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斎王からの伝言

14
「第五世界の兆し」からの創作小説です
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斎王からの伝言【創作】14

斎王からの伝言【創作】14

14 オフ会

 2016年10月7日から10日まで野花菖蒲会Skype会議を経てとうとうオフ会を開催する事になった。開催場所は仙台のビジネスホテル。
 3人とも忙しく活動していたため時間が取れず『斎王からの伝言』のストーリーに加えるべく各々が調べていた事をじっくり語り合うためだ。

 エマは農業ヘルパーで働き始めてから2年の月日が経過していた。北海道2回、愛媛県、京都府と回り今現在は埼玉に戻って

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斎王からの伝言[創作]13

斎王からの伝言[創作]13

13 高砂

 2015年7月に福島では、39度という最高気温を記録した。9月に入ると関東から東北で豪雨が降り、茨城で鬼怒川が決壊、山形の最上小国川や宮城の渋井川等が氾濫して被害が広がった。

 ミキは、師匠より演目の一つを任されるまでに成長しハルの笛の音と仕舞いの息がピッタリだと評判になっていた。稽古に付き合って貰う頻度が群を抜いて多かったからだ。

 ミキは、ハルを意識してはいたが仕事仲間とし

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斎王からの伝言[創作]12

斎王からの伝言[創作]12

12 良心神

 2014年の12月23日にコウは働いているコールセンターの上司に告白するという暴挙に出ていた。働きながら漫画を制作するより、専業主婦となった方が現実的だと真剣に考えた結果、女好きで外見がスティッチのような魅力的な上司に白羽の矢を立てた。誰にでも優しく、仕事が出来て全体を総括する様に惚れていた。

 今年でコウは37才。スティッチは3つ年下の34才。しかも22才の若い女性好きを自認

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斎王からの伝言[創作]11

斎王からの伝言[創作]11

11  農業ヘルパー
 
 2014年5月下旬、エマは福祉施設の調理場仕事を辞めて、北海道の富良野に来ていた。調理師免許取得のために条件の合った調理場で働き、受験資格を得て去年合格した。そこで以前から考えていた農作業を経験するという計画を実行に移す事にした。
 コウもミキもあちこち飛び回って忙しくしているし、夏がすこぶる暑い埼玉県より涼しい北海道で半年弱過ごすのも悪くないと思ったのだ。

 富良野

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斎王からの伝言[創作]10

斎王からの伝言[創作]10

10 シテ方

 2013年9月下旬、ミキが能楽の世界に飛び込んでから一年が過ぎようとしていた。住み込みの修行は、基本的に師匠の身の回りのお世話や能を習いに来る生徒さん達の稽古部屋準備、そして能楽公演のサポートで、肝心な自分の稽古が師匠の隙間時間だけだった。運営の仕組みを把握出来る一方で、技術上達の遅延を歯痒く感じていた。

 内弟子は、住む所と食事は提供をされるが、お給料が支給されない。諸々の経

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斎王からの伝言[創作]9

斎王からの伝言[創作]9

9 流刑地

 2013年3月下旬、コウは日本の最南端である波照間島に来ている。去年の12月から沖縄、石垣島、西表島、黒島とアルバイトをしながら八重山諸島をめぐり、念願の島にやっとたどり着けたのだ。
 
 波照間島がコウにとって最終目的地となった理由が二つある。
 一つ目が、国立環境研究所が1993年から地球環境モニタリングステーションを建設して大気の観測をしている事だ。高精度の二酸化炭素の濃度測

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斎王からの伝言[創作]8

斎王からの伝言[創作]8

8 転職願望

 12月中旬、エマは自宅に居た。パソコンの前に座りプログラミングスクールをネットで検索している。今年(2012年)から中学校の技術家庭科で「プログラムによる計測・制御」が必修になっていたので、ますますその能力が必要になるだろうと考えていた。今すぐ仕事に就けるとは思わないが、将来的に準備だけはしておこうと学べる所を探していた。
 
