通知音が届いてハッと我に返った。

パソコンには「FTRE」からの通知が届いていた。

skyが新しい投稿をしたらしい。

早速開いて、skyの投稿を黙読した。

「今日もなに一つだってうまくいったといえるものはなかった。そえでも明日はやってきてしまう。明日、布団からはい出せる自信がない」

――分かる。

skyの投稿は痛いほどよくわかる。

いいねを押して、それでも満足できず、私はコメント欄をタップした。

「私も……」

一語、一語、よく考えて文を作った。

ここまで熱心に考え事をしたのは初めてのような気がする。

私にとってskyは自分と同じ苦しみを同じように背負っている、体をもつドッペルゲンガーのような存在になっていた。

だから、何でも分かってくれると思った。

何の根拠もなく、ただ一心に、そう信じれてしまった。


それから数か月。

私のコメントに興味をもったskyからDMがあり、私たちは個人で会話するようになっていた。

それは私の一日の唯一の楽しみだった。

話によるとskyは女性で、私と同い年。

何もかもが同じに思えてきて、気づけば私はskyにどんな秘密も明かしていた。

そう、大嫌いな彼女の話も。

嫌いだけど目に付く。ふとした意外な行動に好感を抱くけど、どうしても嫌いな部分が大きすぎて好きになれない。彼女のことがこれっぽちも理解できない。

そうした話をした。

skyは私のこの話にとても共感を寄せてくれた。

私にもそうした存在がいると。

好きだけど、嫌いなのだと。嫌いなのに気になるのだと。

もしも、何か一つでも相手の事を理解出来たら好きになれたりするだろうか。

そうも言っていた。

私も、そう思うと答えた。


それから月日は流れて、夏祭りの晩に会おう、という話になった。

skyが本当はやばい人だったら……、と考えもして、一応携帯は握りしめて、待ち合わせ場所よりほんの少し遠いところでskyを待った。

この夏祭りは私の家よりは遠いところで、初めて訪れた場所だった。

周りの騒々しさにあっけにとられていると、後ろでカラン、と音がした。

skyが来た。

そう思って振り向くと、そこにいたのは、意外というか、まずあり得ていいはずのない、松葉さなかだった。

松葉さなか。

私の嫌いな「彼女」だ。

「なんであんたがここに?」

私が考えるよりも先に尋ねると、さなかは私と同じほど驚いて同じ質問を返してきた。

「私は、待ち合わせだけど」

私が答えると、さなかもそうだという。

まさかと嫌な予感が頭をよぎってskyの名を口にすると、

「まさか、rain?」

と返ってきた。

rainは私のFTRE上の名前である。

つまりだ。

私たちはそれぞれ、嫌いな相手にこの上ないほどの共感と好感を寄せていたのだ。

私は帰ろうかと思った。

でも、と頭にある菅家がよぎった。

そう、skyはさなかだったのだ。

さなかは理解できなくとも、skyは痛いほどよく理解できた。

skyが彼女の「ありのまま」だとしたら?

私は帰路の方に向けていた足をさなかに向けなおして、その手をとった。

「花火、見に行くんじゃなかったの」

私が勇気を振り絞って、声を震わせながら言葉を投げると、さなかは素直に、そして、花火よりもずっと華やかに笑って頷いた。

私たちは互いのことをどこまで知って嫌っていたか。

それは直に分かる事だろう。

ただ、なんの根拠もなく、今夜は安らかに眠れるだろうと信じれてしまった。





こんにちは

こんです。

今回は友情物語(?)的な話になっています。

人には嫌いな人の一人や二人や三人や四人やいると思います。

というか私はいます。

でも誰かを嫌いだと思う感情を知っていることも案外大切な事かも。

嫌いな人なんていないよー、とかいっていっつもニコニコしてなんでも出来て何しても成功して誰にでも好かれて年上や年下とも仲良くて容姿完璧な人は特に嫌いになってしまいます。

まあ、妬んでしまうのでしょう。なんでもできる人の気持ちが理解できないというのもあるけれど。

けど人には欠点があると思うし、あっていいと思うんです。

なんでも出来てしまうのも欠点といえば欠点ですからね。

なんでもできる人や容姿完璧な人、まず、性格上ついていけない人などなど、嫌いだとはいいましたが、嫌いだからといってコロッと好きなっちゃいけない、なんて決まりもないと思っているし、なんでも決めつけないことですね。

嫌いな人でも知ってみようと思うことは大事です!

なんてくさかったかな……。

最後まで読んでいただきありがとうございます!(*^▽^*)








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