 エマは人と関わる事に酷く苦痛を感じるため、家に引き

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斎王からの伝言[創作]7

斎王からの伝言[創作]7

7  幽玄

[幽玄]…奥深くて、はかり知れないこと。趣が深く味わいが尽きないこと。

 8月下旬、ミキは京都に来ていた。両親の説得と病院の引き継ぎで、能楽師になると決意してから準備が整うまで半年も掛かってしまったが、目処がついたところで予約した[ヴィパッサナー瞑想10日間コース]に参加するためだった。能楽の修行を始める前に、心身をニュートラルな状態にして、深い瞑想体験を味わいたいと考えていた。

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斎王からの伝言[創作]6

斎王からの伝言[創作]6

6 善く生きる

 3月上旬の土曜日、午後からチラホラと雪が降っていた。コウはお気に入りの紫色のコートを着て、メディアテークに来ている。図書館、イベントスペース、ギャラリー、スタジオからなる公共施設だ。一階にはカフェがあり、パニーニを注文して図書館で借りた本を眺めながらパクついていた。

「お待たせ~」身長180㎝の巨漢がコウの目の前にやって来た。黒いコートで何故か頭に年中サングラスを乗せている。

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斎王からの伝言[創作]5

斎王からの伝言[創作]5

5 感応現象
 
 今日の野花菖蒲会Skype会議は、珍しくいつもよりグダグダで時間が押していた。それぞれに報告したいことがあって一つ一つが重かったのだ。後半になると本能のままに行動するコウは眠くなり、人間嫌いのエマはイライラして、一番大人で一番年下のミキは落ち込んでいた。

エマ「全く理解不能です。」イライラすると途端に敬語を使いだすので分かりやすい。

コウ「えーそうかな。なんか分かる気がする

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斎王からの伝言[創作]4

斎王からの伝言[創作]4

4 野花菖蒲会

 2011年12月24日にコウ、ミキ、エマの女性三人が「野花菖蒲会」を結成した。活動目的は、日本文化から地球規模での女性の役割を考察し、世界へ発信することだ。

 もう何度目かの会議をいつものようにSkypeで開催した。なるべく皆が次の日が休みに行う事と、長くは話さずせいぜい一時間にまとめる事が続けるコツだ。夜10時頃、寝る準備をしてから会議が開始された。この時の準備した飲み物

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斎王からの伝言[創作] 3

斎王からの伝言[創作] 3

3 栄養士 エマ

 朝から呻き声が聞こえてくる。認知症の人たちが叫び声をあげるのだ。食事の介助など身の周りの世話をする雇われた人達がいるが、通いだったし大抵掛け持ちで、患者2人位を担当する。

 集中治療室以外は、個室などなく皆が寝たきりの状態だ。お見舞いに来る人はいない閉鎖病棟の有り様だった。
 
 短大を卒業すると同時に学校から紹介された所に何も考えず下調べもせず就職した。何よりギリギリの単

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斎王からの伝言[創作] 2

斎王からの伝言[創作] 2

2  能楽師 ミキ

 父親が医者だったため、小さな頃から厳しく躾られた。物心つく頃から畳の上に座布団を敷き正座をして勉強をした。子供部屋としての仕切りは無くリビングから姿が丸見えで、怠けることなど出来なかった。長女ということもあり医者になることが当たり前のように育ち、成績は中高ともトップクラス。大学は一浪して国立の医学部に合格し、卒業後は地元の病院で研修医として働いた。

 昔から鉱物に関心があ

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斎王からの伝言[創作] 1

斎王からの伝言[創作] 1

1 漫画家 コウ
 
 私にとって人生の転機は34才、2011年の東日本大震災だ。福島では原子力発電所が崩壊し放射能が飛び散った。全ての日常が揺らいでしまった時、自分は何か重要な事を見落としているのかもしれない、その何かを知らないまま死んで逝きたくないと強烈に思えた。

 20代はフリーターをしながら漫画を描いていた。雑誌に投稿したり持ち込みをしたが全く相手にはされなかった。自分から沸き上がる怒り

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